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09話 はじめての冒険・3

 地下三階に到達した。


 地下三階は、元は巨大な採掘場らしく、大きく開けていた。

 ところどころに、採掘の跡が見える。


 しかし、それだけだ。

 珍しい魔物は見当たらないし、もちろん、財宝もない。


「おかしいわね? なんで、なにもないのかしら?」

「もしかして、他に冒険者が来ていたのかな? それで、魔物を全部退治しちゃったとか?」

「それにしてはおかしくない? 誰かいたなら出会うでしょ、一本道なんだし」

「そうだよね……うーん、なんだろう?」


 二人が小首を傾げる中……

 クリスは、イヤな予感を覚えていた。


 第六感というヤツだろうか?

 ここにいたらいけない。

 根拠も何もないが、頭の中で警報が鳴る。


「ここを出るぞ」

「え? なんで?」

「イヤな予感がする」

「いつものスライムとホーンラビットしか倒してないのよ? 収穫ゼロじゃん」

「でも、踏破する、っていう目的は達成したから、戻ってもいいんじゃないかな?」

「それは、まあ……」

「いいから戻るぞ。早く外に……」


 言葉は最後まで続かない。



 ピシッ!!!



 ガラスが割れるような音が響いた。

 もちろん、ガラスなんてない。


 見ると、空間に裂け目ができていた。

 裂け目はどんどん大きくなり……


「あれは……!?」

「アビスゲート!?」


 『穴』が生まれた。

 全てを吸い込むような、深く、暗い穴……

 穴の向こうに、おぞましい魔物の群れが見えた。


 『アビスゲート』

 魔物の世界……『魔界』と繋がる扉のことだ。瘴気の溜まりやすい場所で発生すると言われている天災だ。

 穴からは凶悪な魔物が次々あふれて止まることはない。アビスゲートが原因で、一つの街が滅びたこともある。

 それほどまでの『最悪』に、一同は遭遇した。


「まさか、こんなところで遭遇するなんて……そうか、だからこの鉱山は放棄されたのね!?」

「アビスゲートは一定時間で消えるから、すぐ外に……!」


 来た道を引き返そうとするが、すでにアビスゲートからあふれた魔物で道は塞がれていた。


 スライムやホーンラビットだけならば、蹴散らして強引に進んだだろう。

 しかし、弱い魔物の群れの奥に、高レベルの魔物が見える。

 キリングドール、ジャイアントオーガ、ケルベロス……どれも強敵だ。

 こんな魔物たちの中を突っ切ろうとしたら、まず間違いなく、途中で力尽きてしまう。


「ど、どうしよう、お姉ちゃん……?」

「ど、どうするもこうするも……戦うしかないでしょ!」

「気をつけろっ、くるぞ!」


 三人は互いをかばうように背中を合わせて、戦闘態勢をとった。




――――――――――




 アビスゲートに遭遇した場合、生存確率は10%以下だ。

 次々に魔物があふれてくるため、対処することは極めて困難であり、また、逃げることも難しい。


 故に、生き残れる可能性は一割に満たない。

 できることといえば、救援が来るまでの間、どうにかして時間を稼ぐことくらいだ。


 しかし、クリスたちが東の洞窟を冒険していることは誰も知らない。


 助けは……来ない。


「炎の精霊よ。

 汝は我。我は汝。

 赤の意思をここに示せ。

 ファイアーボール!」


 シアの魔法が魔物群れの中央で炸裂した。


 爆炎。

 そして、魔物たちの悲鳴。


 しかし、煙が晴れると、隙間を埋めるようにすぐに新たな魔物が湧いてきた。


「あーもうっ、キリがないわね!」

「どうにかして逃げないと……! えいっ」


 リアラは魔物の攻撃を盾で受け止めながら、反撃で剣を走らせる。


 怪我をしたら、回復する余裕なんてない。

 一匹一匹、慎重に相手をする。


 しかし、倒しても倒してもキリがない。

 体力と共に、心もすり減っていく。


「ちっ、この雑魚が!」


 クリスも一生懸命戦っていた。

 魔物の波に飲み込まれないように、立ち位置を小刻みに変更しながら、短剣を振るう。

 スライムの上位バージョン……レッドスライムを両断して……さらに、大型犬に似た魔物、ハンターウルフの額に刃を突き立てた。


