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道程

「おい、道を聞くのはヤメだ。

あんな完全武装の男がまともなわけがない。」


「待って、よく見たら知り合いだ。

大丈夫、このへんは熊がよく出るから山を通ったりする時は自衛用の武器をもつのは普通だよ。」


「いや出刃包丁はともかくライフルは明らかに銃刀法違反…」


そんなおれを差し置いて水亀は武装男に小走りで近づいていく。


「鎌崎先輩!お久しぶりです!」


ずっとこちらを訝しげに見ていた武装男は、近づいてくる大男の特徴的な体躯で気づいたのだろうか、手を振って応えた。


「大和じゃねえか、こんなところで何やってるんだ?

お前は確か川北市で下宿してるって聞いたぞ。

GWにはまだ早すぎるぜ?」


「それが、自分でも何がなんだかよく分からなくて…

高校の友達と二人で帰ってて、気づいたらここにいたんだ。

道が分からなくて困ってて…」


「はあ?何を言ってるか分からんが、まあいい。

ここは町外れだ、道のりは長いし歩きながら聞いてやる。」


水亀がこちらにむかってOKサインを出したので、それに従って合流する。

情けない、俺は重武装にビビってけっこうな距離をとっていたのだ。


「どうも仲澤です。はじめまして。

水亀くんの同級生です。鎌崎さん、でしたっけ。」


「ああそうだ、よろしく。

それより熊が出ると危ない、こんなところでたむろってないですぐ出発しよう。」


奇妙な三人組の一行は上皿沼の住宅街に向かって出発した。


「それにしても驚きましたよ。

その…出刃包丁にライフルなんて担いだ人見たことなかったもので。」


「ああ、ここは田舎だからね。自分のことは自分達でまもらなきゃいけないんだ。」


「え、でもそのライフルって…もちろんモデルガンですよね?」


「これは空気銃を改造して火薬式にしてあるんだ。厚さ数センチの鉄板くらいなら貫通できる。」


「エッ…」


「熊なんて普通の銃でも倒せないんだ。これくらいしないと威嚇にもならないよ。

なあに、上皿沼には駐在さんが一人いるだけで、しかも昔からの顔馴染み。

こんなのみんなやってるし捕まりなんてしないよ。」


水亀が反応しない辺り、上皿沼は本当にバージニア並みの銃社会らしい。怖くなってきたので多少強引に話題を逸らす。


「そ、そうなんですか~。

ところで、水亀くんとは知り合って長いんですか?」


「まあこの田舎だし、年が近かったら自動的に幼馴染だよ。

それに、俺はいま大和の父さんの会社で世話になってるんだよ。」


「えっ!お前社長の御曹司だったのかよ」


こんな空惚けた大男がそんな華麗なる一族の末裔だったとは、と多少大げさに驚いてみた。

水亀がはにかんで頬をかきながら説明する。


「いや小さい農業機械の会社だよ。そんなにすごいものじゃないって」


「いやいや、でもあの社長の器は大したものだよ。

あの時拾ってもらえなかったら、俺は今頃どうなっていたか…

ヨッ、大統領ジュニア!!」


鎌崎さんも乗ってきて一緒に水亀をおちょくっている。


弾んできた話が一段落ついてきた頃、鎌崎さんが質問してきた。


「そういやお前ら同級生って言ったっけ。

なんて高校だ?」


「え?言ってなかったっけ?

川北照石高校だよ。」


「ッ!!」


それまでおちゃらけていた鎌崎先輩の表情が急変する。

今や笑みは完全に消え、こちらを睨み付けている。


「ど、どうしたんですか鎌崎さん?

そんなに怖い顔して。」


「お前ら照石の奴らだったのかよ…

道理で怪しいことしか言わねえ訳だ。」


「ま、待ってください!

確かに照石高校はヤンキー高で生徒のガラが悪くて近所のコンビニにも出禁くらってますけど、そこまで露骨な態度とらなくてもいいじゃないですか!」


「なあ、大和よ。俺はお前の父さんに世話になってる。

だから手荒な真似はしたくない。

悪いが回れ右して上皿沼から出ていってくれ。」


「どうして?」


こんな中でも水亀の言葉は間延びしていて、緊迫感がない。


「いいから警告を聞け。


照石の制服着て、いま上皿沼に入ってみろ。

殺されるぞ。」


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