目覚め
おれは目覚めるとすぐに辺りを見回した。夢の中で一度意識は覚醒しかけていたため、寝起きとはいえ思考ははっきりしていた。
意識を失う前は、「リベルタリアかねむら」の駐車場のコンクリートに横たわっていたはずだが、おれ達が寝ていたのは文明の気配を毛ほども感じさせない土と草だけだった。
時間帯は未明すぎといったところか。
白みはじめた空はいくらかの光をたたえているが、地上を照らすほどの光はなく辺りは薄い闇で覆われている。
とりあえずおれは傍らでイビキをかいて寝ていた水亀を起こすことにした。
「おい起きろ!」
「うーん…お前時間の感覚おかしいよ…
まだオクロックの時間帯…」
「いいから起きろ!!」
寝惚けた大男の頬をピシャリピシャリとはたく。
「うわあ、自己防衛権発動する!!」
訳の分からないことを宣う木偶の棒を起こし急き立てて辺りの様子を見てみることにした。
「それにしても山と草むらしかないド田舎じゃないか、意識を失ってる間に誰かに運ばれたのか?」
「うーん、でも見覚えのある景色のような」
「お、あそこにうっすら街灯みたいなのが見える。とりあえずそこに行こう」
草を掻き分けて光へ向かう。その間にポケットの携帯電話を調べてみたが、二人とも圏外だった。
どうやら見た目が田舎なだけでなく、本当に辺鄙なところのようだ。
おれ達の住む川北市も、端の方まで行けば田舎風景の広がる地域はあるけども、電波が通じなくなるようなことはない。
どうやら相当遠くまで運ばれたのか、と謎は深まるばかりである。
そんなことを言っている間に道路に着いた。
道路脇に立つ標識にはひどく錆びが浮いていたが、スマホのライトで照らすとはっきりと「上皿沼」という文字は読み取ることができた。
「なんだ、かみさらぬま?ってよむのか?地名?」
訳が分からずにいると、水亀が突然叫んだ。
「あ、ここボクの地元だ」
「はあ?」
「いや、だからボクはここ出身なんだって、皿沼市の北の方にあるから上皿沼。
もとは上皿沼町だったんだけど、平成の大合併で皿沼市上皿沼って地名になっちゃった」
ますます意味が分からない。なぜおれ達は水亀の地元に連れ去られているのだろうか。
「じゃあとりあえずお前の実家いこうぜ。川北市まで送ってもらおう」
「そうしたいんだけど、こんな何もないところじゃ目印も何もなくて道がわからないんだよね。
誰か知り合いに会えるといいんだけど」
などと言っていると、渡りに船と言わんばかりのタイミングで、道の先に豆粒ばかりの人影が見えた。
「ちょうどよかった。あの人に道を聞こう」
おれ達は人影に向かって道路を走り出した。近づくにつれて人影は鮮明になり、身なりや持ち物などが分かるようになってくる。
タイヤメーカーのジャンパーを着ているあたり、農家の若者らしい。
リュックをはじめとした、随分な大荷物で色んなものを担いでいる…
そこまで見えてきておれははたと立ち止まった。
おれ達が見つけた第一村人の姿があまりに異様だったからだ。
少なくともおれは、腰に出刃包丁を結わえ付け、背中にライフルを担いだ村人がいる場所など知らない。