2話 作戦は順調?
日南さんに誓った日から一か月半が経った。
二人の仲は遠くから彼女が村田を悶々と眺めていたあの時と比べると進んでいると言える。日南さんの友人達にも協力をお願いして二人が極力同じ空間や二人きりでいるように促した。
例えば掃除当番だったり、先生の資料運びの手伝い等がそれにあたるがそこで少しでも接点が出来てしまえばお互い学校の美男美女だから勝手に仲良くしてくれると思う。
現にクラスで二人が一緒に話す機会は増えているし、村田もまんざらでもないようにしているのが傍から見ても分かる。
というかもう既に村田も日南さんを好きなんじゃないかと言う噂まで流れてるから実質的に両想いと言っていいかもしれない。
だから彼女と村田が付き合う為の計画の滑り出しは上々だ。そこで問題が生じればその都度修正を加えればいいのだ。俺と日南さんの友人達でな。
……そう日南さんの友人達とだ。俺のひらめいた天才的な計画もまた彼女の告白大作戦と並行して上々の滑り出しを見せている。
もはやもったいぶる必要はあるまい。俺があの日思いついた計画は簡単に言うとこうだ。
俺の知ってる中で男女問わず仲良くできているのは日南さんだ。その日南さんの告白を手伝う事で俺は一つ大事な名分を得る。彼女の女友達と協力する為に連携を取る事だ。
それすなわち日南さんの手伝いをするから相談したいと言う名目で俺は彼女達のSNSの連絡先を入手できるかもしれない。
後は情報交換でもしながら親睦を深めて行ってちゃんと友人になる事ができれば彼女達からまた新たな友人や他校の女子生徒を紹介してもらえるかもしれない。
つまり日南さんをスタート地点としてねずみ算的に出会いをどんどん増やしていく寸法よ。まさかあのニュースの通知でこんな事を思いつくとは。
……ぶっちゃけ俺のやる事って少々よろしくないかな? と思わなくもないが手段を選んでいては女友達なんて作れないからしょうがないじゃない!
現に俺の作戦は的中しなんと二十人くらい女の子の連絡先が増えた。
……いや多すぎじゃね? 日南さんの親友に告白大作戦を話したらいつの間にか話が広がってこんなに連絡先が手に入ったのだ。彼女の人望の高さが伺いしれる。
あとはここから人脈を広げていって俺と同じく誰でもいいから彼氏が欲しい軽い感じの女子にアプローチをかけていけば夏までには彼女が出来るはず!
勿論、狙うのはフリーで他に好きな人がいない子限定で。流石に俺みたいのが友達以上恋人未満とかの関係に割り込むのは凄い気が引けるし趣味じゃない。
結果、日南さんは想い人である村田と付き合える。俺は恩返しをしつつ日南さんの知り合いを通じて彼女を作るというWin-Winな関係を築けると言う訳なのだ。
もはや後顧の憂いもない状態で自分の才能が恐ろしい。
「ふっふっふ、あっはっはっは!」
『いつも美里と一緒にクレープを食べに――っていきなり変な声出してどうしたの?』
「あっはー!? なんでもないよ。……日南さんってクレープ好きなんだ」
『ええ、最近よく食べに行くのよ』
今、日南さんと電話してたんだ。余りに興奮しすぎてその事を忘れてしまった。
俺と日南さんはよく作戦会議を電話でしている。どのようにして最短で村田を物にできるかを逐一話しあっているのだ。自宅で掛けるから基本的に情報は外に漏れないし。
「そうだ、一個だけ聞きたい事があるんだけどいいかな?」
『ん? なになにー?』
さっきまで完璧とか言って余裕ぶっこいてたけど実は後顧の憂いが一つだけあったんだ。
「学校終わりの放課後に俺とこうして世間話してる時間を村田との時間にあてた方が良くないかな?」
『……学校でほとんど話さないから放課後くらいいいでしょ?』
彼女の恋の為とは言え特定の男子と接触する所を村田に見られた場合を考慮すると非常に悪手だと思い俺が学校では不干渉を提案したのだ。
だから必然的に彼女との作戦会議は電話だったりSNSで行う事になる。当然連携を取れるように少しは世間話でもしておいた方がいいのは事実だろう。事実なのだが……
「毎日三時間はなげーよ」
『三時間!? 本当だ! 時間がたつのは早いわねーっ!』
なんか楽しそうな声出しているけど毎日他の男に入れ込む女の為に莫大な時間を消費している俺の事も考えてよ。もうマジ無理……。いや必要経費なので文句等ないが。
「『早いわねー!』じゃないわい! しかも内容のほとんどが世間話じゃん!」
『そうだっけ? なんか朝倉君と話しているのが楽しくてすぐ時間が過ぎて行っちゃうわ』
そうだよ。最初こそは真面目に一時間かけて作戦会議していたのに最近は五分くらい作戦を話したらすぐに世間話に移行してずっと話している始末。
今は机の上で告白大作戦用のノートを開きながら電話しているのだけどこのノートをまともに使ったのは十日くらい前じゃないのか? ……クレープが好きなのはメモしとこうか。
極めつけはGWだ。この期間に村田とどこかに行けばいいのに結局どこにも行く事なく俺と話している始末だ。だから最近ちょっと不安を感じてきているのも事実。
さっき別の事を考えていたのは彼女の近況とかを聞くのに少し飽きてしまった結果なのだ。ごめんなさい。
勿論彼女には気持ちよく作戦を実行して欲しいから話に付き合っているけどいかんせん長すぎる。
他の女の子との仲も進めなければいけないので正直この会話の時間をもう少しでいいから短くしたい。意外とスケジュールはタイトなのだ。
「この時間を村田と一緒に過ごせばいいじゃないの」
俺は常々思っていた疑問をぶつけた。対して日南さんは非常に言いづらそうな雰囲気で口を開いた。
『え、うーん、実はね、村田君とはなんか話が合わないような気がするのよね』
「話?」
『あんまり他人を悪く言いたくないんだけど彼、結構性格が悪いというか家がお金持ちらしくてその自慢が多くて言葉の節々に周りを見下している感があるというか……』
今度はなんと村田に対しての愚痴が始まったではありませんの。そんなに溜まる物でもあったのだろうか。なんか彼女のテンションもどんよりしている。
基本的に二人が一緒にいる時は距離を離しているので会話の内容や雰囲気は分からないが後で詳しく聞いて悪い対応は修正しているのだ。
俺は村田と友人ではないので詳しくは知らないけど特に性格が悪い面は見受けられなかったから上手く隠しているだけなのだろうか?
