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星の採掘師たち  作者: 鋼玉 九兵衛
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始まりの紫水晶

遠い昔、とある銀河系に鉱物が豊富に眠る大きな星があった。火山活動や地殻変動が活発なため、生命が根づくことはなかったが、地中には途方もない量の鉱物が生まれた。

ある時、その星は隕石の衝突により砕け散り、星の残骸が宇宙の海に漂うようになった。星のかけらたちはしばらく平穏に漂い続けていたが、近隣の星々で進化を遂げていた知的生命体たちにより存在が発見され、星のかけらの採掘が活発に行われることとなったのだった。



「ロロクさん!本当に俺を採掘に連れて行ってくれるんですか!」


灰色の毛並をした猫が、メタリックブルーの目を輝かせながら叫ぶように言った。猫は後ろ足二足で立ち、粗末なフードつきのマントを羽織っている。ロロク、と呼ばれた猫は黄色い目を持つ黒猫だ。灰色猫より一回り小さいが、上質なベージュのマントを羽織り、椅子に座って大粒の青い石の結晶をルーペで眺めている。ロロクは結晶から目を離さないまま、話し始めた。


「ああ、アイド。君もここで下働きをして半年が経つ。そろそろ石や星のかけらについての基本的な知識も身についただろう。採掘許可の申請書にも君の名前を入れておいたよ。」


アイドと呼ばれた灰色猫は、溢れる嬉しさを抑え切れない様子で、ヒゲをピンピンさせながら口元を緩ませている。


「いよいよ冒険ができるんですね!ワクワクするなあ…」

「何度も教えたが、採掘は大変危険だ。確かに管理星によって重力発生装置が埋め込まれ、空気も作り出されたため行動は普通にできる。だが岩を削ったり掘ったりするのにも危険は伴うし、かけらによってはおぞましい宇宙生物が僕達のような採掘師をエサにしようと潜んでいることもあるんだぞ。もっと気を引き締めろ。」


ロロクは眉間にシワを寄せている。アイドは少しだけシュンとした様子で耳を伏せた。


「道具を船に詰め込むぞ。いつもやってるからわかるな?今回は2人分だ。」

「はい!」


アイドはぱっと顔を輝かせながら返事をした。









次の日、ロロクとアイドは船に乗り込み、宇宙へと出発した。魚のエイのような形を持つ流線型の銀色の船である。何度も宇宙飛行を繰り返しているためところどころに傷や焦げたような跡がついている。


「アイド、今日の主な目的は紫水晶だ。目的地の星のかけらのナンバーはQ-2。水晶が豊富に採れる場所だ。限度量いっぱいまで採取するぞ。」

「は、はい!」

「なんだ、操縦にビビってるのか?シミュレーターで何度も練習してただろ。」

「本物は初めてなんだからしょうがないでしょ!からかわないでくださいよ!」

「まあ今日はすぐ近くだからそんなに固くなるな。…お、見えてきたぞ」


船は歪な形をした岩のような星のかけらに吸い寄せられるように降りていった。


「発着場はあそこだ。今日の採掘は俺たちだけだから周りに気を使う必要はないな。中央に着陸しよう」


船はバスン、バスンと下の噴出口から火を吹き、ガシャンと音を立てて着陸した。


「今度着陸の練習もしなきゃな。準備ができたら降りるぞ。色覚調整ゴーグルも忘れるなよ。」

「くぅ…」


アイドは悔しそうにリュックサックを背負い、大きなゴーグルを手に取った。2人は船を降り、発着場のすぐそばに建てられている小屋へ向かった。小屋についた受付窓から、愛想の悪そうな人間の男がにゅっと顔を出してきた。アイドは驚いて小さく「うわっ」と叫んだが、ロロクは、


「予約を入れていた『ロロク貿易』の者です。本日はよろしくお願いいたします。」


と、丁寧に挨拶をした。


「ああ…申請書はお持ちですか?」

「こちらになります。」


受付の男はロロクの差し出した紙を受け取り目を通すと淡々と説明を始め、


「採掘が終わったら最後に重さを確認して終了です。説明は以上になります。それでは。」


と言ってさっさと窓を閉めてしまった。


「愛想がない受付だなあ…。」


アイドは顔をしかめて窓口を見つめた。


「採掘始めるぞ。紫水晶の鉱脈はこっちだ。」


ロロクはさっさと先を歩いていく。









2人はシャベルやツルハシを使い、土や岩を掘り進めていく。時折深い紫色の水晶が現れ、アイドは目を輝かせながら息を漏らす。夕暮れ時のような深い紫色の中に、赤い炎のような光がチカチカと散っている。ロロクが今回の取引先はヒトの会社だから、ということで色覚調整ゴーグルをヒトに合わせて使用しているが、ヒトの目にはこんなに鮮やかな世界が見えるのかとアイドは驚いた。


