33話 ヴァルド
ゴロゴロッ
ガシャーンッ!
大雨の中大きな雷が地上に打ち付けられていた。
今馬で走っているが走っている道には人気はない。
この大雨ではさすがにドワーフのたくましい商人たちも通行できなのだろう。
「よし、もうすぐだ」
僕は道のわきに建てられた石柱を見て言った。
これは軍が定期的に場所を変えて設置している距離を示す印だ。
定期的に場所を変えることで北部軍の観測官でないと利用することはできない。
僕は今回場所がすべて書かれた地図を持ってきたから読める。
本当は最高機密だがリールがちょうど持っていたのをもらってきた。
この道は軍事用の道だ。
平時は商人たちが行き来し緊急時は軍が出撃、撤退に使う。
そのためわざと道を未舗装にしている。
北部軍はいつもの訓練で森の中だろうと沼地だろうと砂漠だろうと気にせず進める。
しかし、他の軍は旧式の馬車や未熟な歩兵がいるため未舗装の道を進むのは時間がかかるのだ。
「よし!やっと見えた!」
そう言って僕は険しい山脈の狭間に鎮座する一つの城を見た。
ヴァルド城だ。
北部軍の実質的な本拠地はヴェスターだが形式上の本拠地はこのヴァルド城だ。
それと同時に代々北部軍の司令官を務めてきたフォーク家の居城でもある。
僕も小さい頃はヴェスターよりここに長くいた。
巨大で戦闘に能力をすべて振ったヴェスターとは違い最低限の防衛能力を保持しつつこじんまりとしていて所々金などで飾られていている。
リールによるとフォーク家は断っているが仲のいいフルテッド王国や北部の商人たちから毎年大量の金銀財宝が送られてくるらしい。
「止まれ!誰だ!」
僕が馬に乗ったまま正面門に駆け寄ると門の守備兵に止められた。
フードをかぶっていて顔も見えないし何よりこんな大雨の中馬で単騎走ってきた人なんて怪しくないはずがない。
「僕だよ!」
そういって僕はフードを取った。
「姫様!?え、この大雨の中来たんですか!!!」
「そうだよ、昨日の夜ヴェスター出たばっかりだから疲れてるんだ。中に入れてくれる?」
「もちろんですが、、、一晩中馬に乗ってたんですか!?」
もう朝日が昇り始めている。
僕は一晩中休まず移動してきたのだ。
僕も案外体力ある方だけど馬のほうもすごい。
おじい様がくれた軍の交配種じゃなきゃとっくにばてていただろう。
「そうだよ。」
「す、すごい、、、あ!すいません、開門!」
守備兵が大声で門の反対側に伝えると門の留め具が外されてゆっくりと門が開いた。
門も良質な鉄と金で作られている。
ゴー
ゆっくりと門が開く。
門はそこまで大きくないが二重になっていて戦闘能力は最低限と言っても北部らしい戦闘重視の構造になっている。
「開門完了!カウント開始!」
「開きました姫様どうぞ」
「ありがとう」
僕は馬を城内へ進めた。
僕が通り過ぎると門はすぐに閉まった。
軍の規則でこの城の門は緊急時以外は決まった時間以上開けてはならないことになっている。
密偵や奇襲を極限まで防ぐためだ。
「姫様!おかえりなさいませ。こんな豪雨の中どのようなご用件でしょうか?」
メインホールがある建物から執事が出てきて言った。
彼はずっとこの城の執事長を務めているフォーク家の執事だ。
まだ北部に来たばかりの小さい頃はいろいろとお世話になった。
「ごめんね、こんな時間に来ちゃって。先生はいる?」
「いえいえ、姫様でしたらいつでも歓迎です。はい、第一研究棟にいらっしゃいますよ。ご案内しますか?」
「いいよ、この城は僕の庭みたいなもんだからね。ありがとう」
「お気を付けて行ってらっしゃいませ」
僕は執事と別れて厩舎に向かった。
馬を厩舎にとめるとその足で城の一番奥にある研究棟に向かった。
この研究棟は北部が誇る世界最高峰の学者たちが大勢いる。
巨大な建物の中には研究施設がいくつもあり、建物自体も3棟ある。
ここでは日々軍事・経済・食料など様々な研究が行われていて先端技術を北部全体に提供し続けている。
帝都にも似たような施設はあるがそことは違う点に極端な実力主義というものがある。
年齢・性別・身分は関係なく能力が高ければ学者団を組織できて毎月フォーク家と北部軍から莫大な研究資金が提供される。
そして彼は僕の知識を育て上げた先生でもある。
「おっ!皇女様ではありませんか」
「先生!」
若い長髪で片眼鏡の男性が話しかけてきた。
後には白衣を着た大勢の研究者を連れている。
彼はルードヴィヒ・アルノルト、28歳という若さでこの世界最高峰のヴァルドの全学者団をまとめ上げている天才で今は研究部門上級理事をやっている。
後ろに連れているのは彼直属の先鋭学者団、「フォーク学者団」だ。
今より若かった彼は少し厳しかったけど教えるのは上手くて何より天才から学べるのがうれしかった。
「お久しぶりです。そういえばトレビュシェットはどうでしたか?一応軍からの報告は読みましたが実際に指揮した人から聞きたくて」
トレビュシェットを僕の雑然とした発想から実用兵器にしたのも彼だ。
「すごく使いやすかったよ。ただあえて欠点を上げるなら弾の種類が少ないことかな」
彼は生粋の学者だ。
「すごくよかった」という感想よりも改善すべき点を求めているのは実際に幼少期生徒だった僕はわかっている。
「フム、、、では設計段階のあれを実証段階に進めるべきか、いや、派生型を増やした方が、、、」
彼や後ろの学者たちは早速研究モードに入っている。
「先生、」
「ん?なんでしょうか?」
僕が先生を呼ぶ。
「、、、先生、ちょっと二人で話せる?」
「今は実験の準備がありま、、、わかりました」
僕の真剣な顔を見て何か察しようだ。
「行きましょう。お前たちは例の実験の準備を進めておいてくれ」
「わかりました。上級理事」
僕たちは静かに話せる場所を求めて講義室に入っていった。
次回投稿は火曜日になります。
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