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05話 仲間を探そう

 勇者になって数日……


 その日も、クリスは魔物を退治していた。

 もっともっとレベルを上げないといけないし、金も稼がないといけない。

 なので、朝からがんばっていたのだけど……




――――――――――




「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」


 城下町に戻り、適当な家の壁に寄りかかり、必死になって息を整えた。


 レベルも順調に上がり、戦闘にも慣れてきたが……

 間違って魔物の巣に踏み込んでしまい、四方八方を囲まれて、慌てて逃げ出したのだ。

 なんとか魔物を振り切り、城下町に戻ることに成功した。


「俺としたことが、つまらないミスをしたな……レベルはまだ一桁ということを忘れていたぞ。また死ぬところだった」


 また死んでしまうなんてごめんだ。

 今度から、もっと気をつけないといけない。


「というか、気をつけるとか、そういう問題ではないな」


 今回の魔物は、決して倒せない相手ではなかった。

 ただ、予想以上に数が多くて、追い込まれてしまったのだ。

 いくら前世が魔王でも、今はレベル3。一人でやれることに限界はある。


「ふむ。今後に備えて、頼りになる部下が欲しいな。まずは、前衛と後衛を一人ずつ、といったところか」


 パーティーの構成を考えながら、冒険者が集る酒場に向かう。


 酒場は、ただ酒を飲むための場所ではなくて、色々な情報が交換されている。

 また、仲間を求める冒険者が足を運ぶことも多い。


「俺の目にかなうものがいるといいが」




――――――――――




「一人もいないとは……」


 酒場を後にしたクリスは、近くのカフェのテーブルに突っ伏していた。


 たくさんの冒険者を見たが、どれもこれも使えそうにない。

 というか、それ以前に、クリスの仲間になりたいという者がいない。

 当たり前だ。

 勇者ということが伏せられているため、クリスはただの子供にしか見えない。そんなただの子供の仲間になる冒険者なんて、まずいない。

 仮に信じてもらえたとしても、勇者の旅という過酷な冒険に付き合うような強者はいなかった。


 そもそも、クリスは子供だ。

 ガキは帰れと、ほどなくして追い出されてしまった。


「前世では数千年を生きた俺をガキと呼ぶか、無礼な人間め。新しい魔王を倒し、世界を征服した暁には、あの酒場はまっさきに潰してやるぞ。直接手はくださない。取引先に圧力をかけて補給を断ち、じわじわと追い込んでくれる」

「ねえ、ちょっといい?」

「しかし、ろくな冒険者がいないな。どいつもこいつも、盾になることもできそうにない弱者ばかりだ。レベルが低いだけならともかく、心も弱いときた。呆れてものが言えん」

「ねえったら、聞いているの?」

「これだけ探しても見つからないとなると、ここでは難しいのかもしれないな。別の街で探した方が早いかもしれん」

「ちょっと、人の話を聞きなさいよ!」

「ん?」


 ようやく自分が呼ばれていると気づいて、クリスは怪訝そうに振り返る。


 二人の女の子がいた。


 一人は、とても小さい。自分と同じくらいだ。

 髪はロングヘアー、リボンで束ねている。強気な瞳が印象的だ。


 もう一人は、おとなしそうな顔をしていた。

 髪は肩で切り揃えていて、もう一人の女の子と同じリボンをつけている。優しそうな顔をしていて、子供に好かれそうだ。


「あんた、勇者よね?」

「そうだが、どこでそのことを?」

「あたし、頭が良いの」


 いきなり自慢をされた。

 なんだ、この女の子は?


