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97話 出席

キーンコーンッ


 帝都全体に朝を告げる鐘が鳴り響く。


「もうこんな時間か」

「そうですね、まもなく出発の時間です」


 隣で僕の軍服を広げるリールが言う。


「ハンナの護衛は抜かりない?昨日に続いてハンナはお忍びだから僕と離れることになるからね」

「はい、1小隊が護衛についています。殿下の護衛には残りの兵全てをエレナさんを指揮官として付けます。すでに闘技場には諜報部隊が待機して緊急退避に対応できるようになっています」

「了解」

「殿下も撤退ポイントは覚えられましたか?」

「うん、6か所全て覚えたよ」

「なら護衛体制は大丈夫です。気兼ねなく私の試合をお楽しみください」


 大会本選当日、僕は昨日お母様達と夕食を食べた後今日に備えて早く寝た。

 今日はお忍びで一般客としていった昨日とは違い第一皇子の招待客「第五皇女カーナ・フォン・ベルヘルツニア」として大会を観る。

 昨日に比べて今日は危険が多い。

 第一皇子の正統派陣営含め他全ての陣営から暗殺・誘拐の危険性に晒されるのだ。

 来る時間・座る席・通る道、それらすべてがわかっていてパーティー会場ではなく一般人も出入りする大会会場となれば暗殺者にとっては絶好の機会だ。


コンコンッ


 ドアが鳴った。 


「姫様、隊長、報告です」

「どうぞ」


ガチャッ


 伝令兵が入って来て言った。


「ハンナさんの一行は先ほど出発、本隊もすでに準備が完了しエントランス前で待機しています。諜報部隊からも問題なしと報告が届いています」

「わかった。着替えたら行くよ」

「了解しました」


 伝令兵が出て行くと僕はリールに手伝ってもらって軍服に着替えた。

 帝都の公の場でこれを着るのは初めてだ。

 

「最後にこれを」


 そう言ってリールは杖を差し出してきた。

 社交界デビューにももって行った北部軍最高指揮官杖だ。

 今回の本選観戦で僕は南部や諸外国に「北部軍の最高司令官は私だ」というメッセージを示すことになる。


「やっぱり重いな~」

「今生きる30万人と数千年の北部軍・フェリキア統一国軍の歴史がのしかかっていますからね。重く感じられるのは当然でしょう」


 この杖には小さくいくつかの言葉が刻まれている。

 その中には「汝一振りで大陸の長となり汝二振りで世界の長となる」という言葉がある。

 これは比喩でも何でもない。

 本当に一振りすれば大陸を平定し二振りすれば世界を征服できるほどの軍事力を動かせるのだ。

 その重みは半端ではない。


「ありがとう。よし、行こう」


 僕がその刻まれている言葉を眺めている間にリールが軍服の袖などを正してくれた。

 僕はリールに感謝してから部屋を出た。

 

ザッ!


 部屋の外の廊下にはすでに両脇に5人づつの兵が待機していて僕が部屋を出ると体を前に向けエントランスまでの行進を始めた。

 僕たちも両脇の兵を見ながらエントランスに向かった。

 エントランスに来ると外に通じる両開きの扉が兵によって開けられた。


「総員!敬礼!」


ザッ!


「殿下に勝利を!隊長に武運を!」


 外には2大隊が両脇に整列し僕たちに敬礼をした。


「皆ありがとう、優勝してくる」


 リールがそれに応える。

 この時リールは僕の付きとしてではなく軍の副最高司令官・近衛隊隊長として応えていた。

 弱さを一切外に出さず強く、完全無比な指揮官を体現していた。

 リールは軍の皆から目指すべき師範として尊敬されている。

 それも納得の堂々たる風貌だ。


「行きましょう」

「うん!」


 リールに手を引かれ馬車に乗った。


ガチャッ


「総員!武装!」


カシャッ


 僕達が馬車に乗ると外ではエレナさんの掛け声さっきの2大隊すべての兵が片手に持っていた兜をかぶり、背中に背負っていた槍を持った。


「第一皇子はどんな顔するかね?」

「少しでも頭が回るなら恐れ、それもできない馬鹿なら妬むでしょうね」


 リールは笑って言って見せる。

 第一皇子を馬鹿にする気持ちは彼女を同じだ。


「総員!前進!」


 エレナさんの掛け声で全員が行進を始めた。

 マンフレート邸の門が大きく開かれ、そこから僕の馬車を囲む2大隊が出て行く。

 歩兵も多数いるが駆け足でついてきている。

 王国との戦線では1晩中全力疾走ということも珍しくなかったためこれは楽勝だろう。


「さて、第一皇子の顔を拝みに行こう」

「殿下のご命令のままに」


ー-------


「見て、あれどこの騎士団かしら?」

「見たことないぞ。外国使節の護衛か?」

「多すぎるだろ。見えるだけでも1000人はいるぞ」

「それに一人一人フルプレートだぞ。一体いくら金かけてるんだ」

「第一皇子殿下の騎士団かしら?」

「それにしても全員厚着だな」

「第一皇子殿下でもこんなに揃えられないだろ」


「フフッ見た目のインパクトは十分だね」

「はい、帝都の住民はこんな軍見たことありませんから」


 外では僕たちの一行が通り過ぎるたびに大きなどよめきが起こった。

 1000人の兵士が隊列を組んで行進する様は帝都の住民にとっては異様で圧倒されるものだからだ。

 

「総員!止まれ!」


ザッ!


 エレナさんが停止を命令すると統一された動きで止まった。


「着いたようですね」

「そうだね。楽しみだよ」

「はい、私も楽しみです」


 僕たちはいたずらな笑みをして馬車を降りた。


次回投稿は日曜日になります。


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