30話 全軍帰還
「全軍停止!装備を武器庫に預けた後点呼!」
「こちら第23軍団!ただいま帰還しました」
「同じく第12軍団帰還!」
「おい急げ!まもなく第9軍団が到着する!」
「南門第16軍団帰還!」
「東門第11軍団と第3軍団補給隊でいっぱいです!第5軍団は中央門に回ってください!」
ヴェスターでは怒涛の帰還ラッシュに各門がごった返している。
今回のクルヴァ地域制圧で反撃を警戒し各地に散っていた軍団が戻ってきたのだ。
もともとあった木の門とその手前にある金属製の新しい門は門を管理する守備部隊によってせわしなく開閉している。
今このヴェスターには数年ぶりに帰還可能な全兵力が集結しつつある。
何故おじい様は招集したのかわからないがただではないことだけはわかる。
この要塞には帝国のみならず全世界で最大の軍事力が集まっているのだ。
周辺諸国や南部に警戒されるだろう。
だが同時にそれを無視してでも集めなければならないということだ。
「先行している伝達兵から報告です。すでにヴェスターには第2・6・7・8・9・10・11・12・13・15・16・20・21・23・24・25・26・28・30軍団が入城しているようです」
「了解、僕たちは先に入城してよう。着替えておじい様に事情聴きにいかなきゃ」
「そうですね。指揮権は副司令官に移譲します」
「行こう」
「はい、全軍これより指揮権を副司令官に移譲する!副司令官に従うように!護衛隊はついてきて!」
「了解!」
「了解!」
「了解!」
「了解!」
リールが指揮権移譲を宣言すると近衛隊と第一軍団の兵が大きな声で返事した。
近衛隊から選抜された先鋭、護衛隊が僕達についてきて護衛する。
ヴェスターは安全だから普段は一人で行動しているがおじい様から全軍帰還命令が出ているため規則に従って指揮官は護衛を連れている。
「殿下が通るぞ!皆道を開けろ!」
リールが大きな声で前の兵をどかす。
前に整列している兵はリールの声を聴くと統一された動きで道を作る。
「おっ!姫様~!」
「お疲れ様です!」
「今度うちの軍団遊びに来てください!」
「いや!うちにお願いします!」
通りかかるたびにみんなから声を掛けられる。
「人気者ですね~」
リールがニコニコで言ってくる。
「まあね、ヴェスターに子供と言えば僕くらいしかいないから」
僕たちはごった返す兵たちをかき分けるように進むと武器庫が見えた。
中央武器庫とは別にヴェスターには各門に武器庫がある。
そこで武器を預けて管理するのだ。
「整列急げ!」
「第3軍団補給隊を優先して通せ!」
「第30軍団入城完了!南門閉門!」
20軍団以上が昨日・今日に一気に帰ってきているからか門の守備兵は増員され帰還軍団を誘導している。
「みんな大変そうだね。」
「はい、ここまで一気に帰還することはありませんできたからね」
「そういえば宿舎は足りるの?」
このヴェスターは文字通り世界最大の要塞だが20軍団以上の兵力を泊められるのか疑問だ。
「この前各宿舎の増築が完了しましたので何とか入りそうです。結構詰め込むことにはなりそうですが」
それなら安心だ。
「それより大変なのが厨房ですね。兵の他に技師や工房の職人たちも食わせなきゃいけないので合計数十万食を作らなきゃいけません」
「それは、、大変そうだね」
「まあおじい様のことなので各軍団からそれなりに動員して間に合わせると思いますが」
「それでも大変だね。食料も保管庫開かなきゃいけなさそうだし」
「はい、そうですね。とりあえず早くおじい様おじのところに行きましょう」
「そうだね、行こう」
僕たちは指揮官用の厩舎に馬をつないで自分たちの宿舎に向かった。
相変わらず通路や練兵場は人で埋め尽くされている。
混乱を避けるために要塞内に入っても各軍団は整列歩行を継続している。
人が余っているためただでさえ多い城壁の守備兵はいつもの5倍に増員され各建物には2大隊の守備兵が常駐している。
このヴェスターは敷地とそれを囲む城壁があまりにも巨大なため大きさは大都市並みだが違うのは隅々まで防衛を想定していることだ。
通路は狭く練兵場は広い。
1エリアだけで数百の大小さまざまな建物が並びそれが数エリアある。
僕たちが入ってきた南門から僕の部屋がある近衛隊宿舎まで歩きでは2時間くらいかかってしまう。
そのため要塞内には大きな馬車が決まった地点を巡回している。
今日は人が多いため荷運び用の馬車も動員されいつもの数倍の数が動いている。
僕たちは近衛隊エリアまで行く馬車に乗り宿舎に着いた。
「繰り返しになっちゃうけど何でおじい様は集めたのかな?」
「わかりません。ただ早急な戦闘というわけではなさそうです。各軍団の長期滞在の用意が進められています」
「じゃあ情勢的に何かが動いたのかな?」
「恐らくそうでしょう。各軍団に聞いて回ってみましたが誰も知らなかったので極秘で何か報告があったのでしょう」
何か嫌な予感がする、、、
僕は何か引っかかる感覚を持ちながらいつものワンピースに着替える。
「よし!着替えたから行こう!」
「はい、もうすぐ循環馬車が来るはずです。それで行きましょう」
僕たちは再び馬車に乗っておじい様の総指揮官執務室がある北部軍最高司令部に向かった。
着くと司令部も各軍団帰還の対応に追われているようで慌ただしく兵が駆けまわっていた。
「行こう」
「はい」
中に入ると待機していた文官がおじい様のいる執務室まで優先して通してくれた。
司令部の建物自体はいつも通り活気に満ちていた。
各軍団の指揮官達や本部司令官・高位文官達が補給計画や入城した軍団の登録などを行っていた。
だが文官が開けた道を通りおじい様の執務室に近づいていくとなぜか人通りが少なくなり雰囲気も暗くなっていった。
「中で閣下がお待ちです。」
「わかった。ありがとう」
僕達が入ろうとすると
「あ、閣下からの伝言で最初は姫様お一人で入るようにとのことです」
「なぜ?」
「私もわかりません。とにかくお連れしろとのことだったので」
「、、、わかった。リールはここで待っててくれる?」
「了解いたしました。入ってよくなったらお教えください。」
「わかった。じゃあ行ってくる」
リールと護衛隊を扉の前に残して僕は重厚な扉を開けた。
なぜか扉はいつもより重く感じていた。
「おじい様、ただいま」
部屋に入るとおじいさまが机に深刻な面持ちでついていた。
ため息をついていてなぜか返事がない。
「おじい様?」
「殿下、、、申し訳ありません」
次回投稿は火曜日になります。
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