「だから、勇者のことも知っているの。それ、勇者の証の『翼の紋章』でしょ?」

「お姉ちゃんは色々な文献を読んでいるから、勇者さまについて詳しいんだよ」


 もう一人のおとなしそうな女の子が、そう補足した。


「それで?」

「聞いて驚きなさい。見て驚きなさい。あたしは、1000年に一度と言われた天才の魔法使いで、若干15歳で魔法学校を卒業した……」

「お姉ちゃん、お姉ちゃん。その前に、自己紹介をしないと」

「それもそうね。聞いて驚きなさい!」


 また同じことを言った。


「あたしは、シア! シア・シュトライトよ!」

「私は、リアラ・シュトライト。お姉ちゃんの妹で、今年で14歳だよ」

「クリス・ラインハルトだ。察しの通り、勇者だ」

「あんたみたいな女の子が勇者なんて、驚きね」

「お前の目は節穴か? 俺は男だぞ」

「え? 男なの? ……そういう趣味?」

「お、お姉ちゃん。いきなり失礼だから。それに、話が逸れているよ」

「俺になんの用だ?」

「さっき、チラっと見かけたんだけど、あんた、仲間を探しているの?」

「そうだな。といっても、俺の目にかなうヤツはいなかったが……」

「それなら、私たちなんてどうかな?」

「なに?」


 予想外の言葉に、ついつい驚きの声をあげてしまう。


(この女たちが冒険者? まだまだガキではないか)


 ともすれば失礼な視線を向けてしまうが、二人は特に気にした様子はない。

 自分たちをアピールするように、シアは杖を、リアラは剣と盾を見せる。


「あたしは魔法使い」

「それで、私は剣士だよ」

「あたしもリアラも、天才と呼ばれるほどの超一級冒険者よ。仲間にしておいて損はないわ」

「ごめんなさいごめんなさい。お姉ちゃん、話を盛ってて……本当は、レベル8と9の冒険者なんだ。あ、でもでも、腕に自信はあるのは本当だよ」

「どうかしら? あたしたちを仲間にしてくれない?」

「ふむ」


 クリスは、二人をじっと観察した。


 それぞれ、瞳に強い意思の光を宿していた。

 数え切れない冒険者たちと戦ってきた経験からすると、こういう人間はよく伸びる。うまく成長すれば、トップクラスの冒険者になるだろう。


 それに、レベルは倍以上だ。

 酒場で見た冒険者たちよりも、百倍は役に立ちそうだ。


「ならば……」


 いいだろう……と言いかけて、まてよ? と考え直した。


 二人がトップクラスの冒険者になる可能性を秘めていることは間違いない。

 しかし、能力だけで部下を選ぶとろくな目に合わないことを、クリスは学習していた。


 そう……あれは、勇者との戦いが本格的になってきた頃のことだ。

 勇者と四天王が激突したのだけど……


「ヤツは我らの中でも最弱」「じゃれ合うつもりなどない」「我は孤高の戦士よ」


 ……などなど。

 四天王たちはよくわからないことをぬかして、最悪の連携プレーを見せてくれた。

 そのせいで、勇者とその一行に簡単に撃破されてしまった。

 全て、己の能力を過信したせいだ。


 この二人も、同じようなことにならないだろうか?

 能力も大事だが、それ以上に、『一緒のパーティになっても大丈夫』という安心感が欲しい。力よりも性格なのだ。


 まずは、パーティーとしてちゃんと機能するか、確認してからの方がいいのではないか?


「まずはお試し、というのはどうだ?」

「お試し?」

「そうだな……とりあえず、一週間。パーティーを組んで活動して、それでうまくいくようなら正式に。ダメならば解散だ。相性の問題もあるだろうから、まずは連携などを確認した方がいいだろう。そう思わないか?」

「ふーん、なるほどね……いいんじゃないかしら? あたしの足を引っ張るような間抜け勇者だったら、パーティーを組む価値ないし……あたしは賛成よ」

「もうっ、お姉ちゃんったら、またそんなことを……あ、えっと、私も問題ないよ」

「決まりだな。ならば、まずは一週間、共に過ごすことを許そう」

「あんた、やけに偉そうね? まあいいわ。よろしくしてあげる」

「よろしくね」


 シアとリアラと、それぞれ握手を交わした。

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