[無くしてはいけないもの]
消えかけていた少女は完全に色を取り戻す。薄くなっていた色は完全に戻り、奥が見えかけていた部位も完全に奥が見えなくなっていた。
あぁ、やってしまった…。
俺は最低な事をした。彼女の意思とは言え、半ば強引に言わせたようなものだ…。ヌシは流木。成仏させる予定の少女を現実に引き戻し…。はは…二兎を追う者は一兎をも得ず、とはこの事か…。
「ご主人様…すいません」
「謝るな、俺の方こそ、引き戻して、ごめん」
「謝らないでください」
直視できない…罪悪感で心が満たされる。…この子の幸せを、俺は手放させてしまったのだ…。俺に救いの手など…あるはずが…
手に柔らかい感触がする。
「ルナ…」
「私は幸せを逃したとか、幸せの道が閉ざされたとか思っておりません。むしろ、私は今まで以上に幸せになれる、そんな予感がするのです。」
手に当たるのは2つの小さな手。
「だって、こんなに暖かい手の持ち主の方とこれからずっと寄り添えるのですよ?これ以上の幸福はないでしょう」
あぁ、そんな事、言っていた。しかしこの子はログハウスの地縛霊。俺も週2.3回来れるかどうかだ…。
「あの、試したい事があるのですが…」
「ごめん、少し…このままで…」
俺はルナを抱きしめる、ルナの体は少し冷えていて、やはり幽霊なのだと、思い知らされる。多分、今のルナは感情が一定値を超えているのだろう。この選択肢を選ぶ事を決めた喜びか、こいつのせいで成仏させてもらえなかった怒りか、まだ幽霊生活をしなくてはならない哀しみか、これからの事を想像しての楽しみか…はたまた、全部なのだろうか…どちらにせよ、この感情は大事にして欲しいと心の底から願う。他人の顔色を伺い、自分の感情を表に出さずに生きてきた。そんな人生、もう終わりにして欲しい。もっと自分に正直になって欲しい。もっと自分を表して欲しい。もっと自分の気持ちを言って欲しい。もっと求められたいと思って欲しい。…感情を決して、捨てないで欲しい…。
「今のルナが1番好きだ」
「奇遇ですね、私も今のご主人様が1番好きです」
互いに涙を流し、抱き合い、泣いていた。多分、その時間は1時間は超えたと思う。




