06話 パーティー結成!
シアとリアラとの出会いから、3日が経った。
パーティーの相性を試すということで、今日も、クリスたちはアストレア周辺の魔物を狩る。
「シッ!」
クリスの短剣が閃いて、スライムを両断した。
レベルが上がったからか、最近は、ほぼ一撃で仕留められるようになっていた。
ただ、今日の敵はスライムだけではない。
ホーンラビット。
うさぎを一回り大きくして、角を生やしたような魔物だ。
見た目はわりとかわいいが、気性は荒い。
鋭い角で獲物を刺すなど、凶悪なところもある。
ちなみに、その肉は柔らかく脂がのっていて、非常においしい。
ザザザッ!
四本足で地面を駆けて、角を槍のように使い、突撃してきた。
「私に任せて!」
リアラが前に出た。
臆することなく、ホーンラビットの攻撃を盾で受け止める。
剣士という職は、剣で攻撃をするよりも、盾を使う防御の方が得意なのだ。
いわば、防御のエキスパート。
レベル9だけあって、リアラの腕前はなかなかのものだ。ホーンラビットの攻撃を受け止めるだけではなく、反撃で盾を鈍器のように使い、器用に吹き飛ばしていた。
吹き飛んだホーンラビットを追いかけて、クリスは短剣の腹で角を横から叩いた。
ビシッ、と角にヒビが入る。
間髪入れず、もう一撃。
パキィッ!
角が砕けて、ホーンラビットが悶える。
「炎の精霊よ。
汝は我。我は汝。
赤の意思をここに示せ」
ホーンラビットの足を止めたところで、クリスは後ろに跳んだ。
ホーンラビットは意外と耐久力があるので、レベルが低いうちは、物理攻撃で倒すのは骨が折れるのだ。
なので、シアに任せることにした。
「ファイアーボール!」
魔法の詠唱が完了して、シアは炎の球を撃ちだした。
魔法は、初級・中級・上級・超級の四種類に分かれている。
シアが唱えた『ファイアーボール』は初級の魔法だ。
魔法は本人の素質によって威力が左右される。初級の場合でも、素質によっては中級魔法並の威力を発揮することがある。
シアの素質は、なかなかのものだった。
大きなボールくらいの火の球が、風を切るような速度でホーンラビットに迫る。
中級魔法並だ。
ゴォッ!!!
シアのファイアーボールで、ホーンラビットが消し炭になった。
「うむ、いいタイミングだ。魔法の威力も申し分ないな」
「ふふーん、そうでしょそうでしょ? あたし、天才だから!」
「リアラも、いい働きをしてくれた。防御の技術だけでいうならば、すでに一流冒険者並ではないか?」
「そ、そうかな? そんな風に言われると照れちゃうよ」
「正当な評価だ。素直に受け取れ」
「褒めているわりに、この子、やけに偉そうなのよね」
「生まれつきだ、気にするな」
「でもでも、なんか、子供が必死に背伸びしてるみたいでかわいいな」
「俺が、かわいい……」
元魔王なのに。
密かに、ガーンとショックを受けるクリスだった。
それはともかく。
(この二人、かなりの掘り出し物かもしれないな)
単に強いというだけではない。
とても戦いやすいのだ。
こうしてくれたら、ああしてくれたら。こちらの考えを読み取るように動いてくれて、一人で戦う時の何倍、何十倍も楽に戦闘を進めることができた。
仲間としての力。コンビネーションの相性。頼りがいがあるかどうか。
どれをとっても文句はない。
まだ3日しか経っていないが、このまま正式に部下として採用したいくらいだ。
(しかし……人間を頼りにしていいものか、迷うな)
人間は愚かな生き物だ。
そんな存在を頼りにしていいものか? 部下に加えていいものか?
