36話 最盛と衰退
「大きな違い?」
先生は続けた。
「はい、人種の価値観です」
「人種?フェリキア人とそれ以外の民族ってこと?」
「そうです。統一国はフェリキア人が軍事、その他の奴隷階級の人種がその他の労働をこなすという分業体制が確立されていました。しかし敵の諸国は人種によるものではなく身分による分業を行っていたのでフェリキア人のほぼ全人口を戦争に投入できた統一国と違い兵力が劣っていました。」
あらためて聞くとフェリキア人は戦いに明け暮れていたことがわかる。
「それに加え、国家として統一されていなかったので内部の対立もあり、結果としてあっさり諸国は制圧されました。」
「これで大陸統一だね」
「はい、最後の対抗馬に圧勝した統一国は一部の属国を除き、大陸を制圧します。統一が完了するとすぐに身分制度の確立に着手します。」
「フェリキア人がトップの封建制社会を作ったんだよね?」
「さすが皇女様です。フェリキア人は皇族を中心とした上級身分でその他の人種は下級身分、すなわち平民になります。奴隷身分からは解放されたもののいずれも苛烈な軍事力による統治が続きます。」
これに関してはよく知っている。
今もその文化が残っていて、今の帝国の貴族もほとんどがフェリキア人の子孫だ。
「そこからは多くの大規模事業が実行されます。有名なのが他大陸への入植事業です。数万隻の大船団を率い他大陸へ入植を始めました。これを行ったのが有名な「ボレス入植帝」です。彼は最初に軍を送り現地国家を瞬く間に制圧すると本国から送られる大量の物資をもとに多数の入植都市を作り上げました。それらの都市は今でもその大陸の国家の首都になっているものもあります」
「確かそこが全盛期だったんだよね」
「はい、ここまで何もかもうまく行ってきたフェリキア人ですがここで悲劇が立て続けに起こります」
ここはよく覚えている。有名な時代だ。
「最初に起こったのが歴史的な凶作です。これは5年続くことになります。結果として当時の統一国直轄領の総人口2割に当たる1200万人が餓死することになります。後に「人種飢饉」と言われました。」
「人種飢饉?」
「はい、この時上級身分のフェリキア人は総人口の約1割を占めていたのですがこの凶作で餓死したのはすべて下級身分の他人種でフェリキア人は誰一人として飢えることはなかったのです。それによりフェリキア人に対しての反感が高まります。」
フェリキア人はこの時まで一応他人種を軍事力で押し付けてきたがもう後戻りできないほどになったのだろう。
「それに続けて起こったのが「魔災」です。」
これは有名だ。
これによって統一国は滅ぶことになる。
「今はほとんどが絶滅したと言われていますがこの時代には魔獣が大陸中を闊歩していました。不思議な力により普通の動物より賢く、統率が取れていて強い猛獣のことです。統一国は定期的に軍を派遣して駆除していたのですがある日突然魔獣が急増し始めたのです。」
「何で急に?」
「原因はいまだわかっていません。この「魔災」により統一国の主要都市数個が陥落、一時は首都であるヴェスターも陥落寸前になるほどでした。魔獣が休眠期に入る冬に統一国は軍を再編し、巣を特定しました。これがよかったのか20年かけてやっと魔獣を背圧することができました」
「ここからが大事なんだよね」
「その通りです。魔獣との戦いに勝利した統一国ですが本当の戦いはここからでした。20年に及ぶ死闘の末勝利しましたが軍の約8割が戦死したのです。この時、軍はすべてフェリキア人によって構成されておりそのフェリキア人も男女問わず幼少期より英才教育を受けてきたエリート集団でした。」
これは習ったときから印象に残っている。
北部の老若男女問わない実力主義はここからきている。
「そのエリート軍の8割が消滅したのです。統一国全土を抑えるのは兵力的に不可能でした。そのため苦渋の決断として他人種も軍への入隊を許可するようになります。これによりフェリキア人が独占していた軍事力が他人種にわたることとなります。もちろん統一国も人口が復活し次第フェリキア人に置き換えていくつもりでしたが間に合いませんでした」
「第一次大反乱期だね」
「はい、最初の反乱は一番新しい領土、すなわち他大陸の入植領で起こりました。大陸が別ということもあり増援が長時間来ない現地守備軍はすぐに反乱軍に壊滅させられます。増援が到着したころには旧現地国家の指導者一族を中心とした組織化された反乱軍が待ち構えていてここで統一国は更にフェリキア人兵士を失うこととなります。これに続いて本国でも現王国領・南部海岸線・東西領の準んで反乱がおこります」
「確か半分くらいが独立に成功したんだっけ?」
「はい、統一国も必死で他人種部隊、フェリキア人部隊構わず投入して人海戦術を展開した結果半分の反乱を鎮圧しました。しかし統一国にも限界が来ていて結局半分は独立を認めて第一次大反乱期は終了します」
ここで統一国は初めての敗北を味わうことになる。
「その後、統一国内も反乱によって荒れ果てていて、ヴェスターを中心に復興をしていましたがそれもつかの間で今度は第二次大反乱期がやってきます。これは統一国崩壊の決定打になります。冬の夜に首都ヴェスターで他人種の兵士が蜂起したことから始まります。これはすぐさま制圧されましたが全国に波及しフェリキア人の割合が比較的高い北部でも反乱が頻発します。」
「こうなったら統一国にも止められないね」
「はい、そのとおりで反乱軍の総数は統一国正規軍の2倍にも膨れ上がりました。しかもまだフェリキア人の人口が回復しておらずエリート兵もいませんでした。結果統一国はここで崩壊することとなります。ちょうど現在の帝国領土を除きすべての属国、支配地が独立し統一国は大陸の覇権的地位を失ったので国名も統一国から帝国に改められたのです」
次回投稿は火曜日になります。
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