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3 お宅訪問

 





 コルトー侯爵家に到着した――わ~ドキドキする! どうしよう!?


「ようこそいらっしゃいました」

 ダリオ様が笑顔で迎えてくださった。

「お招きいただきありがとうございます。お邪魔いたします」


 この屋敷に一歩足を踏み入れた瞬間から感じたのだが、執事を始め、使用人達がソワソワして落ち着かない様子に見える。何だか嬉しそうな顔をして私のことを見ている気がするけれど、皆、浮足立っている。何故?


 私は怪訝な表情をしていたのだろう。

 ダリオ様が申し訳なさそうに仰る。

「落ち着きのない使用人ですみません。うちの使用人達は、この屋敷に女主人を迎えることを切望していて、執事にいたっては『悲願』とまで申しておりまして……。今日の貴女の我が屋敷への訪問を、皆、首を長くして待ちわびていたのです」

 えっ? そうなの? 


「では、私がこちらに嫁いで来ても、皆、歓迎してくれると思ってよろしいのでしょうか?」

「も、もちろんです! 執事なんか泣いて喜びますよ!」

「まぁダリオ様ったら、大げさですわね」


 ダリオ様が低く呟いた。

「……いや、アイツまじで泣く」

「えっ?」

「あ、いえ、何でもありません。さあ、お茶にしましょう」

「はい、ありがとうございます」



 客間でお茶を飲みながらしばらく談笑したところで、ダリオ様が「グレゴリオをここに連れて来るように」と使用人に命じた。


 いよいよね。はぁ~、8歳の男の子か~。きっと生意気盛りですわよね。

「お前なんか、絶対母上とは認めないからな!」

 とか言われたりするのかしら? うゎ、きっつ! 引っ叩いてしまいそう――うん、ダメだよね。体罰ダメ絶対! 

 ここはグレゴリオ君がどんなに生意気な態度を取っても、私が大人の対応をしなくては! がんばれ、私!


 使用人に連れられて、グレゴリオ君がやってきた。

 ひょー!? 何この美少年!? いや、ダリオ様の息子だから不細工なはずはないのだけれど、想像以上の美しさ! すごいわ!


「息子のグレゴリオです。グレゴリオ、ご挨拶しなさい」

 急に父親らしくなりますのね、ダリオ様。


 グレゴリオ君は少し緊張した面持ちで私に挨拶をしてくれた。

「グレゴリオ・コルトーです。よろしくお願いします」

「ジェンマ・アマートです。こちらこそよろしくお願いしますね」

 私はにっこり微笑んだ。


「ジェンマ嬢、庭を案内しましょう。グレゴリオもいっしょにおいで」

「はい、父上」


 そうして、ダリオ様が広い庭園を案内してくださっているのだが……あれれ? いつの間にかグレゴリオ君が私と手を繋いでいる!? 私が気付いてびっくりしていると、ダリオ様が慌てて、

「グレゴリオ! 何してる? 手を放しなさい!」

 と、グレゴリオ君を咎めた。


 グレゴリオ君は一瞬ビクっとしたが、私の手を放すどころかギュっと強く握り、

「だって、ジェンマ様は僕の母上になってくれるんでしょう? 僕、母上と手を繋ぎたいんだ!」

 と言って、涙目でダリオ様を睨んだ。

「えっ?」  

 反論されると思っていなかったのだろう。ダリオ様が言葉につまると、グレゴリオ君は私を見上げ、

「ジェンマ様と手を繋ぎたい。ダメ?」

 と、ウルウルした瞳で問いかけた。美少年の目から今にも涙が零れ落ちそう。

 うゎ~! 何これ可愛い、何これ可愛い、何これ可愛い、天使か!? ――私の中で何かが崩壊した。


「ゴリちゃん、可愛い!」

 思わず、グレゴリオ君を抱きしめてしまった私。だって、可愛すぎる!

「「ゴリちゃん?」」

 ダリオ様とグレゴリオ君が同時に言葉を発した。


「『グレゴリオ君』って長いから『ゴリちゃん』と呼びますわ。いいでしょ? ゴリちゃん」

「は、はい。愛称で呼ばれるの生まれて初めてです! すごく嬉しい!」

 や~ん、愛称呼び初めてですってー!? そんなことで喜んでくれるなんて、ジェンマ感激! ゴリちゃんを抱きしめる腕に力が入る。


「ジェ、ジェンマ様、苦しい!」

 はっ、私としたことが! 私の豊かな胸にゴリちゃんのお顔が埋もれてしまっているわ! 胸で窒息させてしまう!? 慌てて身体を離す私。

「ごめんね、ゴリちゃん!」

 ヤバイ! ゴリちゃんがゼィゼィ言ってるわ。

「ごめんね、ごめんね。苦しかったよね? 私、胸が大きいものだから。大丈夫?」

「は、はい。大丈夫です。あの……ジェンマ様……」

「うん? なあに?」

「……僕、ジェンマ様のこと『母上』と呼んでもいいですか?」

「もちろんよ」

 私は笑顔で了承した。

 私はまだ17歳だけれど、ゴリちゃんが呼びたいならいくらでも呼んでいいのよー! だってゴリちゃんが可愛すぎる! 何を言われても全て許可しますわ!


「母上……」

 恥ずかしそうに小さな声で呼ぶゴリちゃん。やだ、ちょっと赤くなっちゃったりして可愛い、可愛い、可愛い! 鼻血が出そうですわ!

「ゴリちゃん、もう一度言ってみて」

「は、母上」

「ゴリちゃん……」

 見つめ合う私とゴリちゃん……



「ちょーっと、待ったー!」

 ダリオ様の声がした。

 ん? あ、ダリオ様のこと忘れてましたわ。


「あの、置いてきぼり感がすごいんですが」

 ダリオ様がムッとしている。まずいわ。

「申し訳ありません、ダリオ様。ゴリちゃんがあまりにも可愛くて……」

 慌てて私は謝った。

 ダリオ様は小声でブツブツと、

「全く、グレゴリオのヤツ何て羨ましい……」

 と呟いている。羨ましい? 




 その日、私はコルトー侯爵家で夕食をいただいた。


 ゴリちゃんはすっかり私に懐き、食事中も「母上~」と甘えた口調でしきりに話しかけてくる。その様子を使用人達が満面の笑みで見守っている。あら? 今、執事が眼鏡をずらしてハンカチを目に当てましたわ。泣いてる? 泣いてるの?


「ジェンマ嬢、今度は二人で観劇に出かけましょう」

 ダリオ様がにこやかにおっしゃる。

「はい」


「えーっ! それって僕が一緒に行けないじゃん!」

 ゴリちゃんは不満そうですわ。

「グレゴリオ。私とジェンマ嬢はお互いをもっと知る必要があるんだ。私が結婚を承諾してもらわないことには、ジェンマ嬢はお前の『母上』にはならないんだよ」

 ダリオ様はゴリちゃんに、諭すようにそう告げる。

「それはそうだけど……」

 不満気に口を尖らせるゴリちゃん。


「ゴリちゃん。私はダリオ様と二人のお出かけも楽しみだけど、ゴリちゃんにもまたすぐに会いに来ますわ。ダリオ様、よろしいでしょう?」

「ええ、また我が家で食事を共にしましょう。それでいいな? グレゴリオ」

「はい……」

 ちょっと不貞腐れた表情がたまりませんわ、ゴリちゃん! またすぐに会いに来るから待っててねー!

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