地獄に落ちた日 その一
これは、私が実際に歩んできた人生を、個人を特定されない程度に書き換えて綴っていくものです。
そこまで残酷な描写をする予定はありませんが、心理描写がかなり暗いものになりますので、HSPやエンパスの方にはお勧めできません。仮にご気分を悪くされた場合でも自己責任でお願いいたします。
また、辛かった過去を思い出しながら書いておりますので、かなり体力を消耗します。そのため、更新に頻度は遅めで、さらに途中で投げ出してしまう恐れがあることを先にお知らせいたします。
小学2年生になる春、母が死んだ。
近所にある、名前も知らない山に積もっていた雪が溶け始めた頃だった。
日曜日の朝。
一階から聞こえる、大きな音で目が覚めた。何かを倒したような音だ。
眠たい目をこすり時計を見ると、ちょうど毎週見ている日曜アニメが始まる時間だった。
のそのそと起き上がり、隣に寝ている2つ上の兄の布団を引っぺがす。
隣にあるリビングに移動して、テレビをつける。よかった、まだ始まってない。
遅れてリビングに入ってきた兄と並んでソファに座る。もうすぐオープニングの曲が始まる。
ちょうど曲が始まった時、誰かが階段を登ってくる音が聞こえた。階段を登ってくるのは父しかいない。母は昨日の夕方から何処かに出かけているようで、先ほど部屋を覗いた時には布団を使った形跡がなかったので、昨日は帰って来なかったのだろう。一緒に住んでいる祖父は足が悪いし、祖母は持病が悪化して入院中だった。
ドドドド、と、駆け上がってくる音。そんなに急いでどうしたんだろうか。
バンッ
強く開けられたドアが、勢い余って壁にぶつかる音。
驚いてドアの方に振り返ると、そこには顔面蒼白という言葉がそのまま表されたような、青い顔をした父が立っていた。
「大変だ、お母さんが死んでしまった」
この父の言葉を聞いた瞬間、自分の脳が全力で回転しているのか、それとも完全に停止してしまったのか、どちらともつかない感覚を味わったことを覚えている。
7歳の脳が、必死に導き出した答えは
「・・・うっそだ〜」
父が今発した言葉は冗談である、というものだった。
昨日のお昼まで熱を出していた私の看病をしてくれていた母が死んだ、なんて、到底信じられる話ではなかった。
きっと父はこの私の言葉を聞いて、プッと吹き出し、「騙せなかったか〜」と悔しがってみせるのだろう。それにしても、なんて縁起の悪い冗談だ。そう思った。
しかし、父の青い顔は依然青いまま。背中を嫌な汗がつたうのがわかった。
「とにかく、隣町にある大きな病院に向かうから、急いで着替えなさい。」
それだけ言って、またドタバタと階段を降りていってしまった。
リビングに取り残された、兄と私。
言われるがままに、寝室で二人で着替えを始める。会話はない。
着替えている間に、一階から聞こえる電話の呼び出し音。救急隊員と思しき男の人の声。集まってきた近所の人たちの話し声。
何が起こっているのか理解などできていないのに、勝手に震える身体と、溢れて止まらない涙。
私はこの日を死ぬまで忘れることはないだろう。
私が、地獄に落ちた日だ。