92話 俊足
「うおー!」
トンネルの先からは歓声が聞こえる。
恐らく前の試合の結果が出たのだろう。
「では私はここで、行ってらっしゃいませ」
「行ってくる。お前は姫様のところへ戻って隊の指揮を取れ」
「了解しました。北部に栄光を!」
副官はお決まりの敬礼をした後姫様のいる特級席に向かった。
ここは選手待機場とフィールドを結ぶトンネル。
このトンネルの最後にある階段を昇ればすぐにフィールドだ。
「さて、どんな相手かな?」
ほんの少しだが期待している。
さっき突っかかってきた輩よりかは戦いがいがあるだろう。
剣闘士のチャンピオンと言うからせめて1撃は耐えてほしいものだ。
カチャッ
階段に向かって歩きながら装備をチェックする。
オリハルコンの片手剣にさっき使った同じくオリハルコンの短剣。
鎧は着ていない。
着てこようと思えばオリハルコンの全身鎧と大楯、短槍の重武装で圧倒することもできたがそんなの面白くない。
せっかくだから剣をぶつけ合って戦ってみたい。
「よし、」
確認を終える頃には階段の前に着いていた。
行こう。
カツッカツッ
戦闘用の革靴が階段に当てった鳴る。
階段を上り終えると光が差しこみ、そこはすでにフィールドだった。
「うおー!」
「一番の注目だ!」
観客席からは歓声が聞こえる。
姫様の席を見てみた。
こちらを見られている。
「これは、手は抜けないな」
「紹介しましょう!第四ブロック第一試合!第一選手!リール・フォン・フォーク選手!今大会唯一の女参加者です!」
それを聞いて観客が少しどよめいた。
まあ確かにあのチンピラを見れば私が出ること自体普通ではないのかもな。
「それに相対するのは!」
司会が相手の紹介を始めた。
「この帝都闘技場で普段行われている闘技大会で無敗!帝都、いや、帝国最強の剣闘士!フォル・バスク!」
「うおー!」
「チャンピオン!」
「やっちまえ!」
「頑張れ!」
すごい人気だな。
しかし一部の席はどよめいていた。
「フォル・バスクとあの令嬢が1対1?いくら何でも、、、」
「これはさすがに勝敗決まってるだろう」
「かわいそう、まだ若いのに」
「生きては、、、帰れないだろうな」
そこまで言う奴がどんな奴かなおさら興味が湧いた。
「入場です!」
相手が姿を現した。
「おー」
確かに威圧感マシマシだな。
身長は私の3倍はあろうかという大男だ。
しかも鎧の間から見える体は筋骨隆々で体格もいい。
相手はフルプレートにで兜も頭を覆うやつをしっかりかぶっている。
脛あてもつけていて完全武装だ。
武器は槍と大剣でその他にも結構持っている。
「ふざけるな!」
フィールドにその言葉が響いた。
「こんな小娘が対戦相手だと?俺は帝都のチャンピオンだぞ!」
どうやら対戦相手が私だったことに怒っているようだ。
まあ第一皇子は初戦で私をぼこぼこにしようと考えてこの対戦相手を選んだのだからあながち間違いではないか。
「私では不満かな?」
「当たり前だろう!ここは神聖な闘技場!そもそも小娘が来ていいような場所じゃない!」
「では私に勝てると?」
私が煽るようにそう言うと顔を真っ赤にして叫んだ。
「舐めるなよ!小娘!」
「では始めよう。お互い手加減はしないでおこう。審判!始めろ!」
その後審判は慌てて開始の手順を始めた。
「両者!剣を抜け!」
ジャキッ
私もレイピアを抜いた。
対戦相手の大男も大剣をゆっくり抜いた。
「この決闘はどちらかが降伏、または死亡した場合のみ勝敗が決まる!両者!構え!」
審判の声と共に私と大男は剣を構えた。
「始まる前にいいことを教えてやる!俺と決闘した奴で生きて帰った奴はいない!全員降伏を口にする前に真っ二つに叩き切ってやった!お前もそうなる!」
大男が言った。
ひどい戦い方とはそう言うことか。
「それは面白そうですね」
私はわざと満面の笑みで返した。
男はすでに真っ赤な顔を更に赤くした。
「第4ブロック第1試合!開始!」
審判の声と共に決闘が始まった。
「楽しそうだ」
私は小さくそう言って地面を蹴った。
それと同時にレイピアを逆手持ちにして強く握った。
「うおー!」
相手も声を上げながらこちらに走り出していた。
遅い
私は速さには自信がある。
腕力や単純な制圧力ではエレナ軍団長に劣るが速さだけは誰にも負けない自信がある。
ギュインッ
文字通り風を切っている。
剣などではなく私自身から風切り音が鳴り響き始める。
姿勢を低くし足に力を入れる。
一歩で普通の人の3倍の距離を進み足を蹴るペースは2倍だ。
審判が開始した時点ではお互いの顔がよく見えないくらい離れていたが次の瞬間ではお互いの剣が届く位置までに到達していた。
「なっ!馬鹿な!」
相手は驚きの声を上げている。
「遅すぎる!」
私はそう言いながら右足で相手の腹を蹴った。
ドカンッ!
そうすると相手の巨体は吹き飛んでフィールドのふちに当たった。
私はまた走り出してフィールドのふちにいる相手に向かって行った。
相手はわずかな時間の間に立ち上がろうとしていた。
そこに私が到達してレイピアを持った手を高く振り上げた。
「や、やめr」
グシャッ
相手はとっさに手を顔の前に出して止めようとしたがそれも無駄だった。
私はレイピアに力を込めて振り下げた。
レイピアは相手の制止しようとする手を布のように簡単に貫きその下の兜に触れた。
恐らく鉄製であろうその兜にオリハルコン製のレイピアはいとも簡単に穴をあけた。
そして防ぐものが何一つなくなった相手の顔に到達した。
鉄製の兜でも防げなかった刃を生身の顔が防げるはずもなく私のレイピアは相手の顔に深く突き刺さった。
バタッ
相手、、、いや、相手だった亡骸は地面に倒れ、動かなくなった。
私の顔には返り血が付いてその決闘の一方性を物語っていた。
「審判、結果は?」
私は審判に言った。
審判も唖然としている様子だったがしばらくしてやっと話し始めた。
「しょ、勝者、、、リール・フォン・フォーク!」
92話が投稿できていないことに気づいたので今投稿しました。
遅れてしまい申し訳ありませんでした。
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