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19話 後始末はしっかりと

 ボルフの村人たちは、皆、笑顔を浮かべていた。

 たくさんの料理を食べて、おいしい酒を飲んで、村に平和が訪れたことを祝う。


「ありがとうございます、本当にありがとうございます。みなさまのおかげで、この村は救われました」


 立役者のクリスたちは歓待を受けていた。

 村人たちが全員クリスたちのところにやってきて、感謝の言葉を述べる。そして、村特産の料理をふるまう。


「ふん。別にお前たちのためにしたわけじゃないが……まあ、悪くない気分だな」

「まーた、ツンデレなこと言っちゃって。この子は、素直になるってことを知らないのかしら? あら、この肉おいしい」

「まあ、それがクリス君らしいから。あ、お姉ちゃん。こっちの料理もおいしいよ」

「確かにらしいけど、たまには子供らしく素直なところが見たいわ。それにしても、辺鄙な村かと思いきや、意外と良いものが揃っているのね」

「クリス君が素直になったら、雨になっちゃうよ。んー、今度は、こっちのスープを飲んでみようっと」

「お前ら……人をからかうのか料理を食べるのか、どっちかにしろ」

「「なら、からかう方で」」

「却下だ」


 祝いの席だからなのか、シアとリアラはいつもよりテンションが高い。

 困ったものだ。

 呆れつつ、クリスは村特産の酒を……


「こらっ、お酒はダメだよ」

「あっ、おい。俺の酒をどうするつもりだ!?」

「クリス君はまだ子供でしょ? お酒はダメだよ」

「ケチくさいことを言うな。祝いの席だろう」

「酒を飲みたいなんて、おかしな子ね。なにがおいしいの? 背伸びしたい年頃なのかしら」

「おい、俺を子供扱いするな」

「子供じゃん」


 事実、その通りなので何も言えない。


(まったく、久々に酒を味わえるかもしれないと思ったのだけどな。やはり、人間というものは不便だ。一定の年齢に達しないと酒を飲めないなんてな)


「ほらほら、拗ねないの。お姉さんが料理をとってきてあげるから」

「お姉さん? 誰がお姉さんなんだ? シアは子供だろう?」

「ちょっと、あたしがパーティーの最年長なんだからね」

「そうだったな。すまない、見た目がアレだから忘れてた」

「アレってどういうことよ!?」

「もう、すぐにケンカを始めちゃうんだから、この二人は」


 賑やかな夜は更けていく……




――――――――――




 宴が終わり、静かな夜が訪れた。

 虫の鳴き声に混じって、村のあちこちからいびきが聞こえてくる。

 酔いつぶれた男たちがそこらで寝ていた。


 だらしないものの、ある意味、仕方ない。

 長年、村を縛り付けていた魔物の恐怖から解き放たれたのだ。

 酔いつぶれるくらい飲んでも、今日くらいは許されるというものだ。


「……」


 クリスは村の外に出て、とある方向に向かって歩いていた。

 村人たちは大半が酔いつぶれていて、そのことに気づく者はいない。


 いや、二人、気づいていた。


「こら。こんな夜中にどこに行くつもり?」

「どうしたの、クリス君? トイレ? 一緒についていってあげようか?」

「シアとリアラか。よく気づいたな」

「当たり前でしょ。あたしくらいの超一流の冒険者になると、気配を察知することくらいわけないわ」

「本当は、喉が乾いて飲み物を探していたら、クリス君がいないことに気づいたんだけどね。それで、トイレなの?」

「トイレから離れろ」


 どうでもいいことを話しながら、シアとリアラが着いてきた。何も見なかった、という選択肢はないらしい。

 とはいえ、二人が邪魔ということではないので、クリスはそのまま放置する。


「で、ホントになにするわけ? 散歩ってわけじゃないわよね? クリスって、そういうかわいいところないし」

「否定はしないが、シアに言われると微妙に腹が立つな」

「あれ、夜のお散歩じゃなかったの?」


 この姉妹は、どうしてこんなに考えることが違うのだろう?

 一度、頭の中身をじっくりと調べてみたくなった。やらないが。


「なに、大したことじゃない。後始末を忘れていただけだ」

「後始末? やり残したことなんてあったかな?」

「……あぁ、なるほどね」


 シアは察したらしく、悪い笑みを浮かべた。

 クリスも悪い笑みを浮かべる。

 間のリアラは、え? え? と慌てるだけだ。


「せっかくだから二人も付き合え。行くぞ」




――――――――――




 領主の館に到着した。


「あれ? ここ、確か、領主さまの……領主さまに用事があるの?」

「そうだな。用事といえば、用事といえなくもないな」

「でも、もう夜だよ? 明日にならないと……というか、あらかじめ話を通しておかないと。簡単に面会なんてできないと思うけどな」

「話を通す必要なんてないわ」

「え? どういうこと?」

「簡単なことだ。こうすればいい」


 玄関の呼び鈴を鳴ら……さないで、クリスは扉を蹴破った。


「えええぇっ!!!?」


 リアラは慌てるが、シアは想定内らしく落ち着いている。というか、クリスと一緒になって蹴破っていた。


「なんだっ、今の音は!?」

「お前たち、何者だ!? 賊かっ!」


 たちまち警備兵たちが駆けつけるが、


「風の精霊よ。

 汝は我。我は汝。

 緑の意思をここに示せ。

 スリープミスト!」


 シアの魔法で、全員、眠らされてしまう。


「え? え? えええぇ……?」


 ひたすら狼狽するリアラをよそに、クリスは館の奥にずんずんと進んだ。


 豪華な装飾がほどこされた扉が見えた。おそらく、この先が領主の寝室なのだろう。



 ゲシッ!



