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「最高だよ、それでこそ俺の選んだ人だ」そう怪しげに微笑んでレオンが私の手をとる。
「今日のところはこれで失礼するよ、また会おう」と告げて手の甲に小さなキスをされた。うっ心臓に悪い乙女ゲームだわ。そうして私はレオンとの短い、けれど濃すぎた初めての対面を終えた。
夜、ベッドに寝転がって1人で考える
私はもう前世の私ではなくて、もうスノウとして生きていかなくてはいけないのだ、という事実は嬉しい気持ちもありつつ、もう二度と前世での両親に会うことができないという現実を突きつけられ猛烈な悲しさを私が襲ってくる。両親をとても悲しませると分かっていながらあのような道しか選べなかったほど私の心身は限界に近かったのだ、自分で選んだんだと言い聞かせるけれど、どうして前世の記憶を消して純粋にスノウとして生かしてくれなかったのかな、そうしたらもっとレオンとの恋愛も楽しめたはずなのにと思ってしまう。これは自分で命を絶つという選択をしてしまった私への神様からの罰でもあるのかな。止まらない涙を誰もぬぐってはくれない、私の顔を優しく見つめる前世の母を思い出して、胸が苦しくなる。けど悲しんでばかりはいられない。あの病院の変わらない景色を見ながらずっと欲しかった健康な体を手に入れたのだから、今回の人生はたとえ舞台が乙女ゲームの世界だとしても、私の目の前にいる人たちは生身の人間としてそこに存在しているのだから、私も1人の人間として生きていかないとね、そう思いながら眠りについた
翌日私は国王陛下に面会するために父と母と共に王宮へと向かうことになった。
王宮に向かう馬車の中で父が昨日のレオンの態度をずっとぐちぐち言って、それをたしなめる母を見ているのはとても微笑ましかった。そういええばと父にいきなり話しかけられた「スノウは昨日レオン殿下と何を話したんだ?」「えっと、」いきなり口説かれて君を諦めないみたいな事を言われたなんて言えるわけない!「殿下が私の体調を気遣って、今回の事件の謝罪をしてくださいました」それを聞いて父の顔が少し呆気に取られたような表情になる「あの凍てついたレオン殿下が人を気遣い、謝罪をしただと、あいつがスノウを気に入っているのは知っていたがまさかそこまでだったのか、」「あっそうだ!お父様なんで殿下が私に婚約を申し込んでいた事を目覚めてから教えてくれなかったのですか!そのせいで私とても動揺してしまいました」と私が少し怒ったように伝えると父が慌てて弁解する「ちっちがうんだ、殿下からプロポーズされたが断ったと聞いていたのでな、わざわざあんなやつのことを伝える必要もないだろうと思ってな!ははっ」「笑ってごまかさないでください」「すまない」しゅんとした父を見て笑ってしまった。「ふふっそんなに怒ってないです、けれど私はまだ記憶があいまいなままなんです。これからは私に関わる大切な情報は全て教えてくださいね」そう伝えて家族の穏やかな時間は過ぎていった。
王宮に着いて私はびっくりした。でっっっっっっっか!門から宮殿まで遠すぎる、あの遥か彼方に見えるのが王宮でこの巨大な庭園の中には馬を飼育している場所もあれば、異国の様々な花を育てている温室もあるらしい。庭園にはギリシアの神々の彫刻があしらわれた巨大な噴水もあって、本当にここが異世界なんだと強く実感する体験になった