44話 北都
「殿下、起きてください」
「う~ん」
「北都が見えてきました」
「やっとか~」
僕が馬車の中で昼寝から起きると外は入城準備でさわがしくなっていた。
「久しぶりですね」
「うん、数年ぶりだね。まあおじさんはたまにヴェスター来てたからそこまで懐かしくはないかな~」
「ですね。先行する隊からの報告で閣下が官邸にて応対の準備をしているそうです」
「わかった、じゃあゆっくり急がず行こう」
「了解しました」
北都、本当に久しぶりだ。
ヴェスターが軍事的中心地だとしたらここは政治・経済の中心地だ。
南部との境界に近い平地を建物で埋め尽くして作られた。
実際に住んでいる人口は50万人程度と中規模の都市だが、政界最強の軍事力・経済力・技術力を持つ北部の中心地にふさわしくするため壮大な都市計画の元作られた。
町の面積は何倍もの人口を抱える帝都とほぼ同等で建物は帝都のそれよりずっと豪華で巨大だ。
一時的に帝国の臨時首都になったこともあるほどだ。
「北都守備隊が来たようです。おそらく迎えでしょう」
そう言われて窓から外をのぞくと灰色の鎧の兵達がこっちに向かってきていた。
北都守備隊だ。
ヴェスターが最高司令部である北部軍の一部でありながら軍と政治の対等性を守るために北都の指揮下に入っている。
北都出身者で構成され、北部軍の中でも近衛隊の次に装備面で優先されている。
全員が精鋭で、数は少ないが彼らをこの世界で倒せるのはヴェスターにいる北部本軍くらいだろう。
トントンッ
「姫様、北都守備軍の指揮官が挨拶したいとのことですがどうしますか?」
「もちろん挨拶するよ、連れてきてもらえる?」
「了解です。すぐに連れてきます」
そう言うとエレナさんがすぐに連れてきてくれた。
「お久しぶりです。殿下」
「久しぶり、オルドさん」
オルド北都守備隊指揮官、僕がヴェスターに来る前からずっと北都守備隊にいたため面識は他のみんなより少ないがおじさんの護衛としてヴェスターで何回かあったことがある。
「おじさんは元気?」
「はい、総督閣下は元気です。今は官邸前で待っている頃でしょう」
「それはよかった。北都は変わりない?」
「変わりないです。ただ殿下の人気が北都でも一層高まっております。いずれにせよ我ら北都は殿下に忠誠を誓います。ようこそ北都へ」
オルドさんはそのあと一礼して護衛隊を先導するため先頭に行った。
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「開門!守備隊!殿下に向け敬礼!」
「やっぱり何度来てもこの景色には驚かされますね」
「そうだね、こんな大都市帝都でも見れないよ」
そんな僕たちも前には摩天楼が広がっていた。
ヴェスターとほぼ同等の高さを誇る真っ白な城壁に囲まれた無数の石造りの建物、ふつうの住宅一つとっても帝都の貴族屋敷くらいはある。
大通りに隣接する建物は帝都にもない6階建てだ。
巨大な建築が林立しながらすべて統一感があり、区画は寸分の狂いなく均等だ。
「今年の北都は人口1%、経済規模32%、そう建設物質量2%の成長を記録しています」
門をくぐって先導の必要がなくなったため馬車の近くに戻ってきたオルドさんが言う。
「過去にない成長率じゃないですか!?」
「はい、やっぱり殿下がクルヴァ地方を獲得したのが大きいでしょうね。」
そういえばそうだった。
僕がクルヴァを獲得した影響は予想より大きかったようだ。
「今までこの帝国最大の経済都市である北都は食料という足枷がはめられていました。しかし、今回のクルヴァ併合でその枷が外れたのです。北部商人たちも意気込んでいます。これからこの北都はあくなき膨張を続けるでしょう」
「期待してるよ。僕が不在の間もよろしくね!」
「はっ!工場を休まず動かし、資源を加工し、軍に尽きることのない莫大な物資を届け続けて見せます。殿下はじめ、軍が頑張ってくれたのです。我々北都は少しでも恩返ししなければ!」
オルドさんは嬉しそうな表情でそう宣言する。
彼は北都守備隊だから当然だがここ出身だ。
故郷の繁栄を喜ばないものはいない。
僕だってヴェスターが増築されるたびうれしかった。
「さあ、総督閣下が待っています。行きましょう」
「うん!」
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「全体!停止!」
ゴトン
馬車が音を出して止まった。
8頭がけともなれば止まるだけでも大変だ。
「殿下、閣下が参りました。我々も降りましょう」
「うん、そうだね。おじさんお元気かな?」
「あの方が元気じゃない方が想像しがたいですよ」
「だね」
扉が開けられリールが先に降りた。
僕はリールに手を引かれ馬車を降りた。
目の前にはまぶしいほど真っ白で視界に収まらないほど巨大な宮殿があった。
北都中央宮殿、かつては分裂時代に皇族の宮殿として使われ今は北部総督の執務室がある官邸となり政治の中心を担っている。
北部を収めた帝国の中心地だっただけにその建築には莫大な財が投入された。
北部でも一部からしか取れない貴重な白亜の石ですべてができている。
金銀財宝も大量に投入され、宮殿のいたるところを飾っている。
しかし、それはわざと目立たないように構成されていた。
メインである白亜の石を強調するためだ。
財が余ってしょうがない北部ならではの富の示し方になっていると同時にそれに気づく者を知者だときずかせるなどある一種の指標になっている。
そう一人で考えていると懐かしい声が聞こえてきた。
「殿下!お久しぶりです!」
エグナーおじさんだ!
次回投稿は金曜日です。
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