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ホルベックの奇妙なレストラン  作者: 大津 泰男
1/1

大浦健の海外生活奇談

(プロローグ)

 これは、日本人が1人もいないデンマークの小さな田舎町ホルベックで、大浦健が暮らした10年間の物語である。

 この地では、暗く長い冬がやっと終わって、凍りついた大地に春のそよ風が温もりを与える頃になると… 

町の周囲に広がる深い森や野山に、春を告げる花々が一斉に咲き始める。黄色い福寿草、節分草や、真っ白な雪の下、アネモネなどの花々が一斉に咲き出すのだ。

 やがて、ツグミの一種でとてもひょうきんな鳥、ソールソートが町中いたる所で、美しい春のさえずりを始めると… 

この小さな町の中央に立つ、セントニコライ教会の鐘の音が青空に響き渡り、長い冬から開放され再び笑顔を取り戻した人々が、一斉に町に繰り出し始める。 

そんなのどかな初春の頃、健はそれまで住んでいたコペンハーゲンから、この田舎町「ホルベック」に引っ越して来たのだった。


 デンマークの首都コペンハーゲンから、西へ60キロ程離れた所にそのホルベックという田舎町がある。「ホルベックフィヨアー」と呼ばれるフィヨルド(太古の昔、氷河によって造られた入り江)に面し、ヴァイキングの時代から開けた、歴史の古い港町だ。

 町の周囲には、うっそうと茂る森、なだらかな丘の上の牧場、蛇行して流れる小川、そして麦畑がどこまでも広がる。 

それらの間に、おとぎ話に出てくるようなかわいらしい家々が点在している。まるで時の流れを感じさせないような、とてものどかなメルヘンの里に彼は迷い込んでしまったのだった。

 妙な縁でデンマーク人の女性と一緒になった彼は、妻の父親がオープンし、伯父さん夫婦が経営することになっていたレストランの補佐役を任されることになってしまう。

 とに角1年間だけ、父親のために働くつもりでこの地に移って来たのだったが…


 このレストランは、内部に古いレンガが一面に敷き詰められ、まるで古城の内部を思い起こさせるような立派な造り。当初は食事客だけを受け入れる、高級レストランとして出発するはずだった。

 ところが開店の日、お祝いパーティーで酔っぱらった彼が、酔った勢いでギターを取り出し、日本のフォークソングなどを歌い始めてしまったから、さあ大変。

 何しろ、未だかって日本人など見たこともなく、日本の事情など、ほとんど知らない人々が大多数を占める田舎町のこと。奇妙なエスキモーが、奇妙な歌を歌う店としてのうわさが、たちまち町中に広がった。

 興味本位の人々が、毎日たくさん訪れ、やがては音楽好きな人々が集まる、歌声酒場的なレストランにと、徐々に変わってしまったのだ。

 父親の嘆きをよそに、彼のレストラン改造は日毎に激しさを増し、開店して2ヶ月後には店のハウスバンドも結成され、固定客もますます増えていった。 店の売上も増える一方で、これには父親も伯父も大喜び。 そして奇妙な歌声レストランのうわさは、近隣の田舎町にも次第に広がり、こうしてこの店は、音楽好きな人々に支えられ、ますます発展して行った。

 やがて1年が2年に、2年が3年にと移り変わっていった。気がついてみると、彼はまるで浦島太郎のように、10年の歳月をこのホルベックの町で過ごす結果になってしまったのだ。

 その間には、波乱に満ちた数々の奇妙な出来事に遭遇する。 言葉、生活習慣の違いから、大ハプニングも続出。 同時に、多くの人々との感動的な出会いや、数々の悲しい別れも経験する。

 

 これは奇妙なレストランの奇妙なお客たち、そしていつでも健を暖かく迎えてくれた、ホルベックの人々の紹介。 そして彼の異国生活体験奇談と感動の記録を綴った物語である。


(プロローグ)