彼女の村田の愚痴に対して俺はそれらしく相槌を打っておく。すると彼女は話している内に何か思いついたらしくいきなり『そうだ!』と大きな声を嬉しそうに出した。
『いい事思いついたわ! 学校で朝倉君と話していいなら電話の時間をちょっと減らせるわ! そうしない!?』
「いいわけないじゃん。もう少し考えて物を言えよ」
『ケチ』
誰がケチだ、はっ倒すぞ。……最近分かった事があるんだけど日南さんは結構気が強いというか我が強い。最近特にグイグイ来て少し驚いた。
彼女が学校で友人や村田と話す時は物静かでおしとやかなんだけど実は猫被っているのか? ……村田と似た物同士だなんて言ったら怒られそう。
まあ今はいい。そんな事は俺に関係はない。そして俺もいつまでも彼女との電話ばかりにかまけてないでやらなければならない事がある。
そう思いスマホをスピーカー状態にしながら机に置き準備していたポータブルDVDプレイヤーのボタンに手を掛けた。
軽快でカジュアルな音楽が俺の部屋を大音量で駆け巡ったので慌てて音量調整を行う。
『大丈夫!? なんか凄い音したけど?』
「ああ、ごめん。借りた映画を明日返さないといけないのにまだ見てなかったから電話と並行して見るわ」
『ゴメンなさい! だったら私凄い邪魔しちゃったじゃない! また明日ね! バイバイ!!』
「気にしないで。また明日―」
俺の返事を聞き終えた瞬間に電話が切れた。
どうやら静かに映画を見る事が出来そうだ。そして鑑賞のお供には必ずチーカマを用意する。これこそ人生で一番の至福の時だと言ってもいいね。
前にそれを日南さんに話したらただ一言『おっさん臭い』とだけ言われた。ほっといてくれないか?
しかし万全だと思われていた告白大作戦も少し暗礁に乗り上げてきたかもしれない。日南さんが村田に少し嫌悪感を抱いている感じがあった。これはいけない、よろしくない。
何故なら個人的にはまだ彼女の友人達と日南さんを抜きにして話すほどの仲ではないと思っている。つまり日南さんがここで付き合う事を止めると友人達と話しをする大義名分がなくなる。
しかし理由はどうあれ俺は日南さんを利用しているのだ。彼女が望まない形での作戦帰結は正直言えば避けたい。何とも難しい問題だな。
ちなみに発生の可能性はかなり低いしそもそも困難極まると思われるが日南さんが村田を好きでなくなったとしても俺が彼女をターゲットにして付き合う事はありえない。
別に彼女が嫌いとかではない。今回、彼女の友人達と協力体制を取れているのは日南さんを村田とくっつけると言う名分があるからだ。
しかしそれにも関わらず俺が日南さんとくっつく何て事になったらどうだ? まるで俺が日南さんを彼女にする為に村田との仲を裂いたような物だ。
そうなれば味方になってくれた彼女の友人達が一転して牙をむくことは必至。下手すると男子からもそっぽを向かれて学校に居場所がなくなる。
俺はそんな恐ろしい未来に身震いしながらもいったん映画に意識をやる。どうやら作中で高校生の男女二人が紆余曲折ありながらも結ばれる恋愛物らしい。
彼らのように日南さんと村田の仲が上手くいくように祈っておこう。俺が彼女を作る為にも上手くいって欲しい。
……あっ、なんか映画の二人がクレープ食べさせ合いっこしてるんだけど。何これクレープ流行ってたの? パッケージ見ると数年前の作品で偶然だと思うけどなんか腹立つわ。
ふん、いいもんね! そんなチャラついた物より一人で食べるチーカマの方が百倍美味いからな! ……ぐすん、なんかこのチーカマしょっぱいよぉ……。