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星の採掘師たち  作者: 鋼玉 九兵衛
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アレキサンドライトの秘密

街の外れにある宝石研磨の工房。上部には「コーサク宝石」と書かれた看板が掲げられている。3人はその前に立っていた。


「師匠が、ネズミ以外のお客さんも入れるように工房を大きく作ったんです。入り口も大きくして…」


ヨウが入り口のシャッターの鍵を開けてリモコンを押すと、シャッターがゴゴ…と開いた。


「中へどうぞ。入る時に頭ぶつけないよう、気をつけて。」


ロロクとスズは少し頭をかがめて、工房の中に入った。


(アイドくらい大きいと、入るのが大変そうだな。)


ロロクはそんなことを思いながら少しだけ笑った。ヨウはすぐにシャッターを閉め、ロロクとスズに丸太を切り出した椅子に座るよう促した。ロロクは口を開く。


「早速だけど教えてくれ。コーサクが探していたのはアレキサンドライトだね?」

「…その通りです。」


ヨウがロロクとスズの向かいに座りながら答える。スズは首を傾げてロロクに聞いた。


「アレキサンドライトって?」

「太陽光の下では青緑、白熱灯の下では赤紫に輝く珍しい石だ。ダイヤモンドよりも高額で取引され、その希少性と美しさから『宝石の王』と呼ばれている。」

「そんなすごい石を、コーサクさんはなぜC-26で探していたのですか? あそこはキャッツアイの鉱脈でしょう?」


スズは、今度はヨウに尋ねた。ヨウは淡々と話し出す。


「厳密には、クリソベリルの鉱脈です。 アレキサンドライトはクリソベリルの一種ですから、クリソベリルの鉱脈を探せばアレキサンドライトが見つかると考えたんだと思います。 クリソベリルの採れるかけらは他にもありますから、ひとつひとつシラミ潰しに探していくつもりだったのかと…」

「疑問なのは、なぜ慎重な採掘師であるコーサクがリスクを冒してまでアレキサンドライトを求めていたのか、だ。 何か理由があったんじゃないのか?」

「脅迫、されていたようです。」


ロロクは耳をピクリと動かした。


「脅迫? 誰に?」

「ここいらで幅を利かせているマフィアのネズミたちです。 ネズミノホシで採掘師は少ないからウチに目をつけたんでしょう。 ウチで扱ってるのは水晶ばかりですが、それじゃ足りない、もっと高額なのを採ってこいって… 」

「無茶苦茶だな。 それで比較的危険な生物の少ないC-26に採掘に行ったってワケか。 それでもネズミにとっては危険すぎるが…。 警察には通報しなかったのか?」

「警察にも言いましたが、全然協力してくれませんでした。 ここの警察はマフィアと裏でべったりってウワサですから…」

「ウチの警察はなんとかできないのか?」


ロロクが尋ねるが、スズは首を振る。


「他の星の警察の仕事に介入しちゃいけないの。 私が警察の仕事ができるのは、ネコノホシと星のかけらの中でだけ。 だけど、脅迫して危険な採掘を無理矢理させるなんて、そんな奴ら絶対に許せない。 このまま見過ごすことなんてできないわよ…!!」


スズは手にぐっと力を込める。ヨウはスズの拳をチラリと見て、話し始めた。


「ひとまず、マフィアの連中にはこの工房から手を引いてもらう。 ヨウ、君はしばらく採掘には行かないように。 マフィアが来たら警察にマークされて採掘ができないと言え。」

「は、はい!」

「あとは、ヨウが採掘を禁止されたということをマフィアに証明できるものが必要だが…」


スズがすかさず口を開いた。


「あんまり褒められた方法じゃないけど、私の名前を出していただいて構いません。 猫目街警察のスズから採掘を止められたと言ってください。 裏が取れれば動けなくなるはずです。」

「いいのか? 警察から正式に禁止の命令が出ていないのに…。 ネコノホシの警察にバレたら君の立場が危うくなるぞ?」

「コーサクさんの死は、無茶な採掘だったとはいえ私の責任でもあるわ。 ヨウさんの命を守るためだもの。 それで警察をクビになるんなら…そんな仕事、こっちから願い下げよ。」


スズは強い瞳で、きっぱりと言った。ヨウは目に涙が溢れている。ロロクは少し笑って言った。


「正義感が強すぎるヤツだな。 頼もしいが、無茶はするなよ。」


スズは少しだけ照れた表情を見せた。











ロロクとスズは工房を後にした。


「大丈夫かしら。 ヨウさん…」

「うまくやるさ。」


話しながら歩いていると、人相の悪いネズミが建物の影から飛び出して声をかけてきた。


「へへ、お二人さん、あそこの店に石でも買いに来たカップルかァ? いい石買えたかい?」

「…どちら様でしょうか。」


ロロクはにこりと笑って問う。


「俺はあの工房の単なる取引相手さ! 店主が変わったんで挨拶に来たんだ。 ヨウは元気そうだったかい?」


(ヨウさんがさっき言ってたマフィアね…。 コーサクさんを亡くしたばかりのヨウさんが元気なわけないじゃない…!!)


スズがすごい顔で睨んでいる。ロロクは笑顔のまま答えた。


「私は先月の事故の時に居合わせた採掘師で、こちらの方はその時に事故の処理をしてくださった警察官です。」

「けっ、警察!?」


ネズミは目に見えて狼狽え始めた。スズが無表情で話し始める。


「あちらの工房は違法採掘によりしばらく業務停止処分となります。 また、業務再開後の採掘についても厳しい制約が課せられます。 取引はしばらく不可能かと。」

「そ、そんなら行くのはまた今度にしよっかなァ! じゃ、俺はこれで!」


ネズミは逃げるようにして去って行った。ロロクはフンと笑いながら言う。


「ヨウが直接マフィアと話す手間が省けたな。」

「…少し変だわ。」

「変? 何が?」

「私が警察だと知ったら急に慌て始めた。」

「そりゃ、マフィアなんだから警察を警戒して当たり前だろ。」

「他の星の警察がネズミノホシの警察に介入できないことくらい知ってるはずよ。 私が警察だから慌てたんじゃなくて、ヨウが採掘できなくなるから慌てたんじゃないかしら。」

「奴らも資金源が無くなると首が回らなくなるってことか?」

「後ろにもっと大きくて怖いのがいるのかもね。 ネズミノホシだけの話じゃなくなっているのかも…」

「…まさかネコノホシにも影響あるのか?」

「わからない。 念のため、今日ヨウさんの工房で話したことやあのマフィアのことについては極秘よ。 あとはウチに任せて。」

「………」


ロロクは黙った。 コーサクの死が、とてつもなく大きくてドス黒いものに繋がっているかもしれない…。そう考えると背中に冷たいものを当てられたように、身体中がぞわりとするのだった。










路地裏から声が聞こえてくる。先程のネズミのマフィアのようだ。


「ヤツの工房がネコノホシの警察にマークされちまったようで、しばらく採掘できねえそうです…。 黒猫の採掘師と、白猫の警察でさァ。 ですからさすがにこれ以上あんたらへの上納金を増やすのは…。 え? ま、待ってくだせぇ! わかりやした! 別のシノギを今すぐ探してきやすから! 命だけはどうか……う、うわあぁぁあああ!!!!!………」


…声は全く聞こえなくなった。


続く


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