 これは、日本人が1人もいないデンマークの小さな田舎町ホルベックで、大浦健が暮らした10年間の物語である。

 この地では、暗く長い冬がやっと終わって、凍りついた大地に春のそよ風が温もりを与える頃になると… 

町の周囲に広がる深い森や野山に、春を告げる花々が一斉に咲き始める。黄色い福寿草、節分草や、真っ白な雪の下、アネモネなどの花々が一斉に咲き出すのだ。

 やがて、ツグミの一種でとてもひょうきんな鳥、ソールソートが町中いたる所で、美しい春のさえずりを始めると… 

この小さな町の中央に立つ、セントニコライ教会の鐘の音が青空に響き渡り、長い冬から開放され再び笑顔を取り戻した人々が、一斉に町に繰り出し始める。 

そんなのどかな初春の頃、健はそれまで住んでいたコペンハーゲンから、この田舎町「ホルベック」に引っ越して来たのだった。


 デンマークの首都コペンハーゲンから、西へ60キロ程離れた所にそのホルベックという田舎町がある。「ホルベックフィヨアー」と呼ばれるフィヨルド(太古の昔、氷河によって造られた入り江)に面し、ヴァイキングの時代から開けた、歴史の古い港町だ。

 町の周囲には、うっそうと茂る森、なだらかな丘の上の牧場、蛇行して流れる小川、そして麦畑がどこまでも広がる。 

それらの間に、おとぎ話に出てくるようなかわいらしい家々が点在している。まるで時の流れを感じさせないような、とてものどかなメルヘンの里に彼は迷い込んでしまったのだった。

 妙な縁でデンマーク人の女性と一緒になった彼は、妻の父親がオープンし、伯父さん夫婦が経営することになっていたレストランの補佐役を任されることになってしまう。

 とに角1年間だけ、父親のために働くつもりでこの地に移って来たのだったが…


 このレストランは、内部に古いレンガが一面に敷き詰められ、まるで古城の内部を思い起こさせるような立派な造り。当初は食事客だけを受け入れる、高級レストランとして出発するはずだった。

 ところが開店の日、お祝いパーティーで酔っぱらった彼が、酔った勢いでギターを取り出し、日本のフォークソングなどを歌い始めてしまったから、さあ大変。

 何しろ、未だかって日本人など見たこともなく、日本の事情など、ほとんど知らない人々が大多数を占める田舎町のこと。奇妙なエスキモーが、奇妙な歌を歌う店としてのうわさが、たちまち町中に広がった。

 興味本位の人々が、毎日たくさん訪れ、やがては音楽好きな人々が集まる、歌声酒場的なレストランにと、徐々に変わってしまったのだ。


27。エピローグ


 日本に帰国後、健はG F社から川崎市に賃貸マンションをあてがわれ、そこを基点に毎日電車と車で日本の代理店を廻り、忙しい営業とサービスの仕事を続けた。また、韓国、香港、シンガポールなどへも毎月出かけ、現地の代理店を訪問する。 

 過去を顧みず、新しい仕事をがむしゃらにこなし、新しい人生を邁進する健だった。そして仕事を通して新しくできた友人たちに囲まれながら、充実した第2の人生を進む。

人との付き合い方がうまく、敵を作らない彼のやさしい性格が功を奏し、新しい友人の輪が広がり、満足な日々を過ごす彼だった。


そんな彼の元に半年程経って、ローネから1通の手紙が届く。 

 そして彼女が、職場で知り合ったデンマーク人の男性と交際を始めていること、やがては再婚する予定であることを知った。

 「彼は子供好きで、ニックともとても仲良くやっているの。 私たちのことは心配しないで、新しい仕事に精を出してね」と最後に締めくくられている彼女の手紙を、健は何度も読み返した。 


 いつかはこんな時が来るとは分かっていたが、いざ現実にデンマークの家族とのきずなが切れる事態に直面し、健の心は寂しさで一杯になる。

 頭の中では、ローネと知り合ってから今日に至るまでの、数え切れないほど多くの思い出が、いつまでもいつまでも駆け巡っていた。




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