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40話 宣戦布告

僕は台の下からよく見える位置に一歩進んだ。

 みんなバラバラの服装だ。

 文官達はきっちりとした制服を、兵は動きやすい練習着や軍の制服、鎧を着ている。

 眼下にいる10万の兵達の間にはざわめきがある。

 僕はそれをひたすら待った。

 僕の方をまっすぐ見るようになすまで




 しばらくするとざわめきは一切なくなっていた。

 みんなこちらをまっすぐ見て何を話すのかに興味を示していた。

 僕はそんなみんなに力を振り絞り大声で話しかけた。


「家族よ!戦友よ!みんなよ!」


 僕の子供の体からは想像できない大声にみんなは驚いて一層こちらに注目した。


「まずはそれぞれの仕事がある中集まってくれてありがとう。今日はここで僕の意思を伝えるために来た。」


 僕の直接の意思が聞けることを知って注目度は最高潮に達して遂に一切の音がなくなった。

 風の音すらなくなったように思える。


「みんな知っての通り僕は父である皇帝にとある命令をされている。内容を今から読み上げる!リール、お願い」


 すぐ後ろに立っていたリールから帝都からの召還命令の書類を受け取った。

 一切書き換えていない現物だ。


「「貴女はあと数か月で14になる。帝都での成人は14歳であるため貴女もその時成人することになる。

皇族の成人は慣例により帝都で執り行う。また、皇位継承の次期が迫っている。大陸の覇者たる我が帝国の継承候補者はすべて帝都に集結しなければならない。

貴女の婚約もしなければならない。これらにより帝都皇宮よりベルヘルツニア帝国唯一皇帝が命令する。

第五皇女カーナ・フォン・ベルヘルツニア、貴女は帝都に居を移せ。野蛮な北部とは縁を切り、帰還し帝国に改めて忠誠を誓うのだ。騎士団を迎えに行かせる。

その者達に従うように。騎士団は2か月後に到着する。」これは何も言い換えていないそのままの文章だ!」


「やっぱり今すぐ出陣しよう!」

「帝都を焼き払え!」

「皇帝を八つ裂きにしてやれ!」

「軍事力はある!帝国から独立しよう!」


 再びざわめきが起こった。

 大体の内容は伝わっていたがみんなのほとんどはそのままの文章を聞いた。

 あらためて帝都への憎悪が溜まって帝都に進軍しようとする者もいる。


 そんな中僕は再び大声で続ける。


「僕は帝都に行こうと思う」


 その言葉は練兵場の隅々まで届き一瞬の静寂を呼んだ。

 しかしその静寂は10万の兵の怒号と叫び声で破られる。


「だめです!姫様!」

「我々はなんだってします!」

「そうです!帝都だって焼き払ってやります!」

「行かないでください!」


 練兵場は僕の考えを聞いて大荒れになった。

 もう暴動騒ぎと化している。

 中には部隊を連れて南部への宣戦布告をしようと演説台に登ろうとした下級指揮官もいて、台を囲んでいた近衛隊の兵にとめられる。

 

 怒号で隣の人の話し声も聞こえない。

 そんな中僕は今までで一番大きい声で叫んだ。


「2年!!!」


 僕の放った謎の年数にみんなが止まった。

 もう一度みんな僕を見ている。


「繰り返す。僕は行こうと思う!でもこれは別れでも最後でもない!」


 僕が話し出した途端さっきのように練兵場は静まり返り再び僕の声だけが響いていた。


「僕は連行されるんじゃない!確かに僕は父の言う通り帝都に行く、でもそれは僕自身の意志だ!僕は帝都に行ってどこかの国の王子の妾にされるのでも首をはねられるわけでもない!」


 僕が急に言い出した。

 先の内容が見えない話にみんな夢中だ。


「僕は帝都に戦いに行く!2年で!2年でその戦いに勝ち、このヴェスターに凱旋する!僕がやってきたときこのヴェスターは僕にとって「流刑地」だった。皇妃に負け、追放され流れ着いた先だった。でもこの8年でここは僕の「家」になった!戦友・仲間、、、そして家族ができた!僕は何があってもここを離れたくない!ここが僕の家だ!でも、でもまだ真の家ではない!今までは皇妃に流され着いた先で、自らの意志で来たわけではなかった。僕はこの2年で勝ち、自らの意志で帰ってこようと思う!そうすれば、、、そうすれば本当の意味で僕の家になるだろう!」


