25話 眼下の戦場
「ハァ、ハァ、」
リールが息を荒くしている。
彼女の足元にはさっきの男が身元を確認できないほどめちゃくちゃになって横たわっている。
「リール、やりすぎだよ」
「すいません、、、少し取り乱してしましました」
リールはそう言って剣の血を拭いて鞘に納めた。
彼女自身も返り血が体中にべっとりついている。
男を滅多切りにしてにやけていた姿にはさすがの僕も怖くなった。
「僕は大丈夫だから。それよりも行こう」
「そうでした。行きましょう、おそらくこちらです」
狂信者の不意打ちで忘れかけていたがこの教会には高台を求めてきたのだ。
それから一行は祭壇の奥にある階段から鐘がつるされた塔の最上階に上った。
「壮観な眺めですね」
「だね、他の高い建物は全部崩れたから眺めも良くなってる」
最上階に上ると眼下には焦土化した要塞内の町と防衛施設が見えた。
2階以上ある建物はさっきまでの攻撃で積極的に目標にされたためこの教会以外に高い建物は残っていない。
そのため要塞全体が眺められる。
「もうすでに攻撃は始まっています。現在、エレナさんが率いる部隊が正面門を突破しようと試みているところみたいです」
リールが正面に見えるメインキープを指した。
メインキープ、城や要塞の防衛拠点である「キープ」の中でも最重要であり最終防衛ラインでもある「メインキープ」は要塞中央に構えられた要塞内で一番高い建物だ。
もっとも、もう高い建物ですらないが、、、
メインキープの上層部はトレビュシェットの攻撃で完全に破壊されている。
残っているのは下の部分だけだ。
そして、そのメインキープではエレナさん率いる先鋭部隊が全身を続けている。
「突け!突け!」
ドンッ!ドンッ!
エレナさんの声がここまで聞こえてくる。
ちょうどエレナさんの部隊がメインキープの建物内に入る正面門をファスター特製のオリハルコン製破城槌で破壊しようとしている。
王国兵も必死に崩れた上層部のがれきから弓で応戦しているが盾が所狭しと並べられる亀甲隊形でことごとく跳ね返される。
まあもし盾を貫通したとしてもそれより硬いオリハルコンのフルプレートではじかれるんだけどね。
「エレナさんの気迫は遠くから見ててもすごいね」
「ですね。ここからは豆粒ほどにしか見えませんがそれでも放っているオーラが違います」
リールの言うと通りエレナさんからは他と違うオーラが出ていた。
まあ、単身敵本陣に突入していって指揮官を皆殺しにするような人だから当然か、、、
「第25軍団も初めての出陣にしては頑張ってるね」
「そうですね。確か新設した軍団の中では個々の戦闘力が一番高いとか」
リールの言うと通りだ。
新設した軍団は1軍団1万人ずつの10個軍団だが、その中でも個々の戦闘力では第25軍団が1番の成績をたたき出している。
個々が頑張ったのはもちろんのこと軍団長がエレナさんだということもあるだろう。
彼女が一人で敵陣を突破するような人だから兵もそれを見習って訓練しているのだ。
他の軍団は集団戦術を日々研究し続けているため一概に第25軍団が1番強いというわけではないが10個軍団の中では第25軍団の兵が単独では最強だろう。
バコンッ!
そう考えているとメインキープ方面から鈍い金属音が聞こえた。
「門を破ったようですね」
「こんなに早く破るなんてさすがだね」
メインキープのほうに目を向けるとエレナさんの部隊が正面門を蝶番ごと破壊して建物内になだれ込んでいた。
中では最終防衛ラインということもあって必死に王国兵が抵抗しているが相手はあのエレナさんだ。
そう長くはもたないだろう。
その後ろには第一軍団の古参兵と第25軍団の兵も続いていることだしね。
「この様子だと日没までにはメインキープ内の制圧が完了しそうだね」
「そうですね、戦闘に参加していない兵にはトレビュシェットの撤収と野営地の要塞内への移動を命じておきますがよろしいでしょうか?」
「うん、お願い」
朝に進軍し始めたが市街地の制圧確認に時間がかかったのもあってもう日が沈み始めている。
野戦も考えていたが門を破れたから今日はぐっすり寝れそうだ。
「あとヴェスターに伝令を出して」
「かしこまりました。内容はいかがしましょうか?」
「じゃあこう書いて、我が軍敵の作物倉庫を襲撃のち確保せりってね」
「作物倉庫、、、ぴったりですね」
リールがすぐに要塞に伝令を派遣した。
明後日にはヴェスターに着くだろう。
伝令には要塞を管理する文官の派遣も要請しておいた。
この2年で軍の諸々を管理する文官も大幅に増員したが、本格的な統治が始まればもっと人手が必要になるだろう。
「文官を増員するならまた前みたいに1から教育しなきゃですね」
「だね、南部から雇用しようとしたらほぼ全員汚職癖ついてるからね」
一度帝都などの南部から雇用したことがあるが必ずと言っていいほどすぐに汚職が発生する。
それだけ南部では汚職が当たり前のことなのだろう。
ただ、幸運なことに北部は優秀な学者が山ほどいる。
前はその学者たちに北部人を1から教育してもらって文官にしていた。
時間も金もかかるが兵達も南部から来た汚職だらけの文官に指図されたくないだろうししょうがない出費だ。
「野営地はがれきをどかしてメインキープ周辺に設営します」
「了解」
「殿下の天幕は最初に設営しますので先にお休みください」
「え、いいって。僕だけ休むのは気が引けるよ」
「だめです」
断言されてしまった、、、
「今日はいろいろありましたしずっと指揮取ってたんですから休んでください。みんなそれを望んでます」
「、、、わかった。じゃあ後は任せていい?」
「もちろんです。エレナさんも戦闘は一通り終わったようなので事後処理はお任せください」
「了解、ありがとう」
僕はそのあと過保護なリールに天幕に押し込まれてベッドに沈み込むのだった。
次話投稿は金曜日になりそうです。
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