81話 出陣
コンコン
馬車の窓がノックされる。
エレナさんだ。
「殿下、まもなく皇宮敷地内に入ります。降りるご準備を」
「わかった。遂にだね」
「はい、遂に始まります」
「見せてやろう。僕たちの正体を」
「了解です!」
エレナさんは最後に馬で走りながら勢いよく敬礼をして隊列の先へ戻っていった。
さて、行こう!
ー-------
「こちらならよく見えるかと」
「ご苦労」
「ありがたきお言葉」
ソニアと一緒に車止めがよく見える2階のバルコニーにやってきた。
ここもパーティー会場の一部だが他の貴族どもは外に出したから我々2人と騎士だけだ。
「どんな馬車で来ると思います?社交界デビューでは乗ってくる馬車・着てくるドレス・護衛の騎士・マナー、全て見られていますから力量は見極められると思いますよ」
「野蛮な北部の荒れ地にしか支持基盤を持たない奴などたかが知れている。どうせそこら辺の弱小貴族と変わらぬ皇族とは思えないほどの貧相な身だしなみで来るのだろうさ」
実際第五皇女にそんな力はない。
我々は皇室分配金で多額が自由に使える。
だが第五皇女は帝都を長く離れていたことを理由に皇室分配金が打ち切られている。
どうせ貴族派陣営の誰かが手を回したのだろう。
「私たちの社交界デビューを思い出しますね」
「ああ、あの時はお互い競ったものだな」
「ふふっ今も変わりませんがね」
ソニアと私は双子だ。
生まれたのは私の方が数刻早かっただけのため当然社交界デビューも同じだった。
お互い金を湯水のように使って装飾品の豪華さで競ったものだ。
まあ今になればその時はたいた金も貧相に思えるほど財を得たがな。
「お前はどうやって第五皇女を取り込むつもりだ?」
ダメもとで聞いてみた。
「それを言うとお思いで?」
「聞いてみただけだ」
「まあお互い女ですから通づるものがあるでしょう。そこから仲良くなれるように努力しますよ」
「私には真似できんな」
「個人的にも彼女には興味がありますの。どうやって野蛮な北部で暮らしてきたのか?北部での支持はどれほどなのか?そこが気になるのです」
「ふっ変わった奴だ」
コツコツッ
私の護衛騎士が駆け寄ってくる。
こいつは皇室騎士団から推薦された奴だ。
たしか侯爵家の次男だったはずだ。
「両殿下、敷地に入ったようです。まもなく見えます」
「わかった。どんな奴か力量を見てやろう」
「楽しみですわ」
ー-------
馬車は貴族街の中心部を進んで行く。
道の両脇には悪趣味ともとらえられるほど派手な屋敷が立ち並んでいる。
キーッ
隊列が止まると僕が乗る馬車もブレーキをかけて止まった。
「ッ!これは!」
皇宮の門番の声だ。
どうやら着いたらしい。
門番は僕たちの隊列を見て驚く、、、いや驚愕というたとえが正しいだろう。
僕たちの統一された金と黒のフルプレート・金と宝石で埋め尽くされた巨大な馬車・そして大きく掲げられた北部の旗を見て驚愕した。
「第五皇女!カーナ・フォン・ベルヘルツニア殿下の隊列である!開門せよ!」
「、、、り、了解!開門!」
門番は慌てて開門の指示を出す。
ギーッ
門が鈍い音を立てて開く。
「全隊!進め!」
リールの命令で隊列はまた進み始める。
護衛隊の兵達はもちろんのこと馬さえも堂々たる様相で進んで行く。
「車止めが見えてきました。姫様、まもなくです」
「やっと、、、やっと戦いが始まる。勝たなきゃね」
御者の兵に言われ応える。
遂に始まるのだ。
北部に勝利を持ち帰らなければ。
カツカツッ
馬の足音が車止めに響く。
一番最後の到着のため他の馬車はいない。
馬車の中から見る限りは僕に注目しているのか静まり返っている。
「全隊!止まれ!」
リールの号令と共に隊列は同時に止まる。
僕の乗る馬車もブレーキがかけられ止まった。
「総員下馬!隊列形成!」
リールがそう言うと護衛隊は全員馬を降り盾と槍を取ると統一された歩調で僕の馬車を囲んだ。
その後すぐに僕の乗る馬車からパーティー会場である皇宮のエントランスまでまっすぐな兵士の道ができた。
一定間隔で兵達が立ち並び槍と盾を空に向けまっすぐ持っている。
コンコンッ
リールが馬車のドアをノックする。
「殿下、準備が整いました」
「わかった。では行こう」
僕がそう答えると待機していた兵がドアノブに手をかけた。
リールはそれを確認すると皇宮の方を向いて大きく堂々とした声で宣言した。
「ベルヘルツニア帝国第五皇女にして北部軍最高司令官!北部の姫、カーナ・フォン・ベルヘルツニア殿下のご到着である!」
ガチャッ
リールが僕の到着を宣言し終わると兵がゆっくりと規則正しい動きでドアを開けた。
「お手をどうぞ」
リールが軽くお辞儀しながら手を差し伸べた。
これはエスコートのマナーだ。
剣を腰に下げ、黒と金の軍服でエスコートを申し出てくる様は女であることを除けばまんま貴公子だ。
「リールここにいる誰よりもかっこいいよ」
「ありがとうございます。まあ私よりも強い者など帝都にいないことは確定ですから」
「ふふっそりゃそうだね」
僕はリールの手を取り馬車を降りた。
次回投稿は日曜日になります。
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