73話 ワグネル公爵
「お招きありがとうございます。ワグナル公爵」
「こちらこそお越しいただきありがとうございます。さあ、こちらへ」
僕たちは邸宅の中へ入った。
ワグネル公爵と数名の貴族が案内してくれる。
ワグネル公爵。
中立派貴族の筆頭で帝国の沿岸部に大きな領地をもつ大貴族だ。
そして帝国が南北に分裂する前から代々帝国に仕えている。
いわゆる旧貴族だ。
南部では一番長い。
「我々は陣営に入っていませんが帝国公爵家としてこの帝位争奪戦を見届ける義務がありますからね。最近は領地をしばらく空けて帝都で監視にいそしんでおります」
いきなり本題に踏み込んできた。
恐らくこちらを探っているのだろう。
「公は責任感のあるお方だとリールから伺っております。とても素晴らしい心がけですね」
「いえいえ、帝国貴族として、古くから使える旧貴族として当然のことです」
旧貴族派基本的に権力や勢力拡大に欲がない。
長く仕えているためその足元が圧倒的に盤石だからだ。
その代わりに自分たちの領地でこじんまりと暮らすことを好んでいて帝都に出てくるのは皇室の権力継承の時くらいだ。
欲がないため今の領地の経営に専念でき、そのため領地は新貴族の領地に対してとても発展している。
領民に対しても献身的で慕われている。
旧貴族には北部貴族と近いものが感じられる。
「そういえばそちらにいらっしゃるのはリール嬢ですね」
公爵がリールに言う。
「はい、フォーク家のリールです」
リールが答える。
「一度フォーク家の方に会ってみたいと思っておりました。北部でのフォーク家の武勇はよく聞きます」
「ありがとうございます。おじい様も喜びます」
「北部の2大公爵の方とは一度会ってみたいと思っております」
「ワグネル公爵でしたら北部も歓迎いたします」
「では今度是非行かせてください」
公爵は2大公爵家に興味があるようだ。
まあそれもそうか、旧貴族にとっては北部は未知の領域、そしてそれを圧倒的な経済力・軍事力で統治しているのがフォーク家とマンフレート家の2大公爵家だ。
「公は2大公爵家にお詳しいので?」
聞いてみた。
「いえいえ、詳しいと言うほどではありませんが北部に対して少し憧れがありまして。世界最大の大要塞ヴェスター・白銀の世界都市北都、北部には南部では信じられないほどすごいものが無数にあると父から聞きましたので」
「お父上は北部に行ったことが?」
「一度だけ行ったことがあると言っていました。今も生きていればきっと北部に住んでいたでしょうね」
「この一件が終わったら一緒に北部へ行きましょう」
「はい、一度は二十万の北部軍も見てみたいですね。傭兵からは精強と聞きます」
「ありがとうございます。ですが十軍団増設しましたので三十万ですね」
「、、、え?」
公爵はこちらを不思議な目で見て来た。
「ありがとう」をリールではなく僕が言ったからだ。
南部では北部の情報は限られている公爵は僕のことを北部で追放期間を過ごしたただの滞在者だと思っている。
「殿下は北部軍に関わりがおありで?軍が殿下を支持しているとは聞きますが、、、」
「ありますよ。だってほら」
中立派貴族は信用できる。
公爵は是非僕の陣営に引き込みたい。
僕が軍服のポケットからオリハルコンでできた階級章を取り出した。
「僕は北部軍最高司令官ですから」
「ッ!!!!」
取り出したのは軍の最高指揮官の階級章だ。
「は、、、初めて知りました」
「まあ当然です。帝都では初めて開示しましたし」
僕がそう言うと公爵は更に驚いた顔をした。
「公爵」
「はい」
「僕はこの帝都に何の思い入れもありませんし生まれはここでも育ちは北部です。ですので少しでも早く北部に帰還したいと思っています」
「、、、それは」
「そう、僕は皇位なんていらない。その代わり北部の君主として北部を導きたい」
そう言うと公爵はすべて理解したような顔をした。
僕は今公爵に対して南部皇位の放棄と北部皇室の復活実現をすると宣言したのだ。
公爵は少し考え込んだ。
その後公爵は言った。
「殿下の道がどうなるかは私程度の者には予想すらできません。しかしこれは確かです。殿下が歩まれようとしている道は我々旧貴族にとって最良の選択だと」
中立派貴族トップの公爵からの支持表明だった。
次回投稿は火曜日になります。
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