8話 戦術
戦場における最初の動きは包囲されまいと薄く広く陣形を伸ばしている王国側からだった。
王国軍が北部軍側に混乱を生もうと小規模な騎馬隊を突撃させるところから始まる。
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「親近衛隊の騎馬隊で対応できる?できればリールにはここにいてほしいんだけど」
「もちろんです。私がいなくても近衛隊の指揮系統には何の問題もありません」
「よかった、じゃあお願い」
「かしこまりました。伝令!笛を鳴らせ!突撃してくる騎馬隊に対応せよ!」
伝令隊の隊長がその場で笛を大きく鳴らした。
そうすると僕たちがいる本陣の前に構えていた黒いマントを羽織った部隊が敵の騎馬隊に向けて突撃する。
彼らは近衛隊、各軍団からそれぞれ100人ずつ選抜された先鋭兵達だ。
今は北部最年少で騎士になったリールが率いていて、彼女が隊長になった時から更に実力を伸ばして今では一騎当千が冗談では済まされなくなっているほどに強くなっている。
名実ともに帝国最強の部隊で味方からは救世主、敵からは悪魔と恐れられている。
「今回は殿下の初指揮ですから始まりがよくなるように全力で叩き潰します」
リールはその言葉通り近衛隊2千のうち800の騎兵すべてを突撃させた。
敵の騎馬隊は大体千騎位いたが近衛隊は数での劣勢を忘れさせるほど圧倒的な力を見せつけた。
リールからの報告によると敵騎馬隊はほぼ全滅したが近衛隊の損害は軽傷50人ほどで死者も重症者もいなかったらしい。
「まずは敵の出鼻をくじきましたね!」
「うん!じゃあ次はこっちからだ!」
そう言うと僕は本陣がある丘の一番高いところに上って大声で叫んだ」
「北部軍!」
僕の一言で18万の軍勢全員が僕のほうを向いた。
続けて話した。
「聞いてくれ!僕は知っての通り正式に入軍し、名実ともにみんなの同胞になった。だから指揮官という立場でも命令はしたくない!そこでみんなに質問と提案をしたい!」
そこまで言うと大きく息を吸いなおした。
そしてまた大声で言い始めた。
「我々の故郷はどこだ!」
18万人が迷わず同じ答えを叫んでくる。
「北部!」
「北部!」
「北部!」
「北部!」
「北部!」
「北部!」
「北部!」
そのまま続けて叫んだ。
「その北部は王国のものでも帝都の連中のものでもない!では誰のものだ!」
「我々!」
「我々!」
「我々!」
「我々!」
「我々!」
「我々!」
「我々!」
「では北部はどこのことを言うのだ!」
「北のすべて!」
「北のすべて!」
「北のすべて!」
「北のすべて!」
「北のすべて!」
「北のすべて!」
「北のすべて!」
「では最後に、、、今我々が立っているここはだれのものだ!」
「我々!」
「我々!」
「我々!」
「我々!」
「我々!」
「我々!」
「我々!」
「なら勝ち取れ!!!!」
僕がそう言った瞬間士気は最高潮に達した。
「うおー!」
「うおー!」
「うおー!」
「うおー!」
「うおー!」
「第一陣突撃開始!」
そう言って開戦を告げると一番右にいる第一軍団がゆっくりと、しかし力強く進み始めた。
第一軍団はベルトン指揮下の古参兵を中心にした先鋭が多い軍団だ。
今は亀甲隊形でゆっくり進んでいる。
亀甲隊形は北部の伝統的な戦術で密集しながら盾と盾をくっつけて隙間をなくし槍や投石を無効化しようとする隊形だ。
速度が遅くなったり兵同士の信頼がなければできないなどの欠点はあるが敵正面を前進するのはこれが一番安全だ。
「ん?殿下、第一軍団しか前進していませんが?」
「これも作戦内だよ」
「数も質もこちらが圧倒です。全軍突撃でよいのでは?」
「それだと敵軍に逃げる隙を与えて包囲できないでしょ?」
「合戦では包囲できないのが普通では?」
「まあ見てて」
「まあいいですが、、、」
「さて、、、そろそろかな」
そういう頃には第一軍団の最後尾が隣の第二軍団の最前列の位置に来ていた。
「第二陣突撃!」
「第二陣?どういうことですか?」
「ふふ、それはね~」
リールが不思議そうな目で見ていた。
エーベルト視点
「伝令!敵第一軍団のみが突撃してきます!」
どういうことだ?
敵は圧倒的優勢だが1万の第一軍団だけ突撃させたら局所的有利を我々に与えることになる。
なぜだ、、、まあいい、今はその敵の対処だ。
「中央から兵を引き抜いて対処せよ!」
「はっ!」
敵の指揮は今回が初指揮の皇女一人、、、考えすぎかもしれないな。
そう思った瞬間、甘い理想は無残に打ち砕かれる。
「伝令!閣下、敵第二軍団がたった今前進を開始!」
「っ!やられた!中央から引き抜いた兵を今すぐ戻せ!」
カーナ視点
「敵の司令官はこう思ってるだろうね。こうすればどこかから引き抜いたらいずれそこが簡単に突破されてしまうから敵が迫ってくるのを眺めることしかできない」
「しかしそれでは一斉に突撃するのと変わらないのでは?」
「戦闘が始まるまでは変わらないよ、でもそれからは今までと全く違う結果になるよ」
「まったく違う結果?」
「そろそろ第三陣の前進を開始させて」
伝令兵に伝えてしばらくすると第三陣の第三軍団が動き始めた。
「始まったね」
「はい、こちらの優勢のようです」
第三軍団が動き始めると同時に第一軍団は敵の最左翼との戦いが始まっていた。
第一軍団一万に対して敵最左翼はわずか千人ほど、ほぼ一方的だった。
「敵はできていませんね」
「まあわかりきってたことだよ。王国軍は農民が徴兵されて安い鎧を着ているだけの集団だから」
王国軍は国内の農民などを無造作に徴兵して前線に立たせている。
10年間戦い続けてきた職業軍人の北部軍兵士とは比較にならない。
「敵は我が軍の圧力に負けて中央方面に後退しつつありま、、、まさか!」
「きづいた?」
リールが今回の作戦にきづいたようだ。
さすが近衛隊長、きづくのが早いね。
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