12話 宴会
ザー
山から雪が溶け始め水量がいつもより多くなっている小川はそれを捌こうと川幅に見合わない轟音を鳴らしている。
僕は今軍の野営地から少し離れた森に来ている。
野営地から近いしいざとなれば持ってきたレイピアで何とかなるため護衛はいない。
リールは野営地に残って戦費報告と宴の準備に終われている。
「もっと、、、もっと効率的に、、、」
独り言をここ10分くらいつぶやいてる。
要塞はいつもみんなでにぎわっているためこうして完全に一人になれる時間はとても貴重だ。
今回の戦いで300人の家族が死んだ。
みんなは完勝だというがそれは違うと思う。
「もっと力があれば誰も死なせずに敵を殲滅できたのに、、、」
悔しい、、、
もっと緻密に、もっと確実に作戦を実行してれば、、、
どんなに勝っても後悔は無くならない。
周りがどんなに勝ったと言っても僕は決して勝ちだと思わない。
1人でも北部軍人が、家族が死んだらそれは惨敗だ。
そんなこと不可能だと内心わかっているがそれでもあきらめられない。
「もっと北部を強くしなきゃ」
曖昧だが答えが出た僕は野営地に向かって歩き始めた。
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「姫様も飲みましょうよ~!」
「おい!お前ら何言ってる!」
日が暮れて宴が始まった。
みんなが酔っ払ってリールがそれに怒っている。
「はは、みんな楽しそうで何よりだね」
「まったく、なにをやってるんだか、、、」
リールはご立腹のようだ。
「まあまあ、いいじゃん」
「帰り道が大変そうですね、、、」
「そういえば宴の食料ってどこから持ってきたの?」
「敵の野営地から接収した物を使っています。あとちょうど通りかかったキャラバンがいたのでその者達から買い付けました」
「キャラバン?」
「はい、王国側から伝統食品を買って北部に帰る途中だったとか」
現在帝国と王国は戦争中のため当然国交はない。
そのためお互いを結ぶ定期便もなければ貿易路もない。
どこの国にも属さない民間のキャラバンは重宝される。
「そのキャラバンはどこにいるの?」
「たしか野営地の端に馬車を止めてたと思います。早朝に我々より早く出発するそうです」
「へ~どこに向かう予定なの?」
「帝都に拠点かあるそうなので帝都に帰るそうです」
「帝都、、、」
ふと帝都での嫌な過去がフラッシュバックしてくる。
「まあ彼らのほとんどは北部人やドワーフで構成されているので結構感じはよかったですよ」
それを聞いて安心した。
帝都がある南部の人間は基本的に北部を見下している。
そういう人たちとはあんまりかかわりたくない。
「わかった、じゃあ少し散歩してくるよ。リールはみんなが羽目を外しすぎないように見ててくれる?」
「了解しました」
「じゃあ後で」
そう言って僕は宴で全体がお祭り騒ぎの野営地を歩き始めた。
「あ、姫様だ!」
「こっちで飲みましょうよ~」
歩いているといろんなところから一緒に飲もうと誘われる。
「また今度ね~」
今回は断ってまた歩き出す。
それを数回繰り返しているうちに野営地の端へ着いた。
18万人が集まる小さな町を横断したためか少し達成感があった。
端に来ると多くの荷馬車と北部軍とは違う兵士が見えた。
おそらくリールが言っていたキャラバンとその護衛だろう。
少し見に行ってみよう。
「おい、小娘、ここから先はパルテ商会のキャラバンだ。自分の家へ帰れ」
護衛の兵に呼び止められた。
いつもどうりのシンプルなワンピースだったため近くの村の村娘にでも間違われたのだろう。
「ああ、僕はこ、」
「いいじゃない、ちょっとぐらい」
身分を明かそうとすると少女が割って入ってきた。
僕と同じくらいの年齢で黒髪長髪だ。
服はキャラバンの旅には似合わない豪華なドレスでおそらくいい身分なのだろう。
「ですがお嬢様、仕事ですので」
「ちょうど暇だったから話し相手が欲しかったの」
「しょうがないですね、これで最後ですよ」
「わかったって」
どうやら少女はこの商会のオーナーの娘らしい、僕と話が合いそうな感じだ。
「さあこっち来て」
「あ、ちょ」
手を引かれてキャラバンの中に入っていく。
少し付き合ってあげようかな。
「始めまして、ごめんなさいね。あの人いい人なんだけど少し無愛想なの」
「大丈夫だよ、兵士には慣れてるし」
「それならよかった。改めて初めまして。私はこのキャラバンを運営しているパルテ商会の次期オーナー、ミール・パルテよ。よろしくね」
「よろしく、僕はカーナこの北部軍に仕えているの」
「へー、北部軍に仕えてるんだ。すごいじゃない!」
「そうかな?」
「ええそうよ、北部軍は世界最強の軍隊よ。お父様も他とは違うってほめてたわ」
「ありがとう」
自分の軍を褒められて素直にうれしかった。
「そういえばお父さんはいないの?」
「お父さんは帝都の本部のいるわ、私は次期オーナーとして仕事についてきたの。そしたらあなた達が食料を売ってくれないかって提案してきたから。すごい儲けになったわ、通常の2倍の値段で買い取ってもらえたもの」
リール結構出したな。
ああ見えて宴結構楽しみにしてたみたいだ。
「まあ北部はお金には困ってないからね」
「うらやましいわ、金でも銀でもなんでも産出されるし技術もあるのだもの。いつか北部に商会を進出させるのが私の夢なの」
この子の言うと通り北部は大陸一の鉱物産出地だ。
そのおかげで仲の悪い帝都に頼らず独自の財源をもって18万の軍を養える。
「ありがとう、でも帝都からは軽視されがちだからおどいたよ」
「まあ帝都の貴族は軽視しがちよね。でも商人たちは違うわよ、成功してる商人たちは必ず北部と関係を持っているもの」
意外だった。
だが確かに北部の鉱物は帝都の商会が高値で買っていくし前におじい様と一緒に商人と話した時も敬意を持っていた。
案外商人たちは話の分かる人たちなのかもしれない。
「それはよかったよ」
「そういえばカーナちゃんはどこに住んでいるの?」
「僕はヴェスター要塞にいつもはいるよ」
「そうなの!ヴェスター要塞はいつも使っている経由地なの、今度来るときはまた会いましょう」
「うん、よろしくね」
「それでね、、、」
めったにないリールより年が近い同年代との話に戦争のことを忘れて話した。
気づいたら2時間がたっていたくらいに。
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