[触れぬ神に祟り無し]
「どうですか?ヌシは釣れましたか?」
黒島さんがこちらに歩み寄る。
「えっと、ちょっと持ち帰りたいのがあるんですが…」
「物によりますが…なんでしょう?」
「それは…その…この子です…」
俺の影から出てくるルナ。
唖然とする黒島さん。
申し訳なさそうな苦虫を噛み潰したような表情をする俺。
側から見れば凄い光景だった。
「えっと…それは構いませんが、この子地縛霊らしく、ログハウスを離れられませんよ?」
「そのことなんですが…この子、俺の地縛霊になってしまい…」
「??????」
黒島さんが疑問符を浮かべる。
「ま、まぁ、なんとかなるなら構いません、よ?」
「あ、はい、ありがとうございます…」
気まずい…大変気まずい…
「…ヌシ、釣ったと思ったら、流木でした」
「…そうでしたか、まぁ、仕方ないですね、この湖にヌシはいないという証明にはなりました」
「…そうですね…」
「あの…」
ルナが口を開く
「一昨日は大変お世話になりました」
「あぁ、大丈夫、無事で何よりだった…」
しばし沈黙が流れる…
「あー…そういえば、あなたにまだこの話はしてませんでしたね」
「どの話です?」
「私がここにバスを走らせる理由」
そして黒島さんは語り始める
「その昔ね、ある男性がこの森に迷い込んだ。その男性はログハウスを建て、そこに住み着いた。彼には妻も、孫もいたらしい。いつかここに孫を呼び、驚かせてやる!と意気込んでいたと聞いているよ。でもね、ある日、大雨が降った。それだけなら良かったのだが、大洪水に見舞われた。その人も結構いい年で、色々試したが敢え無く溺死。しかし、孫の幸せな顔が見れなかったその男性はログハウスの地縛霊となった。そして地縛霊となって数日後、彼の元へ、娘が来たそうな。連れてこられた、とも言っていた。その男性は娘をログハウスへ招待するなり、ここでの生きる術を教えていった。しかし、彼女の背中には痣があり、そこから病原体の山が入り込んできた。症状は高熱。急に体温が上がり、突然体力が奪われる、というものらしい。ある程度免疫の付いている大人はともかく、子供は手当てしないと回復するものでは無かった。男性は手当てしようと手を尽くした。しかし、彼は物が持てなかった。生きる希望を持ってもらうため、欲しいものを尋ねた。するとどうだろう、その少女は愛が欲しいと答えた。男性は何度も何度も謝った。その謝罪は救えなかったことだけではなく、虐待とかから守ってあげられなかったこと、抗議したりしなかったこと、勇気が足りなかったことを、謝ったそうだ。少女が生き絶えて数日後、私の祖父がこの場所を見つけ、その男性も見つけた。その男性は今まで起きた事を全て話したのち、こう語った。
「もうすぐ、この子の霊が未練を残し、ここに来るでしょう。なので、たまにでいいんです。人を送ってきてください…私は私の娘が幸せならいいのです」
と。祖父はバス会社の社長的立場の人でした。祖父は交換条件としてログハウスと、ここの魚を釣る権利を受け取りました。以降、私達はここへバスを走らせるのです」
ルナは長い話に飽きたのか、眠っていた。
「さて、長話すぎましたかね、帰り…」
「あ、ルナおはよ…」
「なんか、聞こえる…」
重低音が響く、重く、重く潰されそうな音だ。
ざぶぉーーん
俺と、黒島さんと、ルナの目の前で巨大な魚影が飛び跳ねる。生憎、逆光で、夕日を受けて跳ねるその魚は神々しく、美しかった。
「…」
「…」
「…凄い…」
いたのか…ホントに…ヌシは…
「…濡れちゃいましたね」
「そうですね」
「うん」
3人とも、濡れてしまったが、何故か上機嫌だった




