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星の採掘師たち  作者: 鋼玉 九兵衛
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妖しきブラックオパール

ロロク貿易の社長室。仕事道具とコーヒーメーカー、デスクの他にはホワイトボードしか置いていない、小ざっぱりした部屋である。そのホワイトボードには「緊急ミーティング」の文字が書かれている。


「詳しくは言えないが、最近かなり物騒な事件があったと警察から情報提供があった。 そこでウチも防犯に力を入れていきたいと思う。」


ロロクはホワイトボードの前に立ち、一時的に搬入された円卓に座る社員達に話をしている。


「鼻の利くトルアさんがいてくれたおかげで、今までトラブル無くやって来れたが、残念ながらトルアさんはトモルと交代でローイさんの仕事について行くことになった。」

「えっ!?」


アイドは思わず立ち上がる。


「トルアさんがいなくなっちゃうなんて、そんな急に…」

「ごめんね、アイちゃん。 でも夫の仕事にはずっとついて行きたかったのよ…」


トルアは申し訳なさそうにしている。ローイが続きを話し出す。


「その代わり、息子のトモルをロロク貿易で雇用してもらうことになったよ。 妻と同じように鼻も利くし、力も石の知識もあるから採掘でも役立てると思うよ。」

「怪しいヤツはすぐにとっ捕まえてやるから安心しな!」


トモルは鼻息荒く言う。アイドは不安を隠せない表情をしていた。


(本当に大丈夫かな…。 早とちりで関係ないお客さんを捕まえたりしないかな。)


トモルはサッとアイドの方を向く。


「お前今不安になっただろ。」

「バ、バレた。」

「大丈夫だって! まぁ一緒に頑張ろうぜ!」


ハッハッハと高らかに笑いながら、トモルはアイドの肩をバンバン叩いた。









数日後、アイドが店を閉めているとロロクがスーツを着込んで社長室から降りてきた。


「あれ、ロロクさんお出かけですか?」

「あぁ、リリーさんに食事に誘われてね。 今度オパールを使ったジュエリーを売り出したいからその相談に乗るんだ。 店で話せばいいのに、『親睦を深めるのも兼ねて食事でも』っておっしゃっていてね。」


(リリーさん、本当にがっつり狙ってるんだな…。 トモルの鼻は本物かも…)


「じゃあ行ってくる。」


と、ロロクはさっさと店を出ていった。


(大丈夫かな、トラブルにならないといいけど…)


アイドは心配そうに見送った。









夕暮れ時のレストランのテーブル席で、食事をする男女が1組。ルビー色のワインを口にしながら、リリーは聞く。


「ブラックオパール?」

「えぇ、オパールの中で最も希少で、美しい遊色効果を見せます。 リリーさんのジュエリーのコンセプトにぴったりかと。」

「そう…確かに希少で美しい石よね。 私も大好きな石だわ…でも。」


リリーは妖しい瞳でロロクを見つめる。


「私、貴方が社長室で見ていた石がいいわ。 ブルーグリーンの美しい石。」


ロロクの耳がぴくりと動く。


「部屋の白熱灯の光に少し反応して、石の中に赤紫の色彩がチカチカ見えたわ。 あれってアレキサンドライトでしょう? 5カラットはありそうな大粒だったわね。 おいくらなのかしら。」


ロロクは少し微笑んで人差し指を自身の口の前に寄せ、「お静かに。」と囁いた。


「生憎、あの石は売約済みなのです。 申し訳ございません。」

「なぁんだ、残念。 なら今度、お勧めいただいてるブラックオパールを見せてもらいに行こうかしら。 赤が良く出てるものがいいわ。」

「ありがとうございます。」


ロロクはにっこりと笑う。


(まぁ、今日狙ってたのはアレキサンドライトだけじゃないんだけどね…)


リリーは内心ニヤリと笑い、グラスの中の赤ワインを一息に飲み干した。









すっかり日も沈み、星が瞬く冬の夜。よろけるリリーを支えるようにしてロロクはレストランを後にした。


「リリーさん、大丈夫ですか? 飲み過ぎですよ。」

「うーん…」


リリーはふらふらと危なっかしく歩いていたが、足のバランスを崩した。


「危ない!」


ロロクは思わずリリーを抱き止める。腕の中でリリーは「ふふ。」と笑いながらロロクを見上げた。


「私、酔いすぎちゃったみたい。 貴方といると舞い上がっちゃって…。 この意味、分かってくれるかしら?」

「………」


ロロクは黙ってリリーを見つめる。


少し離れた所に紺色のマントを羽織った真っ白な猫が佇んでいた。2人の猫を見つめて少し震えていたが、目線をそらし、反対方向に歩き始めた。


(付き合ってるんだ、あの2人…。 別に、不思議でもなんでもないじゃない。 私に関係ないし…)


その時、スズの背後から間の抜けた大声が聞こえてきた。


「あーっ!! おまわりさん、こっちこっち!!」


驚いて振り返ると、ロロクがスズに向かって手を振っている。仕方なくスズはロロク達の元に来た。リリーはぽかんとしている。


「この方、飲みすぎて気分悪くなっちゃったみたいで! あ、リリーさん大丈夫ですよ! こちらのおまわりさんはぼくと顔見知りなんです! 介抱は女性の方が安心できるでしょ?」


ロロクはペラペラと喋っている。スズは黒い笑みを浮かべてリリーを見た。


「へぇ…お家まで送りましょうか? お姉さん…」

「えっ? あ、あの、大丈夫だから! あはは、ありがと! じゃロロク、またお店でね!」


ふらついていたはずのリリーはすくっと立ち、逃げるように走り去って行った。


「ふー…面倒な絡み方されてたから助かった。」

「…アンタ、私を利用したわね。」


スズはじとっとロロクを睨んだが、気になっていたことを聞くことにした。


「あの猫恋人じゃなかったの?」

「ただの取引相手だよ。 仕事の話も兼ねて食事してたんだが、店を出たら急に絡んできてね。 ちょうど君がいたからうまくかわせたよ。」

「やっぱり利用したんじゃない!」


スズはぷりぷり怒っている。ロロクは急にスズに顔を近づけた。スズはびくっと跳ねる。


「な…な、何!?」

「…悪かったよ。 今度、礼はちゃんとするから。」


ロロクは少し申し訳なさそうな顔をした。スズはこくり、と頷くので精一杯だ。


「じゃ、僕はもう帰るよ。 おやすみ。」

「あ…おやすみ。」


挨拶すると、ロロクはさっさと歩いて行ってしまった。スズは早くなった鼓動が治らず、身体中が火照っている。


(何!?今の…。 鼓動が早くて、痛い。 私、まさかアイツのこと…)


ざぁっと寒い風が強く吹いた。冷たい空気も風も、白猫の火照りを冷ますことはなかった。


続く


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