91話 チンピラ
「このケーキおいしいね!」
「はい!こんなの初めてです!」
「あ、こっちの果物もおいしそう!」
「じゃあ追加で頼みましょう!」
「そうしよう!」
大会も第三ブロック終盤に差し掛かっていた。
僕とエレナさんや護衛隊の兵達はスイーツや果物に夢中で試合は全く眼中にない。
試合を真面目に見てるのはハンナくらいだ。
「ハンナ、それ見てて面白いの?」
「はい!面白いです!」
僕にはわからない感覚だ。
こんなのヴェスターでは給仕係でもできる。
「まあハンナが面白いならいいけど剣術としてそれ見ちゃだめだよ。目に毒だ」
「わかってますって」
ハンナは来週あたりからリールとエレナさんに剣術や槍術・格闘術を学ぶことになっている。
自分自身の護身はもちろん将来公国を奪還するのにも備えている。
ハンナはまじめだし大丈夫だろう。
それに北部最強の2人が教えるんだ。
何も心配はいらないだろう。
「そういえば殿下」
「ん?なに?」
ハンナが言う。
「リールさんの試合ってもうすぐでしたよね?」
「ああ、確かにそうだったね。第四ブロックの第一試合だからもうすぐだ」
リールの試合は注目試合のため他を入れずに1対1で行われる。
「リールさん今何してるんでしょう?」
「リールのことだから剣の手入れでもしてるんでしょう」
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ジャキッジャキッ
「副司令官、剣の手入れ頻繁にやっていますね」
「ああ、この剣は殿下から直接受け取たものだからね。臣下として刃こぼれの一つも許されない。まあそもそもオリハルコンだから刃こぼれのしようがないんだがね」
「そうでしたね。古参の兵は未だになれませんね。刃こぼれも錆びもしない武具なんて今まで夢でしたから」
「それもこれも殿下のおかげだよ」
「ですね」
私は今地下の選手待機場で剣の手入れをしている。
護衛には副官1人だけを付けて他は殿下のところで待機させている。
正直私一人でもよかったのだが貴族は護衛を付けろとか大会側がうるさいからつけた。
「それにしてもここ治安悪いですね」
「まあしょうがない。南部の貴族と同じく個室で待機なんてつまらないからな」
「ですが所々で喧嘩が発生するし酒やたばこのにおいもすごいです」
「まあ喧嘩してる奴はその程度で怒る輩ってことだよ」
副官の言う通りここは治安が悪い。
普通貴族や推薦選手は用意された小綺麗な部屋で待つことになっているのだが私はせっかくの機会を逃したくなくて選手たちを見に来た。
チンピラっぽい輩が所々で喧嘩して試合前にボロボロになっているのをよく見るしそこら中に酒とたばこが転がっているのも事実だ。
酒とたばこはヴェスターでみんなが腐るほど消費してるから慣れているがここよりずっと上品な品でかつ乱雑じゃない。
「そういえばもうすぐだね」
「ですね。第三ブロックももうすぐ終わりますしそろそろ係が来るでしょう」
試合の順番が来た選手は係が呼びに来る。
ちなみに待機場での喧嘩には係は基本的に不干渉だ。
もし喧嘩で出場不能になれば相手が不戦勝になるため係も仕事を減らすいい機会とでも思っているのだろう。
「ではそろそろいりぐt」
「おい!小娘!」
副官の言葉に割り込むようにして気性の荒そうな男が割り込んできた。
鎧は南部人にしては良さそうなものを着ている。
「何でしょう?」
「何でしょうじゃねえ!」
いったい何を怒っているんだ?
この下品な男は。
「ここは女が、ましてや小娘がいていいところじゃねえ」
「言っていることが理解できないのですが、そもそもいきなり突っかかって来てなんですか?」
「女が戦いの場に来るなと言っているんだ!馬鹿にしてるのか!」
「はぁ」
思わずため息をついてしまった。
だから南部は野蛮なんだ。
こういうくだらない伝統のせいで北部より恵まれていながら発展しない。
しようともしない。
「あの男さっき賭け事に負けていました」
副官が耳元で囁く。
そう言うことか。
憂さ晴らしに勝てそうな私にあたってできるようなら金を奪おうということか。
まあいい。
適当な準備運動でもするか。
「ではこうしましょう。あなたの実力を示してください」
「は?」
「あなたが私に勝てたら出て行きましょう。もしあなたが負けたらそこで1日中土下座でもしててください」
私が煽りながら言うと男は顔を真っ赤にして叫んだ。
「舐めるなよ小娘が!!」
男は叫びながら剣を抜いて突撃してきた。
男は私の倍の身長で体格も比較的良かった。
男の剣は私の身長くらいある大きな両手剣で刀身も太かった。
男は無策に力で押し切るつもりで剣を振り下ろしてきた。
「死ね!」
男の剣が振り下ろされると私も腰から短剣を抜いた。
予備用の短剣だ。
バリンッ!
「え?」
「は?」
次の瞬間その場が驚きに包まれた。
私の手のひらくらいの長さしかない短剣が男の振りかざした両手剣とあたり接触した。
副官以外誰もが押し負けて私に当たると思ったが実際は男の剣が止まり、短剣と当たった部分から真っ二つに折れたのだ。
「ッ!!!」
男は状況が理解できていないようだった。
自分の剣が折られたことを理解すると今度は拳で突撃してきた。
「貴様ッ!」
男が殴ってくると私はそれを受け流してそのまま腕をしっかりつかんだ。
男の勢いも利用してそのまま背負い投げをした。
男は石畳の床に叩きつけられた。
「うっ!」
「もう終わりですか?」
私が言うと男は立ち上がろうとした。
次の瞬間私は思いっきり男の頭を石畳の床に叩きつけた。
久しぶりに全力を出したためか床の石が割れ、全体的に陥没していた。
バキッ!
男の頭から骨が折れる音が聞こえた。
一応死んではいないだろう。
「まあ、そこで約束通り土下座でもしていてください。ああ、聞いていないか」
意識のない男を煽った後そのまま待機場を後にした。
まったく、南部は無礼な奴ばかりだな。
次回投稿は金曜日になります。
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