君と私の移動距離
この世界に生まれた時から君と私は一緒だった。
お母さん同士が親友で家は隣通し。同じ病院で同じ日に生まれた。
夏に生まれたから私は夏帆で君は夏樹。お互いに「夏」の漢字が入ってる。
ハイハイから歩き始めて走って一緒に成長してきた。成長してきたはずなのに──
中学からの帰り道。河川敷沿い。
自転車を押しながら一緒に帰る。
夏服の学ランとセーラー服。
あれだけうるさかった蝉の声ももう聞こえなくなって、夏の終わりが近いように感じる。
私たちの季節が終わっていく。
隣で喋る夏樹の声が時々かすれる。
声変わりの始まり。
まだ不安定な声は少し話しづらそう。
話しながら夏樹の顔を見上げる。
小学生までは私の方が背が高かったのに、中学生になってあっと言う間に追い越された。
過ごしてきた時間は一緒なのにこうやって差は開いていく。
私たちの横をスクーターや車が通り過ぎていく。
ふと思う。
今は自転車。
でも、これから大きくなったらスクーターにも乗れるし、車だって乗れる。
ハイハイしていた頃から比べたら今でも随分と遠くに行けるようになったけど、まだまだ私たちの移動距離は長くなっていく。
どこまで一緒にいられるかな?
置いてけぼりにされる自分を想像して胸がきゅっとなる。
そんな話をしてみたら夏樹は少し考えてこんな言葉を口にした。
「徒歩までかな」
私はがっかりした。
私たちのお別れは随分と早いらしい。
そう思っていると夏樹が言葉を付け足した。
「お互いにしわしわのよぼよぼになって自転車もスクーターも車も乗れなくなるまで」
私はひとつ大きく瞬きをする。
ああ、それはまた──
「ずいぶんと長く一緒にいるんだね」
そう言うと夏樹は当たり前のように笑った。
「それが俺の幸せな未来だからね。その時は2人で手を繋ぎながら近所のお散歩でもしよっか」
声変わりが始まった君の声が少しかすれる。
この声が当たり前のように低くなって、当たり前のように顔に皺が刻まれる。
その当たり前を見ていたいと思った。
私たちの横をスクーターや車が通り過ぎていく。
夏が終わっていく。
私たちの季節が終わっていく。
そして、また来年になれば同じように夏が来て、互いの隣で歳を取る。
大きくなればなるほどに私たちの移動距離は長くなっていく。
そうして歳を取れば取るほどに短くなっていく。
きっとそれが君と私の移動距離。
それが私たちの幸せな未来。