「紫水晶って美しいですね。猫の目だとくすんだ色にしか見えないのに、ヒトはいいなぁ。」

「一時的に見る分にはいいが、常にこうだと目にうるさくて敵わんよ。普段過ごすには猫の目が1番だ。ヒトじゃ夜に目が効かないしな。」


ロロクは袋いっぱいに紫水晶を詰めながら言う。そんなものかなぁ、と思いながらアイドも袋に石を詰め込む。


「よし、そろそろ戻るぞ。この星のかけらは宇宙生物の心配をせずに快適に採掘できるから助かる。出ても小さい岩トカゲくらいだ。」

「結構すぐに袋いっぱいになりましたね。こういう仕事なら続けやすいな。」

「紫水晶は単価が安いし採掘量の制限もあるから、これだけで会社をやっていくことはできないがな。」

「リスクを犯さないと儲けは出にくいんですね。」


よいしょっ、とロロクの分の袋も背負いながらアイドは言った。と同時に地面がズズ…と音を立てて揺れ始めた。


「ん?」

「地震か? アイド、岩のそばから離れろ。」

「は、はいっ!」


タッと駆け出した瞬間、アイドが先程まで立っていた地面が裂け、巨大な黄色い目玉が二つ見えた。


「うわあああ!!! 快適って言ったそばから!!!」

「船まで走れ!!! 離れて走れよ!!!」


ロロクとアイドは走り出した。裂けた地面から20mもの長さの真っ黒な蛇が現れ、2人に向かってニョロニョロと進み始めた。


「なんですかありゃ!!」

「星蛇だ!岩場だらけのこの星のかけらには生息していないはずだが…。噛みつかれたら終わりだぞ!!」


2人が死にものぐるいで走っているうちに小屋が見えてきた。


「受付さん!!星蛇が出ました!!!」


男は窓口から顔を出したが、


「な、な、なんですかあなたたち!!なんてものを連れ帰ってきてるんですか!?」


と青ざめて叫んだ。


「おっさん!銃とかねぇのかよ!?」


「ここは小さな岩トカゲしかいないのでハンマーくらいしか…しかもワタシ、ハンマー持てないんです!!」


「あんた俺たちよりずっと体でかいだろうが!! なんで持てないんだ!!」

「ワタシは受付の仕事でここに赴任したんだ!!宇宙生物駆除は仕事じゃない!!」

「言ってる場合か!!」


アイドは小屋に飛び込み、隅に立てかけられていたハンマーを見つけると、ふんっと掛け声を上げて持ち上げた。外ではロロクが星蛇から逃げ回っていた。噛みつこうとする星蛇をひらりとかわして走る。


「しつこい蛇だな!アイド!!」

「はい!」


小屋からハンマーをかついだアイドが出てきた。


「鼻先を狙って叩け!」

「ぬおおぉぉ!!!」


星蛇が大口を開けて飛びかかってくるタイミングに合わせ、アイドは力いっぱいハンマーで鼻を叩きつけた。星蛇はぐらり、とバランスを崩して地面に倒れ込み、動かなくなった。ロロクは星蛇に近づきしばらく様子を見ていたが、


「死んでいる。すごいな、一撃で仕留めたか」


と呟いた。アイドはふぅーっと息をついてその場に座り込んだ。受付の男は小屋の影から覗いていたが、アイドに駆け寄ってきた。


「あ、ありがとうございます!あなたのおかげで命拾いしました!!」

「安全性が確認できるまで、Q-2は閉鎖したほうがよろしいかと思います。星蛇の他の個体がいるかもしれません。」


ロロクは静かに言った。受付の男はうなずくとすぐに小屋に戻り、どこかに電話をかけ始めた。


「ロロクさん、さっきの星蛇って?」

「繁殖力の強い蛇で、いろんな星の生物をなんでも食っちまうのさ。普段は砂や土の中に潜んで獲物を待つから、基本的に岩だらけの星では生きられないんだ。最近Q-2は採掘が進んで土が増えたから、住み着いたのかもしれないな

。」

「住み着いたって…誰かが持ち込んだってことですか?」

「星蛇のメスは産卵期に入ると宇宙を飛んで移動する個体がいるんだ。今いる星が住みにくくなったり、すでに星蛇が大量にいたりすると産卵に適した星を探して産卵し、力を使い果たして絶命する。貴重な宇宙生物も襲うし、僕たちのような猫も食べてしまう、厄介な生き物だよ。」


ロロクは放り出された袋から溢れた紫水晶をひとつ拾い上げ、つぶやいた。


「今は安価なこの紫水晶も、近い将来に貴重なものになってしまうのかもな」









数日後、ロロクの会社に戻っていたアイドは、ロロクの部屋に呼び出された。


「これ、こないだの報酬。星蛇駆除の賞金分は君が全て受け取ってくれ。」

「えっ、全部ですか?そんな…」

「星蛇は君が仕留めたんだ。賞金は君のものだよ。」


アイドは少し困った顔をしていたが、ロロクは続けた。


「君は力もあるし腕っぷしも強い。採掘の時には色んな宇宙生物と鉢合わせることがあるから、君がその長所を伸ばしてくれたら会社の利益になる。君のために護身用の武器も用意するつもりだ。これからも期待してるよ。」

「…はい!」


アイドは嬉しそうにヒゲをピンピンさせた。


「あとは…」


ロロクは外に着陸されている、新しい大きな傷ができた船を見て、眉間にシワを寄せながら続けた。


「操縦が上達してくれれば完璧だな。」


アイドはまた耳を伏せてシュンとなった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 不思議な世界感を楽しめるところ。 ネコたちが生き生きしてて、今後がすごく気になります。 星のかけらを採掘するというテーマも壮大なのにどこか身近に感じるところもあって、読んでいてワクワクしま…
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