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32話 決心

コンコン


「殿下、よろしいでしょうか」


 リールが来た。

 あれから1日は部屋に閉じこもっている。


「、、、」


 もうどうでもよくなってきた。

 どうせ無理だったんだ。

 僕がずっと幸せになるなんて。

 あと2か月で僕は帝都に連行される。

 僕を呼び戻すよう提案したのはどうせ第一皇妃あたりだろう。

 あっちに行ったら政治の道具にされるだろう。

 良くても政略結婚、最悪大量の汚職を着せられて粛清される。


「殿下、もう1日になります。せめて何かお食べになって下さい。」


 リールが無反応の僕に対してめげずにドアをノックしてくる。

 、、、悲しい、、悔しい、、、

 リールが、、おじい様が、、みんながいるのに、、

 一緒にいられるのはあと2か月、、


「もう入りますよ。いいですね」

「、、、」


ガチャ


 リールが入ってきた。

 スープとパンが乗ったトレイを机に置いて僕が縮こまっているベットに近づいてきた。


「殿下、、、お食べになってください」


 パンをリールが差し出してくる。


「どうせ、、、どうせ2か月で僕は帝都に行く、、、もういいよ。もう、、もうどうせ、、、どうせなら大好きなここで死にたい」

「殿下、、、」


 そうだ、、

 ここで死にたい。

 帝都にいって処刑されるくらいならここで餓死したい。

 ここには大好きなみんなもずっと過ごしてきた要塞もある。

 ここで死ねるなら本望だ。


「殿下、、殿下」


 リールがパンを置いて毛布をかぶった僕をさすってくる。

 失望しただろうか?

 当然だ、いままで散々自分は賢く強いと高を括ってきたのに今はこんな哀れな状態だ。

 失望して当然だ。


「殿下!!!」


バサッ!


 リールが毛布を剥いで僕を両肩を強くつかんだ。


「殿下!!顔を上げてください!!!」

「なっ!」


 引き起こされ見えたリールの顔は目頭が真っ赤に染まり、涙でびしょびしょに濡れていた。

 僕はそんな弱弱しいリールを見たことがなかった。


「でん、、か、、ぐすっ、、あなたはそんな弱い人じゃないはずです!!」


 弱弱しい顔とは反対に彼女の手は力強く僕の両肩をがっしりと掴んでいた。


「殿下は、、殿下はいつも私たちを導いたじゃありませんか!!」

「ッ!!!」


 リールの言葉は絶望して諦めていた僕に深々と突き刺さった。


「そんな殿下なら自分を導けないはずがありません!!」


 僕の視界が一気に明るくなった。

 谷底のような真っ暗な部屋が一瞬晴天の空みたいに明るくなった。


「もし、、、もし自分で、、、導けなかったら?」


 僕はやっと口を開いた。

 リールの言葉が刺さってもなお怖かった。


「もし、できないのなら安心してください。」


 リールは穏やかな顔になって絶望した僕の顔を自分の胸にうずめ、優しく、でも力強く僕を腕で包んだ。


「いついかなる時も、、いつでも私たちがいます。あなたは一人じゃありません、、、数百万の北部人、、、みんなが味方です。」


 リールは力強く宣言した。

 その時僕を包んだ彼女の腕はなぜかいつもより何倍も優しく、大きく見えた。


「北部、、みんなが、、、」

「ええ、だから顔を上げて、、、顔を上げて立ち向かってください。自分を導いてください!!」


 ああ、僕はなんて馬鹿なんだろう、、、、

 僕は、、僕はこんなに強く、賢く、、何よりこんなに僕を思ってくれる人たちがいるのに、、その人たちが望んでくれている幸せな人生を勝手にあきらめようとしていた。

 なんて、、なんて愚かなんだろう。


「リール、、、」

「はい、殿下、、いえ私のかわいい妹、、」


 リールは優しく応えてくれた。

 それに、僕を妹だと迎えてくれたのだ。


「殿下は、血がつながっていなくても、北部で生まれていなくても、もう立派な私のかわいい妹です。"北部の姫"です。」


 リールはもう一度強く僕を抱きしめた。

 その瞬間、僕を暗闇に押し込んでいた絶望が消し飛んで涙が溢れだした。


「リール、、、お姉ちゃん、、うわぁぁぁん!!!」


 リールの胸に顔をうずめてひたすら泣いた。

 暮れかけていた日が完全になくなるまで、リールの温かい胸に身をゆだねた。



ー-------------



「リール、もし、、もし僕が帝都に行って正面から争うって言ったらついてきてくれる?」


 リールはやっと泣き止んだ僕に笑顔で言った。


「もちろんじゃないですか。私たちはどこまででもついて行きます!!」

「ありがとう、、、お姉ちゃん!!!!!」

「軍でも外交官でも技師でも、殿下のためならどこまでも隊列をなしてついて行きます。だから、、だから殿下は気にせず進んでください」


 優しい、、

 ここ以外どこにも存在しないくらいの優しさだ。


「こうしちゃいられない!」


 僕は立ち上がって涙を拭って頬を2回強くたたいた。


「よし!僕は帝都から迎えが来るまでの2か月城に籠る。リールは軍内をまとめてくれる?」

「了解しました!おかえりなさい!我が指揮官!我が主君!」


 リールは立ち上がった僕を見てうれしそうに敬礼した。


「どのような方向でまとめますか?」

「あっちが政争を望むならこっちだって正面から政治の場で勝ってやる!ってことで僕は帝都に行って政治的に勝って必ずここに戻ってくる。その方向でまとめて」

「了解しました!」

「たぶん、軍内には強硬派がでると思うけど何とか止めて、今の北部ではクルヴァ地域を併合したとはいえまだ収穫前だし農民も足りないから南部とは戦えないからね」


 そうだ、兵力・練度・装備の質、すべてにおいて北部は南部、すなわち帝国本土を圧倒している。

 しかしまだ食料のために併合したクルヴァは収穫どころか植え付けもまだ済んでない。

 それにもともとの農民は王国本土に逃げたかクルヴァ攻略戦で死亡したから今は北部の人員を引き抜いて凌いでいる。

 労働力が足りないから広大な農地を活用しきれていない。

 あと2年、あと2年すれば北部は完全な自給を成し遂げる。

 だけどそれは裏を返せば2年は南部に勝てないということだ。


「わかりました、、、ってもう行くんですか!?」

「うん、2か月しかないからね」


 僕は着替え終えたところだった。

 ワンピースから軍服に着替えていた。


「今日は大雨ですよ!?せめて明日からでも」

「時間は待ってくれないからね。じゃあ行ってくる!」


 僕は勢いよく扉を開けて厩舎へ向かおうとした。


「殿下!」


 リールが腕を掴んで制止してきた。


「わかりました。行くことは止めません。しかしこれをもっていってください」


 そういってリールは1つのバッチを差し出してきた。

 

「これは?」

「我々フォーク家の家紋です。殿下も今日からつける権利があります」


 あらためて認めてくれたのだと思った。

 うれしかった。

 5歳の時唯一の家族から引き離されてからずっと欲していたものだ。


「ありがとう!!!!」


 リールに抱きついた。


「じゃあ行ってきます!」


 僕は初めてできた姉に手を振って厩舎に向かった。

 胸には金色のフォーク家の家紋が輝いている。

 戦準備は頑張らなくては。


「よし!頑張ろう!」


 頬をもう一度叩いて外套を身にまとい大雨の中進んで行くのだった。

遅れてすいません!

次回投稿は日曜日になります。


読んでくれてありがとうございました!



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