29話 代表団
「殿下、来ました」
「あれが代表団か」
村はずれの丘で待っているとちょうど王国の代表団が来た。
特に警戒した様子もなく進んでくる。
先頭にはフードをかぶった者がいる。
恐らく代表団の責任者だろう。
「始めまして。こちらの申し出に応えていただきありがとうございます」
先頭の者が話せる範囲に入ると話しかけてきた。
「こちらこそ良い提案ありがとうございます」
僕が返答する。
「せっかくですのでよければお茶でもどうでしょう?」
「ありがとうございます。ぜひ」
僕が用意しておいた簡易テーブルとイスに誘導すると素直に座った。
珍しい。
王国の貴族や軍人はプライドが高いのが普通なのにこの人はまだ13歳の僕に素直に応えてくれる。
僕たちはテーブルについた。
少しするとこちら側の女性兵がお茶とお菓子を運んでくる。
もしもの時のために近衛隊から格闘術に長けている女性兵を給仕として配置している。
「ではいただきます」
フードを脱いでお茶を飲んだ。
顔が見えたが驚いた。
僕ほどではないがすごく若い少年が目の前にいたのだ。
まだ子供っぽさが残っている顔に低身長の体、王国では16歳で成人だが成人しているのかギリギリなくらいだ。
彼は何の警戒もなくお茶を飲んでいた。
普通敵から出されたお茶は警戒する。
もちろん毒など入れていないがそれでも怖くないのだろうか?
「お若いのですね。」
「皇女殿下ほどではないですよ。今年で17になります」
「いえいえ、私は要塞で育ったので戦場には慣れているんですよ。ハハハ」
「それはご苦労も多かったでしょう。えらいですね。ハハハ」
お互いに作り笑いをして和やかな雰囲気を演出している。
一応僕たちは数十万の戦死者を出している大戦争をしているのだ。
その証拠に僕たち交渉団の後ろには近衛隊と第一軍団合計2000が臨戦態勢で盾を並べている。
緊張した場面が続いて気付くとお互いにお茶を飲み干していた。
「さて、美味しいお茶もいただきましたし本題に入らせていただいてよろしいでしょうか?」
「ええ、ぜひお願いします」
彼は陶器のティーカップを置いて本題に踏み入ってきた。
「まずは自己紹介から、私はエルト・フォン・ティース。この代表団の責任者を務めさせていただいています。皇女殿下に置かれましてはお元気のようで何よりです」
「よろしくお願いします。エルトさん。」
「よろしくお願いします。この度は金銭と捕虜の等価交換ということでよろしいでしょうか?」
「はい、一般兵は1人金貨2枚、指揮官級は金貨100枚ということで提示させていただきましたがよろしいでしょうか?」
「はい、それで構いません。指揮官4人と一般兵4000で計8400枚の金貨ですね」
「そうですね。ここで全額お支払いいただけるならこちららもすぐ引き渡せます」
「構いません。すぐにお支払いできる量を持ってきました。」
意外にも素直に受け入れた。
王国はクルヴァ地方を収穫前に失陥したから財政的には圧迫されていると聞いたけど。
まあ、そのまま受け入れてくれるならこれ以上なにか粘る必要もない。
「では決まりですね。こちらもスムーズに話が進んでうれしいです」
「こちらこそありがとうございました。では詳細は部下に任せてもよろしいでしょうか?」
「はい、こちらも近衛隊長を推薦しましょう」
「では部下たちの話が済み次第交換と行きましょう」
僕たちはお互いに立ち、握手をした。
正直もっと粘ってくると思った。
金貨8400枚は大金だ。
こちらより1000人多い兵を連れてきた割には要求がなかったのが拍子抜けだ。
「では私はこれにて、また会えるのを楽しみにしています。敵同士とはいえあなたとはなぜか気が合うような気がする」
僕もだ。
この不思議な王国の少年には親近感が湧く。
「私もなぜかまた会えるような気がします。その時はよろしくお願いします。」
こうして王国の不思議な少年との会談は驚くほど何もなく終わった。
あの後リールが王国側の文官と協議して詳細が決まった。
ー-------------
「、、、何もなかったね」
「はい、不気味なほどに」
あれから決まった詳細の通りに捕虜と金銭の交換が行われた。
交換作業は1日で終わり、確認が済むとお互い自らの領地に向かって歩いて行った。
「そういえば今回稼いだお金何に使う?」
「ん~無難に考えれば城壁の補強や装備の補充でしょうか?」
「確かにそれもいいね」
今回交換で手に入れた王国金貨8400枚は小麦に直すならば北部人全員が1年食べていくことができる量だ。
幸い小麦に関する悩みは解決しつつあるためこれだけの大金を何に使おうか迷っている。
「まあ、かえっておじい様に聞いてみよう」
「そうですね。それが賢明です」
最近はクルヴァから摂取した黄金や北部から産出される膨大な量の宝石を見てきたためか金銭感覚が狂い始めている。
正常な金銭感覚を保持しているおじい様に判断を仰いだ方がいいだろう。
「伝令!伝令!ヴェスターより緊急の伝令です!」
小麦畑の間を馬で進んでいると軍の列の前から伝令兵が大急ぎで馬で駆けてきた。
「報告せよ」
リールが言う。
「は!伝令内容を読み上げます!「ヴェスター要塞より北部軍最高司令官ブラン・フォン・フォークが命令する。各防衛拠点駐屯部隊以外の全北部軍部隊は即時ヴェスター要塞に帰還せよ。これは最優先命令である。」」
驚きの内容だった。
駐屯部隊以外の全部隊と言えば総兵力24万の大軍勢だ。
移動だけでも一大イベントだし、周辺国家や帝国内の軍事バランスが大きく揺らぐことになる。
でもおじい様が言うならそれだけ重要な事態なのだろう。
「以上?」
「はい!以上です!」
「了解。ありがとう」
伝令兵はそのあとすぐに自分の部隊に戻っていった。
「どうされますか?殿下」
「おじいさまが言うならそれだけ重要なんでしょう。詳細がないのも恐らく漏洩を危惧してるんだと思う、、、直ちに全軍行軍速度を3速に上げ、帰還する。」
「了解しました。全軍!3速!ヴェスターに急速帰還する!」
僕たちは進んでいた道を大きく外れ金貨集積地のクルヴァではなくヴェスターに直接通じる道に入った。
でも、、、
何か嫌な予感がする、、、、
次回投稿は日曜日になります。
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