第二話『転”移”』
目が覚めると、そこは知らない場所だった。
「おれ、しんーー、」
盛大に血を吐いた。どうやらまだ死んでいないらしい。
「助けて...おねがい...」
声をあげて助けを求める。しかし、反応はない。ここがさっきまでの高校の通学路では無いのは明確であり、となるとラノベお約束の転生、いや、傷が残っているということは転移なのかもしれない。
「どこから来たかもよく分からないやつが急に助けを求めるぐらいじゃ、放置ってことなのかよ...くそ...」
暴言を吐いてみるものの、傷が塞がったりはしない。
何か考えていないと今にも死んでしまいそうで、彼は考え続ける。
ーーもし自分が逆の立場だったら?
出身もよくわからないやつが急に血を吐いて倒れている。おそらく周りの誰かが助けるだろうと思い、きっと素通りしていただろう。
これからは、そんなことはしないようにしようと、強く心に誓った。
”これから”とは来世のことになるのだとしても。
そう思い、もう限界だと目を閉じて彼は諦めようとーー
「大丈夫!?まって、今すぐ治療するから!頑張って!!」
した、その時だった。
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声が、聞こえる、気がする。誰かが、必死に、呼びかけてくれている、気がする。
「応急処置をしてから、早く治療しないと...」
ちがう、気のせいじゃない。今、確かに、誰かが助けてくれようとしてくれている。「ありがーー。」
安心したと同時に、そのまま再び意識は深く沈んでいった。
目が覚める時、水面から起き上がってくる時のような息苦しさを覚える。
「ここは...」
辺りを見渡そうとした。
「...っ」
背中がものすごく痛む。そして全て思い出した。刺されたあと、知らない場所にいつのまにかいて、そしてーー
「誰かが、助けてくれた?」
傷は痛むが、血は止まっているみたいだし、なによりここはベッドのようなものの上らしい。
「あ、良かった...目が覚めたみたいね」
透き通った、とても綺麗な声だった。
薄く黄色がかった髪を左側にサイドテールにしている、愛らしい顔立ちをした少女だ。露出多めな改造制服のような服を着ており、目にはばつのような紋様が描かれている。頭には輪のようなものが浮かんでいて、背中には左右に小さめの大きさの羽根がついている。これだけなら、よくある天使系統の種族だと思うだろう。
ーー左右の羽根の色がちがって、頭の輪に血のようなものがついていなければ。
もしかして、堕天使的なあれなのだろうか。
「あ、ありがとう。ところで、なんですけど。」
「ん、なに?」
どうやら話を聞いてくれるらしい。それならばと、自分の顔を真面目なものへと切り替える。
これから話すことが真剣なものだと感じ取った彼女は、自分に一切の偽りの無い瞳を向けてきてくれた。
その気持ちに応えるべく、質問を問いかける。
先ほどからずっと気になっていること、それはーー
「あの、変な質問かもだけどーー
ここって、どこ?」
苦笑しながら言い切った。
そして、この部屋に一瞬、沈黙が生まれた。