 アビスゲートが出現して、10分……なんとか戦線を維持していた。

 しかし、アビスゲートが開く時間は、平均で30分だ。

 あと三倍、持ちこたえなければならない。


 しかし、魔物は、アビスゲートから次々に現れて、一向に減らない。

 このままではジリ貧だ。30分も保ちそうにない。


「シア! 魔法でゲートを吹き飛ばせないか!?」

「そっか! お姉ちゃんの魔法なら……!」

「ダメ! あんなに魔物がいたら、いくらあたしの魔法でも無理よ!」


 アビスゲートの周囲は大量の魔物で埋め尽くされている。アビスゲートを覆い隠してしまうほどだ。

 初級魔法程度では、魔物ごとアビスゲートを吹き飛ばすことは叶わない。


 中級、上級魔法ならばあるいは……


 しかし、シアが習得しているのは、まだ初級魔法のみだ。

 素質があり、威力が増幅されたとしても、単純な効果しか得られない初級魔法では、この事態を打開することはできない。


(……俺がやるか?)


 前世の魔法を全て受け継いでいるとしたら、クリスは中級魔法、上級魔法だけではなくて、さらにその上の超級魔法も使うことができる。

 しかし、今のレベルでは魔力が足りない。

 初級魔法を使うのが精一杯だ。


 強引に魔法を使うこともできなくはないが、その場合は、無理をした反動で倒れてしまうだろう。

 最悪、気絶では済まないかもしれない。命の危険もありうる。


 そのことを考えると、実行には移せなかった。


「逃げることもゲートを吹き飛ばすこともできない! なら、ゲートが消えるまで時間を稼ぐわよっ。それまで、やられるんじゃないわよっ、いいわね!?」

「うんっ、お姉ちゃん!」

「ああ!」


 こんなところで倒れるわけにはいかない。

 三人は気合を入れた。

 弱音を上げる体に鞭を打ち、嵐のような戦場を駆け巡る。




――――――――――




 戦って。

 戦って。

 戦って。


 ……いよいよ、限界が訪れようとしていた。


「きゃあっ!?」

「お姉ちゃん!」

「リアラ、後ろだっ」

「くううう!」


 倒しても倒しても、次から次に魔物があふれてくる。キリがない。


 体力を消耗して、魔力が切れて……

 どうしようもないところまで追い詰められてしまう。


「こんな、ところでっ……天才のあたしが、こんなところで……くうっ!」

「お姉ちゃんと、クリス君は……私が、守るんだからっ」


(まずい……これ以上は限界だ!)


 なんとかしなければいけない。

 しかし、方法がない。

 打開策が思い浮かばない。


 数奇な二度目の人生は、こんなに早く終わってしまうのだろうか?


 思わず諦めかけた時……


「……二人とも、聞きなさい」

「どうした? 何か策が……?」

「今から、一発、でかいのをかましてやるわ。それを合図に、逃げるわよ」

「え? でも、お姉ちゃん、そんな魔法覚えてないよね? それに、魔力だってもう……」

「まあ、凡人の妹は知らないでしょうね……知ってる? 魂って、魔力の代わりに燃やし尽くすことができるのよ?」

「なっ……!?」

「そ、それって……自爆!? ダメだよ、お姉ちゃん! そんなのはダメっ」

「他に方法がないでしょ……あたしが一番年上なんだから、少しは格好つけさせなさい。いいわね、これは決定事項よ。逆らうことは許さないわ」


 反論を許さない口調で言って、魔法を唱えるべく、シアは目を閉じて集中する。


(シアが自爆を……自分を犠牲にする?)


 クリスでさえためらい、却下したことを、シアは迷うことなく実行しようとしていた。


 なぜ?

 どうして、そんなことができる?

 元魔王の自分にできないことが、なぜ、普通の人間に……?


 わからない。

 わからない。

 わからない。


 だけど、一つだけわかることがあった。


(俺は、シアとリアラと仲間と認めた。信を預けた。ならば……俺が取るべき選択は? 行動は? それは……それは!)


「死なせてたまるものかぁっっっ!!!!!!!」


 瞬間、右手の紋章が光り輝いた。

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