能力は認めたものの、根本的な部分で迷いを抱いてしまい、今一歩、踏み込めないでいた。
「どうかしたの?」
「……いや、なんでもない。考え事をしていただけだ」
「何か悩み事? あたしたちでよければ、特別に話を聞いてあげなくもないわよ? ふふんっ、感謝しなさい」
「恩着せがましいな」
どう答えたものか迷っていると……
ガサガサッ。
近くの茂みから、スライムが勢いよく飛び出してきた。
考え事をしていたせいで反応が遅れてしまう。
「ぼさっとしてないの!」
シアが割って入る。
「きゃあっ!?」
「お姉ちゃん!?」
「ちっ!」
シアとリアラの悲鳴で、クリスは我に返った。
瞬時に短剣を抜いて、スライムを両断した。
「おいっ、大丈夫か!?」
「へ、平気よ……天才のあたしが、スライム程度に……いたたたっ」
「お姉ちゃん、無理をしないで。倒れた時、足を捻ったんだよね? ほら、ポーション」
「……ありがと」
シアはポーションを飲んで、手頃な木に背中を預けた。
ポーションは失った体力の回復や傷を癒やす効果があるけれど、即効性ではない。しばらく休まないと、効果は出てこないのだ。
「……どうして、俺を助けた?」
「べ、別にあんたを助けたわけじゃないんだから!」
「いや、お姉ちゃん、それは無理があるよ」
「妹は黙ってなさい!」
「横暴だよ……」
「……体が勝手に動いちゃったんだもの、仕方ないじゃない」
クリスは、遠い前世の記憶を思い出した。
シアと同じように、仲間をかばう人間と出会ったことがある。
明らかに無謀な行為なのに、迷うことなく、その身を盾に使う。
訳がわからない。なぜ、そんなことができるのか?
「どうしてだ?」
「……仲間だからに決まってるじゃない」
シアにとって、勇者とか子供とか関係ない。
仲間だから。
その一言で十分なのだ。
(……仲間……)
まだ、正式にパーティーを組んだわけではない。お試しだ。
それなのに、シアはクリスを仲間と言う。一片の迷いもなく、言い切る。そのことを証明するように、体を張って守る。
得体の知れない感情が……理解不能な熱が、体を駆け巡る。
この感情の正体はわからない。理解することができない。
ただ……人間も、思っていたほど愚かな存在ではないのかもしれない。そんなことを思った。
「体に問題はないか?」
「平気よ。ポーションも飲んだし、少しすれば動けるようになるわ」
「なら、そのままで構わない。聞け。俺は、お前たち二人と、正式にパーティーを組もうと思う」
「え? ど、どうしたの、突然?」
「まだ4日残っているよ?」
「色々と考えた結果だ。二人は俺の部下にふさわしい……いや。仲間として背中を預けるに値する者と判断した。故に、正式にパーティーを組もう、というわけだ」
「なになに? あたしのすっごい力にようやく気がついた? 才能に惚れ込んじゃった?」
「……勘違いするな。そこまで信を預けたつもりはない。ただ、仲間にする価値があると判断しただけだ」
「うわー。かわいい顔と声でそんなこと言われても、全然締まらないんだけど。っていうか、あんた、ツンデレ? ツンデレなの?」
「ツンデレはお姉ちゃんじゃないかな……?」
「子供の背伸びって思えば、その生意気な態度もかわいいもんだし、気にしないであげる。あ、それと仲間の件なら、もちろんオッケーよ。もともと、そのつもりで声をかけたんだし」
「私も問題ないよ」
シアとリアラは柔らかく笑う。
その笑顔を見ていると、クリスは不思議な気分になった。
温かいような、落ち着くような……
ただ、すぐに気のせいと判断して、話を進める。
「ならば、今から俺たちは正式な仲間だ」
「よろしくしてあげるわ」
「よろしくね……お姉ちゃんたち、意外と似たもの同士?」
妙なことが聞こえるが、気にしないことにした。
「ねえねえ。正式に仲間になったんだし、クリスって名前で呼んでいい?」
「この俺を呼び捨てにするか……まあいい。俺は寛容だからな、それくらいは許可してやろう」
「じゃあ、私はクリス君って呼ぶね」
「俺は、シアとリアラと呼ぶぞ、いいな?」
「ええ、もちろん」
「改めて、これからよろしくね!」