95話 作戦概要
「公国を解放、奪還するために現在考えている作戦では大きな3つの段階があります」
「3つの段階?」
「はい、第一段階は現地協力者との接触です」
現地協力者、ハンナの父、前大公と仲が良かった貴族か。
「協力者候補はすでに選定済みです。第一に前大公派で一番力を持っている3つの伯爵家に接触するつもりです」
「3つの伯爵家?」
「はい、父の政策などを積極的に支援してプライベートでも仲が良かった3家です。私も何度か会ったことがあります」
「接触にはどれくらいかかる?」
「すでに諜報部隊を各領地に送っていて準備はできています。現在、叔父と有力貴族の領地と前大公派の領地は完全に交流が途絶えています。両者軍を境界線に並べて一触即発状態ですから当然のことです」
「接触前に開戦して3家が滅びることはないの?」
「大丈夫です。このままのペースだと叔父は余裕をもって勝利するために必要な兵力を用意するのに1年半はかかります」
1年半、接触は問題ないだろうが余裕がないな。
「交流も途絶えて比較的安全なので私が直接出向こうと思います。3家には1族の命運を託してもらうのです。出向くのがせめてもの礼儀ですから」
「暗殺や接触を察知した叔父さんや有力貴族軍が無理して攻めてくる可能性は?」
「それも踏まえて諜報部隊には現在暗殺者狩りと敵諜報網の破壊を命じてあります」
「さすが、準備万端だね」
「ありがとうございます。では第二段階です」
そう言ってハンナは第二段階を離し始めた。
「第二段階は3家の支援です」
「具体的には?」
「経済面では食料などを、軍事面では武具と馬の支援を行い、時期を見計らって実際の兵力も投入します。いずれも殿下に力添えをお願いしたいと思っております」
「何言ってるの?お願いされなくても何でもするよ。最初にその条件で仲間になったんだからね」
「ありがとうございます。」
ハンナは少しほっとした表情を見せた。
まあ僕が作戦の主軸だからね。
「第三段階を聞かせてくれる?」
「はい、第三段階は叔父と有力貴族に対しての攻撃です。第二段階で現地入りした兵力を3家の軍と合わせてまず有力貴族の叔父の領地と首都と隣接している領地を制圧、叔父の領地と首都を孤立させます」
「必要な兵力はどれくらい?」
「叔父の軍は巨大と言ってもそれは公国基準です。北部や帝国・王国からしたら極小規模で最大でも北部軍正規兵2軍団あれば十分だと思います」
「わかった。それならヴェスターにいる予備兵力を割けるね」
「その後叔父を孤立させた時点で民衆に蜂起を呼びかけます。包囲した都市ではトレビュシェットでビラを投げ入れ、そのほかでは諜報部隊を動員して各地に私が帰ってきたという噂を流します。あらかじめ訓練を受けていない民衆にも扱いやすい槍などの武器を諜報部隊を通じて流通させておきます」
「民衆は応えるの?」
ここが一番重要だ。
北部軍を率いて来たハンナを民衆が解放者とするか侵略者とするかによって今後の統治方針に大きな分岐をもたらす。
北部軍の武力で統治するのは簡単だがいずれ自立するときに大きな問題となる。
ハンナは独裁者や圧政者ではなく信頼され愛される大公として君臨しなければならない。
「私は応えてくれると信じています。人心は予想できませんし私自身もそのような頭を持ち合わせていません。ですが確実に父は民衆の信頼を獲得していました。私が父の後継者と認められれば今までの信頼で応えてくれると信じています」
ハンナはしっかりとした口調でそう言った。
僕は少しハンナを見くびっていた。
きっと彼女は僕の支援がなかったとしても公国を奪還していただろう。
彼女はもう奴隷じゃない立派な公国の君主、ハンナ・フォン・バーレル大公だ。
「わかった。ハンナの言葉を信じるよ。続きを聞かせて」
「ありがとうございます!」
ハンナの顔には更に喜びが浮かんだ。
「周辺領を制圧後有力貴族領を同時強襲、ここでは諜報部隊を限界まで動員して叔父の軍が都市奪還に動くまでに有力貴族領を制圧します。公国は北部や帝国に比べ狭いので十分可能です。首都が孤立した時点で有力貴族軍は自領の守備に戻るので個々の小規模な戦力になります。北部兵なら撃破は容易でしょう」
「懸念材料はないの?」
「1つあります。叔父は南部各地の傭兵団とつながりがあって傭兵を動員されれば戦い慣れた兵が比較的多数揃うでしょう。北部兵ほどの練度ではありませんが叔父の兵に比べれば十分脅威です」
「対応は?」
「傭兵は叔父と契約してから現地に到着するまでに少なくとも2週間を要します。公国領内に入るまでの諸外国領では最短の街道を通ってくるでしょう。そこから各傭兵団の通る道を予測して軍を配置します。傭兵団はまとまれば脅威ですが1つの団は小規模です。少しの兵力で撃破できます」
「それだと現地国と戦闘状態になりかねない。ならなかったとしてもその後の関係は悪くなる」
「おっしゃる通りです。それを回避するために道が算出でき次第交渉団を送って金で各国を買収します。可能ならば傭兵団との戦闘に参加するよう促します」
ハンナから買収という言葉が出るのは意外だった。
売られる前はきれいごとしか知らなかったハンナも成長したということか。
「傭兵団を撃破、足止めしている間に叔父の本軍とこちらの主力をぶつけます。数回の平野での合戦後首都と叔父の領地での攻城戦が予想されます。公国の都市は首都も含めて貴族の城と一般の住宅街が別れている設計になっているのでトレビュシェットでの民衆への被害は最小限に抑えます。そうすれば蜂起した市民との合流も可能です」
「それで最後?」
「はい、私の考える公国奪還のための作戦は以上です」
やっぱりハンナはもうただの貴族令嬢じゃない。
もうすでに玉座に座る準備ができている。
それならば僕は後は全力で応援するだけだ。
「わかった。改めて僕はハンナを全力で支援する。僕が持つ知識・財力・兵力・技術力、全て使って。あとは君次第だ」
「ありがとうございます!殿下!」
ハンナは僕の支援宣言を聞いて大喜びした。
きっと彼女は玉座を奪還するだろう。
冠をかぶったハンナを見れるまでそれまで楽しみにして待とう。
「どういたしまして、バーレル大公」
次回投稿は日曜日になります。
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