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27話 歓声と影

あれから1週間、行きと違ってゆるい雰囲気でゆ~くりかえっていた。

 先行して安全を確認していた偵察隊から何度か敵の残党が野盗化して旧国境付近にいると報告を受けたがみんなこの2万の軍勢を見るなり尻尾を巻いて逃げて行った。

 普通なら追いかけてとらえるのがいいんだろうけどあと1週間でヴェスター・クルヴァ両方から街道の治安維持部隊が展開されるから放っておいた。

 どうせ僕たちの侵攻が始まってからキャラバンは例外なくストップしているから襲うものもないだろう。

 それにせっかくワイワイ楽しく帰ってるのに働きたくないしな~


「殿下、あと少しでヴェスターです。」


 隣の馬からリールが言ってきた。

 そういえばもうすぐだ。

 よくよく考えてみてばこんな長期間の外出は久しぶりだったな~


「また時間があればクルヴァ行きたいね」

「ですね。耕作地は春になれば黄金色に輝いて美しいらしいです」

「おー!それは見たいね」


 今まで芋くらいしか栽培してこなくて一面の小麦なんて夢のまた夢だった僕たち北部人にとって自分たちが統治する地の黄金色の耕作地はいろいろな意味で美しいだろう。


「あ!殿下、見えてきましたよ。ヴェスターです!」


 森を抜けるとそこには大きくゆるぎない「我が家」が見えた。

 10万人の増員に伴って増築された城壁によってもともと壮大だった規模はそれ以上になり、我が家ながらそのどっしりと北部一の要衝に立つ姿は改めて偉大に見えた。


「殿下!」


 新しく作られた正門に一人の老将が立っていた。

 おじい様だ!


「おじい様!」


 僕は2年ぶりにおじい様の腕に飛び込んだ。


「完勝ですね。おめでとうございます」

「僕だけの成果じゃないよ。強くなったみんながいたからできたんだよ」

「謙遜するところも殿下が賢い証拠ですよ」

「えへへ、」


 僕は一瞬世界最大の軍隊の司令官から13歳の少女に戻って目一杯甘えた。

 

「ほら殿下、行きましょう。皆が待っています」

「うん!リールも行こう!」

「はい、姫様」

「リールもよくやってくれたな。さすが自慢の孫娘だ」


 リールを呼ぶとおじい様がリールのこともほめた。

 リールはいつもは見せない少女っぽい笑顔だ。

 やっぱりリールも実の祖父に褒められるのはうれしそうだ。


 僕たちがおじい様と一緒に歩きで城門をくぐるとこれまで聞いたことないような歓声が僕たちを包んだ。

 

「非番の者はすべて集合しております」


 おじい様の言うと通りそこには各防衛拠点の当番と今クルヴァにいる3万を除いた25万が一堂に会していた。

 城壁の上・広場・建物の中・屋根の上までも人で埋め尽くされていた。


「北部!姫様!」

「北部!姫様!」

「北部!姫様!」

「北部!姫様!」

「北部!姫様!」

「北部!姫様!」

「北部!姫様!」


 僕たちが姿を見せた瞬間僕たち全員に歓喜の声が降ってきた。

 そのコールは要塞周辺のすべての地面・水面を大きく揺らしたほどだ。

 

「すごいですね!こんなの見たことありません!」


 リールも珍しく興奮気味だ。

 後ろに続いているみんなも驚いている。

 これはおじい様にやられたな~

 間違いなく世界最高のサプライズだ。


「おめでとうございます!姫様!」

「お前らもよくやった!勝利に!」

「これで北部は飢えることはないぞ!」


 統一されたコール以外にも方々から歓声や感謝の言葉が飛んでくる。

 ヴェスターで働く文官や技師たちだ。


「世界の中心にいるみたい」


 25万以上の人々の中心で歓声を浴びているのだ。

 ここが世界の中心だと言われても今なら信じる。


「何をおっしゃっているのですか?世界最大の軍が殿下に歓声を浴びせているのです。本当の世界の中心ですよ」


 おじい様が自信を持った様子で言った。


「ありがとう!みんな!」


 僕は目一杯の笑顔でみんなに答えた。

 僕は幸せ者だ。

 こんなにも仲間がいる。

 こんなにも家族がいる。

 ここは8年前は考えもしなかった楽園だ!


 僕はその日はすべて忘れて勝利と大勢の仲間がいることを楽しんだ。




ー-------------



 

 ベルヘルツニア帝国南部帝都貴族地区

 詳細位置不明


「聞きましたか?北部の猿どもが王国の城を陥落させたとか、それもその城は南部耕作地の中心地なんですって」

「ああ、聞いたよ。めんどくさいことやってくれるね。このままだと所有する商会の利益が落ちてしまう」

「それにしてもなぜ急に逆侵攻したんでしょう?」

「どうやら例の第五皇女がかかわってるらしい」

「ああ、あの追放された子ですか」

「うちのキャラバンの情報によるとどうやら北部軍の指揮官をやってるらしい。平民や兵からの支持も高いとか」

「目障りですね。まあ平民と雑兵からいくら支持されようとも我々には及ばないさ。それも蛮族と猿しかいない北部だぞ?」

「はは、そうでした。では適当に引き込んで捨て駒にでもしますか?」

「そうだね。まあ好きにしてくれて構わないよ」

「ありがとうございます。ちょうどおもちゃを切らしていたんですよ」

「それは大変そうだね。主にされる方が」

「ハハハ!」

「ハハハ!」


 高笑いがヴェスターから遠く離れた空に響くのだった。

次回更新は23日火曜日になりそうです。


読んでくれてありがとうございました!



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