96話 祭典を支える者
ガチャッ
席の扉が開く。
「ただいま戻りました」
リールがすべての試合を終えて帰ってきたのだ。
「お疲れ、どれも圧勝だったね」
「ありがとうございます。ですが単純に相手が弱かっただけです」
「まあ明日もこんな感じで楽しんで。期待してるよ」
「必ずや勝利を殿下に」
あれからリールは数戦の試合を通過した。
大会側の妨害だと思うが平均より2戦試合が多かった。
結局1撃も受けることなく全試合瞬殺で終わった。
予選も通過が決まり、本人も明日の本戦の参加証をもらった。
「リールさんすごかったです!」
「ありがとうございます。ハンナさん。この大会が終わればハンナさんも本格的に剣術を学べますよ」
大会が終わり次第ハンナは護衛隊とリール・エレナさんの両者から剣術含め戦闘術を学ぶことになっている。
北部の2大戦闘狂から学ぶのだ。
きっと公国奪還作戦を実行するころには熟練兵も戦々恐々とするような戦士になっていることだろう。
「楽しみにしています!若輩の身ですがよろしくお願いします!」
「こちらも楽しみにしています」
二人はここ1か月ですっかり仲良くなった。
リールは最初少し外部者としてハンナを警戒していたが今ではすっかり仕事を手伝う仲だ。
「さて、リールも予選通過したことだし帰ろう!」
「はい!」
「はっ」
「了解しました」
各員が返事をする。
「エレナさん、馬車の用意はできてる?」
「はい、リール隊長が来るとき乗ってきた馬はすでに部下に撤収させました。裏に馬車と迎えの隊が待っていますので全員そちらにお乗りください」
「わかった。ありがとう」
さすがはエレナさんだ。
仕事が早い。
ー-------
僕たちは閉会式が始まる前に席を立って馬車に向かった。
「やっぱり夜も活気が衰えないね」
「そうですね。しかも、ヴェスターの夜とはまた違った賑わいです」
同感だ。
ヴェスターは文字通り戦友や家族が集まって賑やかになるがここはお互いをまったく知らない者達がお互いに語り合い時には喧嘩する。
全員が「家族」として強い関係で結ばれている北部人ではこんな雰囲気はないだろう。
「だけど、、」
僕は明るくにぎわっている祭り会場とは反対側の保管場、もといバックヤードを見た。
そこには屋台用の食材や大会で使う様々なものが臨時で置かれている。
「、、、北部より明るいけどその分影もあるようだね」
僕の視線の先には華やかな祭りの光が届かないバックヤードには休まず働く人影が多く見えた。
全員共通して麻の粗末な服を着て、首には皮や鉄でできた首輪がつけられている。
「奴隷ですか、、、」
「うん、、」
中には所有している者のマークが焼印されている者もいた。
「僕たちには彼らをすぐに救うことはできない。だけどああならない様に北部を導き、守らなければならない。」
「そうですね」
「行こう」
「はい」
僕たちは馬車に乗った。
いつかあの光景が南部からも消えるときを待っている。
いや、もし待ってもそうならないのであれば自ら実行するのも悪くない。
そう考えている間にも馬車は帰路を進んでいた。
ー-------
「おかえり、カーナ」
「ただいまお母さま」
僕たちはあれから何もなくマンフレート邸に帰った。
「お帰りなさいませ殿下、それと予選通過おめでとうございます。リールさん」
フォルトさんが言う。
「ありがとうございます。ですが相手が弱かっただけです」
リールの謙遜具合は相変わらずだ。
「さあ、もう夜ご飯できてるからみんなで食べましょう」
「うん!」
「ご一緒させていただきます」
「喜んで」
みんなお母さんの誘いに乗ってディナーの席に着いた。
ー-------
「わあ!おいしそう!」
食卓には相変わらずおいしい料理が並ぶ。
やっぱり北部の料理品が作った料理の方が落ち着く。
「そういえばリールちゃん帝都のチャンピオンに当たったって聞いたけど大丈夫だったの?」
「はい、問題ありませんでした。チャンピオンと言っても所詮は”帝都の”ですから」
「そう、ならよかったわ。リールちゃんも無理しないでね」
「お気遣いありがとうございます」
最近お母様はリールのことを気に入っている。
いや、感謝しているといった方がいいだろうか?
北部で育った僕の面倒を全てみてくれたから当然だ。
お母様は自分が僕のそばに居れなかった代わりにそばにいてくれたリールに恩返しをしようとしている。
お母様らしいいい考えだ。
僕もいつかリールに恩返ししたい。
と言ってもリールから受けた恩は大きすぎて返せる気がしないが。
「明日の本戦がますます楽しみになってきましたね」
フォルトさんが言う。
「もしかしてフォルトさんも来るの?」
「はい、殿下達とは別になってしまいますがお忍びで他の北部貴族達と参ります」
「なら私も張り切って戦います」
リールもやる気満々だ。
「私は行けないけど結果を楽しみにしてるわ」
「必ずや吉報をお届けいたします」
お母様は皇室や他陣営の重要監視対象だ。
そのためここ最近は監視の目が及ばないマンフレート邸でずっと過ごしている。
「お母様、ずっとここで大丈夫?」
「大丈夫よ。もともとあの小さな屋敷に軟禁状態だったから屋敷にいるのは慣れているしここは皇宮並みに広いから大丈夫よ」
お母様は笑顔を見せた。
恐らく僕を安心させるためだろう。
お母様が監視の目を気にすることなく自由に歩ける日が来るように頑張ろう。
次回投稿は火曜日になります。
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