18話 反撃の時間・3
ゴォッ!!!
ナーガの巨体がトマスとケイトを飲み込んで、土煙があがった。
……いや。
飲み込んだように見えた。
土煙が晴れると、変わらず、トマスとケイトがいた。
傷一つ負っていない。
その一歩手前に、ナーガの巨体。
そして……ナーガの突撃を、片手で受け止めるクリスの姿。
「な、なんだト……!?」
クリスの右手の紋章が輝いていた。
ただ、アビスゲートの時と違い、やや光が弱い。
背中に生える翼も一本だけだ。
「貴様、ふざけるなよ」
「なニ……?」
「この俺がわざわざ助けてやろうとした人間を殺す? 道連れにする? いい度胸をしているな。褒めてやるが……それは、愚の骨頂と知るがいい!」
「ぐアっ!?」
文字通り、クリスは片手一本でナーガの巨体を持ち上げた。
そのまま、広場の奥に投げ飛ばす。
ズゥンッ!!!
地震が起きたように大地が揺れた。
無数の木々を薙ぎ倒しながら、ナーガが地面に転がる。
全身を激しく打ち、身悶えていた。
「な、なんだというのダ……この力は?」
「後悔したか? 怯えているか? だがしかし、もう遅い」
声はすぐ横から聞こえてきた。
一足で間合いを詰めたクリスは、ナーガの顔に拳を叩き込む。
力任せの一撃で、狙いもなにもあったものじゃない。
クリスの拳は、硬い鱗に阻まれて、それで終わり……になるはずだった。
ガッ!!!
巨木で鉄を打ちつけたような音が響いた。
剣を弾くナーガの鱗は、クリスの鉄拳で打ち砕かれた。
障害をもろともせず、鱗を紙のように突き破り、クリスの拳がナーガを痛烈に打つ。
衝撃が骨まで響いて、ナーガは苦悶の声をあげて、巨体をよじらせた。
「こ、のっ……人間があああああアッ!!!」
怒りが痛みを無視させて、ナーガはクリスに食らいついた。
鉄の鎧を安々と突き破る、鋭い牙が突き立てられる。
……が、意味はない。
服に穴が空いた程度で、クリスの体に傷はつかない。
まるで、強靭なゴムを噛んでいるみたいだ。
いくら牙を突き立てようとしても、弾かれ、奥に進むことができない。
「それで終わりか?」
「なめるナッ!!!」
クリスを覆い尽くすように、ナーガはヘビの体を絡みつかせた。
そのまま、ギシギシと締め上げる。
「潰れロっ!」
ヘビが獲物を締め付けるのは、呼吸を奪い、意識を刈り取るためだ。
強烈な圧迫を与えることで肺や心臓の機能を阻害して、呼吸できなくさせる。
その後、動けなくなった獲物を丸呑みする。
狩りに使われているため、獲物を圧迫する力は相当に強い。
人間なんて、簡単に骨が砕かれてしまう。
まして、相手は魔物であるナーガだ。
骨が砕かれるだけでは済まない。体中が押し潰されて、弾けてしまうだろう。
それが当たり前の結末。
それなのに……
「……で?」
「な……な、なんだ、貴様ハ!!!?」
ナーガに締めつけられても、クリスは平然としていた。
体が潰されるどころか、息苦しいとさえ感じていない。
蚊がまとわりついている。
その程度の認識しかない。
「馬鹿な……どうして、人間如きが……これほどノ……あ、ありえなイ!」
「お前より強い人間は、たくさんいたぞ? 村人などを相手にして、調子に乗るから周りが見えなくなる。愚かだな。愚劣さの対価、その身で支払うがいい!」
「うが……あっ、がっ……あああああアッ!!!?」
息を吸って、吐いて……
そして、ぐっと体に力を込める。
ブァッ!!!
クリスは、絡みついたナーガの尾を、内から弾き、引きちぎる。
ナーガの絶叫。
体の三分の一ほどがちぎれて、ナーガはのたうち回る。
「あ、ありえなイ……力任せに、我の体を引きちぎるなド……!?」
「しぶといな、まだ生きてるか」
この周辺の魔物を束ねているだけあって、さすがに生命力は高い。
ナーガは大量の血を流しながらも、まだ動いていた。
「こんな、ことが……おのれおのれおのれ、人間め人間め人間メッ!!!」
呪詛を撒き散らし、ナーガは血走った目でトマスとケイトを睨んだ。
先ほどと同じく、道連れに、と考えているのだろう。
学習しないヤツだ。
クリスは呆れすら覚えながら、短剣を構えて、トドメを……
「こ、この化け物め!」
どこからか石が飛んできて、ナーガに当たった。
「もううんざりだっ、この村から出て行け!」
「これ以上、仲間を見捨てられるか!」
「トマス、ケイト! 助けに来たぞ!」
次々と村人が現れた。
皆、恐怖に震えながらも……しかし、逃げることはなく、ナーガに立ち向かっている。
石なんて投げても、ダメージを与えることはできないと理解しているが……それでも、反抗の意思を示していた。
「みんな、どうして……」
呆然とするトマスとケイトのところに、村長が歩み寄る。
「わしらが間違っておった……トマス、お主の言うとおりじゃ。わしらも、人でありたい」
「村長……」
「今更ではあるが……共に戦わせてくれ」
「もーちょっと早く来てたら、樣になったんだけどねぇ」
「お姉ちゃん、そういうこと言わないの」
シアとリアラが村人たちの前に立つ。
「さてと。驚いて、思わずぼーっとしちゃったけど、最強魔法使いの力、見せちゃおうかしら!」
「村の人たちには、指一本触れさせないよ」
「あいつ、指なんてないわよ?」
「もうっ、だからそういうことは言わないでいいの」
「家畜ごときに我に反抗する度胸があるなド……そんな心は、摘み取っていたはズ……ありえぬ、我の計画は完璧ダ……こんな、ことが……認めぬ、認められるカ! 我は……我は……!」
「悪いが……トドメは俺がもらう」
クリスは跳躍して、ナーガの巨体の上に乗る。
ちょうど頭の上で、ナーガを見下ろす形になった。
「なかなか楽しいものを見ることができた。その点では、お前に感謝するぞ。褒美だ、受け取れ」
手をかざし、魔法を唱える。
「闇の精霊よ。
汝は我。我は汝。運命共同体也。
故に、滅びを与えよう。
沈め、沈め、沈め。闇の底に飲み込まれるがいい。
黒の意思をここに示せ」
クリスの手の平に闇が収束していく。
圧倒的な力を感じて……しかし、ナーガは恐怖していなかった。
むしろ、懐かしさを感じていた。
遠い昔に感じた、大いなる存在に仕えていた頃に得た感覚。
それ、あれは……
「ま、まさか……あなたさまハ……」
「ソウルイーター!」
闇がナーガの体に吸い込まれるように侵入して、奥底に潜む魂を喰らう。
命の源を絶たれて、ナーガは絶命した。その巨体を寝かすように地面に倒れた。
もはや、ピクリとも動かない。
そのことを確認した村人たちは、揃って歓声をあげるのだった。
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