 玄関の時と同じように、クリスは悪徳業者を連想させるような蹴りで、扉をぶち開けた。


「なっ、ななな、なんだ!? ど、どういうことだ、なにが起きている!?」


 ベッドの上で寝ていた男が跳ね起きた。


「なんだお前たちはっ……衛兵っ、衛兵っ! 不審者どもを捕らえろっ」

「無理よ。全員、良い夢を見てる最中ね」

「な、なに……?」

「さて。お前がボルフ村の領主で間違いないな?」

「そ、そうだが……なんだ、お前たちは。ぞ、賊か? 金ならやるから、乱暴なことは……」

「安心しろ。賊じゃないし、お前の金になど興味はない」


 領主はちょっと安心したような顔になるが、まだ、恐怖の色は完全に消えていない。

 当たり前だ。

 寝ているところにいきなり見知らぬ三人組が乱入してきたら、普通に怖い。


「聞いたぞ。お前は領主という立場にありながら、守らなければいけない村を放置したそうだな?」

「なっ……そ、そんなことは……」

「なに、責めているわけではない。人間、自分の身が一番かわいいものだ。体を張ってまで見ず知らずの他人を助けろなどというのは無茶というものだ。お前の選択は実に人間らしい。そんな当たり前の選択を、誰が責められようか……しかし、だ」


 不意に、クリスの声のトーンが変わる。

 体の芯に響くような、心の深いところに届くような……強烈な圧迫感を伴い、威圧される。


「領主というのならば、果たさなければいけない義務と責任があるだろう? お前がそれを無視したせいで、俺は面倒なことに巻き込まれた。ひどく不愉快だ。この落とし前、どうつけてくれる?」

「わ、私は、領主として問題なく……ボルフの村は、い、いずれ……」

「そんな言葉でごまかせると思っているのか? 俺を騙し込めると? 舐められたものだな。いや、それとも、人を見る目がないのか? 考える知能がないのか? ならば仕方ないな。それを責めるというものは酷というものだ」

「な、なにを……」

「責任を果たそうとしないお前は、領主に向いてないな。というか、資格がない。よって、この俺が貴様の領主としての資格と権限を剥奪してやろう。喜べ、わざわざ俺がこの手で裁いてやるのだからな」

「ば、バカなことを言うなっ。どこのだれか知らないが、貴様のようなガキにそんなことをする権利など……」

「権利など知るか。俺がルールだ」


 キッパリと言い切られて、領主が絶句した。


「しかし……ふむ。資格と権利を剥奪すると言ったが、それはそれで面倒だな。手続きで長時間拘束されてしまいそうだ。実に面倒だ。なので、手っ取り早い方法にしよう……死ね」

「ひぃっ!?」


 クリスの手の平に魔力の光が灯り、領主は後ずさる。


「ちょっ、クリス君!?」

「しーっ、いいから。ここはクリスに任せましょ」


 慌てるリアラを、シアはそっと止めた。

 考えがある……というよりは、関わるのがめんどくさい、という感じだ。


「な、なぜ私が……こここ、こんなことになるなんて……!? どうして、いやだ、なんで……」

「死にたくないか?」


 首が取れるんじゃないかと思うくらい、ぶんぶんぶんと領主は何度も頷いた。


「いいだろう。執行猶予をくれてやる。これからは、領主としての責務を果たせ。ボルフ村もしっかりと管理しろ。簡単なことだろう? ただ、仕事をすればいいだけだ。そうすれば、殺すのはやめよう。が……もしも、変わらないようならば……わかるな?」

「はっ、ははは、はい! わかりました、わかりますっ」

「良い返事だ。期待しているぞ」




――――――――――




「はぁ……心臓が止まるかと思った」


 領主の館を後にして、リアラが長い吐息をこぼした。


「いきなり、領主さまの館に殴り込むなんて……クリス君がグレちゃったのかと思ったよ」

「このお子さまなら、元からグレてるじゃない。でもまあ、村のためにあんなことするなんて、優しいところあるじゃない」

「ホント、クリス君すごいね。私、見直しちゃった」

「また同じようなことになっても面倒だから、根本的な問題を修正しただけだ。村のためじゃない」

「まーた、この子は素直じゃないことを言って。変なところでねじ曲がってるわね」

「意地を張るクリス君かわいい」

「こいつらは……」


 やはり、余計なことをするんじゃなかった。

 二人にからかわれて、クリスはわりと真剣にそう思うのだった。

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