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「どうせなら、星になりたかった。」
いつだったか彼女はそう言った。何故、そんな話になったのか、詳しくは覚えていないけど、彼女が消えた今でも覚えている。
彼女に初めて会ったのは6年前、高校3年の夏祭りの時だ。
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屋台を渡り歩く人々を、東屋の下から、白磁の狐と見ていた。
歩いている人はみな知らない人ばかりで、ガヤガヤとしていて、とても騒がしい。
視界にいる人は、どこを見ても笑顔だったり、時折不満げな表情をしているが、大体隣には連れがいる。
だが、俺はなんの表情もなく、1人、溶けたかき氷を啜っていた。
いつもは農作業をしている近所の爺さん、婆さんばかりのこの田舎も、夏祭りの時だけは、村の外から人が大勢来る。
不意に、首筋が痒くなった。
どうやら、蚊に刺されていたようだ。それをぼんやりと掻いていると――。
ねぇ、と急に知らない女性の声がした。まるで、急に黙ってしまった友人を訝しむかのような声だった。
だが、生憎と俺にはそんな友人はいない。
「ちょっと、そこのつまらなそうな人。無視しないでよ。」
ちょっぴりツンとした声で続ける。
俺のことらしい。
「初対面で、いきなりつまらなそうな人ってひどくないか?」
すると、その女性――というより、むしろ同い年くらい――は悪びれる様子もなく、隣に座って、
「祭りに来てまで、わざわざそんな顔しながらぼんやりしてるんだもの。つまらなそうな人って言われても、仕方ないじゃない。」
と言って、チェシャ猫のように笑っていた。
「……それでわざわざ、お仲間に声を掛けたのか。」
見たこともない顔だし、2度と合うことはないだろうと皮肉げに言ってみた、が――。
えぇ、そうよ。と言ったっきり動く気配もない。
「……変わってるな」
「あなたもね」
ど―せなら、と呟きながら、馴れ馴れしいそのお仲間は、長い栗毛の髪と白いワンピースの裾を靡かせ立ち上がる。
揺れる提灯と、瞬く屋台を背に、
「お仲間同士、歩かない?」
彼女は、とても面白いイタズラにでも誘うかのように、言った。