仏教門
川北照石高校の入学式はある種異様な光景である。
まず教頭の開会宣言を待たずしてパイプオルガンのような音色の楽器が響き渡り、それに合わせて聖歌隊と呼ばれる学生集団が歌い出す。
聖歌隊は制服の上から、紫色の光沢のあるマントのようなものを羽織っていて、それが結構な数いるものだから中々不気味な光景である。
その上歌っている聖歌も、骨を砕いて恩に報いよだとかいう感じの歌詞らしく、何かおどろおどろしい感じを醸し出していた。
聖歌が3曲目くらいに入った時であろうか、聖歌隊の格好をした2人の女生徒が火のついた蝋燭を持って登壇しはじめた。
彼女らがステージの奥にある引き戸を開くと、中から祭壇が出て来た。
なるほど、仏教校らしい。
ところで先ほど、川北照石高校の入学式は釈迦版のクリスマスの日に行われる、というようなことを述べたと思う。
そしてクリスマスと違ってさしたるイベントもないとも述べたし、よって飾り付けなどもしない。
だがその祭壇は彩度の高い赤と緑の布で覆われ、その上には黄金の法輪が輝くという、鮮やかなクリスマスカラーであった。
おどろおどろしい儀式から唐突に趣味の悪い祭壇が登場してきた時、『カルト』の3文字が脳裏に浮かんだ。
それまで母校の宗派に何らの正負の感情を有さなかった
──より正確に言えば一抹の興味すら持っていなかった6組生徒の大部分が、負の方向に信仰を傾けた。
しかし儀式は無情にもつつがなく進行し、この先二度とお目にかからないであろう経営上の重役や名誉職のお歴々が、ギリシア悲劇を感じさせるバックグラウンド・ミュージックを背に延々と焼香をくべていくという、拷問とも呼べるような時間がしばらく続いた。
そのような虚無空間に耐えられる肉体と精神を兼ね備えた宇宙飛行士的頑強さを誇る生徒はそうおらず、結果的に6組生徒は入学式通して死屍累々、崩れ落ち白目を剥くものばかりとなった。