 僕の戦う意思を見てみんなは更に僕の話に注目した。


「僕は戦う!一緒には戦えない!しかし30万と1人、王国領と帝都、戦地は違えどお互いに背中を任せ戦ってくれないだろうか?」


 みんなの顔が少し和らいだような気がした。

 僕はそのまま続ける。


「僕は一人で皇帝を相手にする!そこでみんなにお願いだ!ちょうどさっき王国がクルヴァを奪い返すため大量の兵を王都から派兵したそうだ!」


 下級指揮官含め台に上る一部の人間以外みんな驚いている。

 それもそのはず、さっきリールが演説に役立つかもと諜報部から持ってきてくれた最新情報だ。


「僕は2年間この北部を守ることができない!しかし!ここにはこの2年で軍としての極限に達した30万の家族がいる!その家族であるみんな、僕が帰ってくる時にこの北部を戦争のない場所にしていてくれはしないだろうか!」


 みんなのほとんどは驚いている。

 それもそのはず、今の状態でこの戦争を終わらせるためには王国自体に攻撃、すなわち王都を取るしかないのだ。

 

「僕は皇帝を倒し、南部から玉座を!みんなは王国を倒し、王国から王都を!この2つの戦いのうち1つを任させてくれないだろうか!」


 僕は両手を大きく広げ最後まで喉を枯らしながら叫んだ。

 

 僕の演説が終わるとそこには静寂だけが広がった。

 風の音すらも聞こえず、誰もしゃべっていない。

 これはみんなへの問だ。

 

 みんなは答えてくれるだろうか。

 僕の提案に乗ってくれるだろうか?

 まだ静かだ。

 やはり、僕の提案には乗ってくれないのだろうか?

 それもそのはず、こんなの小娘が言い出したわがままに過ぎないのだか、、、


トンッ


 音が一切聞こえないその空間に「トンッ」という小さな音が聞こえた。


トンットンッ


 音は一定間隔で続く。


トンットンッ

トンットンッ

トンットンッ


 音は数回ごとに複数に増えた。


 音源を探した。

 そうするとこちらを一直線に見る制服姿の若い女性兵が見えた。

 彼女の長髪はその音と同時に揺れている。

 彼女が勲章がつく胸を叩き音を出していた。


トンットンッ

トンットンッ

トンットンットンットンッ

トンットンッ

トンットンットンットンッ

トンットンッ

トンットンッ


 彼女だけじゃない!

 周りの兵、文官、指揮官。

 いろいろな人が胸を叩いて音を出している。

 音は回数を重ねていくごとに大きく、複数になっている。


ドンッドンッドンッドンッ

ドンッドンッ

ドンッドンッドンッドンッ

ドンッドンッドンッ

ドンッドンッドンッドンッ


 音は練兵場全体にゆっくりと広がった。

 練兵場だけじゃない!

 僕を見ていた場外の兵達も胸を叩き音を出している!

 城壁から!司令部から!屋根の上から!

 ヴェスター全体から20万を超える音が聞こえる。

 音に言葉はない。

 しかし、僕の背中を何よりも力強く押す戦太鼓の音となり

 それがみんなの僕への賛同の証となった。

 後ろに立っていた指揮官のみんなも音を出している。

 

「殿下に!」


「勝利を!」

「勝利を!」

「勝利を!」

「勝利を!」

「勝利を!」

「勝利を!」


 リールが前へ出て掛け声を誘うと20万倍になって帰ってくる。

 それから掛け声はとどまるところを知らず、空気を、要塞を、山脈を、大地を揺らした。


「っ!!」


 僕はそれを見て唖然としていた。

 北部生まれじゃない僕が、よそ者だった僕が!

 みんなに応援されている!


「殿下、宣戦布告を」


 リールが言った。


「北部に!」

「北部に!」

「北部に!」

「北部に!」

「栄光を!」

「栄光を!」

「栄光を!」

「栄光を!」

「栄光を!」


「姫様に!」

「姫様に!」

「姫様に!」

「姫様に!」

「姫様に!」

「勝利を!」

「勝利を!」

「勝利を!」

「勝利を!」

「勝利を!」


 僕はリールの言う通り近くにあった北部軍の軍旗を取り、台の最前部へと力ずよく足を進めた。

 もう帝都で怯え、弱く、生き延びることしか考えられない僕はいない。

 この北部で生まれ変わった力強く、賢く、なにより最強の仲間を連れた僕は最前部から30万の家族の一部がいる練兵場へ高々と軍旗を掲げた。


「北部に!姫様に!勝利を!栄光を!」

「北部に!姫様に!勝利を!栄光を!」

「北部に!姫様に!勝利を!栄光を!」

「北部に!姫様に!勝利を!栄光を!」

「北部に!姫様に!勝利を!栄光を!」

「北部に!姫様に!勝利を!栄光を!」


 そしてリールに行った。


「行こう!僕達の新しい戦場へ」

「はい、たとえ相手が何者であろうともどこにいたとしてもお供します。ずっと」


 リールは笑みを浮かべ僕の武器である短槍を差し出してきた。

 僕はそれを取り、腕章を付けたうえでを空に掲げる家族の中を進んだ。

 

 行こう!

 戦場へ!

遅れました!


読んでくれてありがとうございました!



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