13話 北へ……それと、サービス
「準備はいい?」
「……少し待て」
朝。
シアとリアラが家にやってきた。
旅の準備を終えたクリスは、二人と一緒に街を出ようとして……
ふと思い直して、家を振り返る。
「気をつけるんだぞ」
「クリス、辛くなったらいつでも帰ってきていいからね? あなたが元気でいることが、一番なんだから」
アリルとアーデルが見送りをしてくれた。
「俺の心配はいらない」
「子供の心配をしない親がいるものか」
「そうよ。私たちはなにもできないんだから……せめて、あなたと仲間たちの無事を祈らせて」
「……好きにしてくれ」
なぜかわからないけれど……
胸が熱く、そして、針を刺したようにチクリとなった。
「じゃあ、そろそろ行く」
「がんばれ」
「気をつけてね」
心配そうにする二人に、クリスはしっかりと頷いてみせた。
それで十分だ。これ以上の言葉はいらない。
「もういいの?」
「ああ、問題ない」
「もっとお父さんとお母さんをお話をしてもよかったんだよ? 次にここに帰ってこられるのは、いつになるかわからないんだし……寂しいでしょ?」
「ふん。俺に、そんなつまらない感傷などない。無用な気遣いだ」
「強がっちゃって。ホント、子供なんだから」
「いいから行くぞ。時間がもったいない」
クリスが先を歩いて……
シアとリアラの姉妹は、くすりと笑いながら、その後に続いた。
長い旅が、今、始まる。
――――――――――
アストレアを出発して、3日が経った。
クリスたち一行は、街道沿いに歩いて、北へ向かう。
下手に道を外れると、魔物や盗賊などに遭遇してしまう可能性があるため……街道をはずれなくても、遭遇する時は遭遇するが……なるべくルートを遵守するつもりでいた。
問題は特に起きていない。
……今までは。
「水浴びだと?」
「ええ、水浴びよ!」
大事な話があるからと聞いてみれば、どうでもいいことだった。
クリスは無視して歩みを再開しようとするが、それを阻止するようにシアが回り込む。
「ちょっと、無視しないでちょうだい!」
「くだらないことを言うからだ。水浴びなんて必要ない、無駄だ。余計なことに時間を割いていられるか」
「言い切ったわね、このお子さま! いい? 旅に出てもう3日。汗をかいたりして、匂いもしてきたわ。こんなの無理、耐えられない。女の子は体を清潔にしないと生きていくことができないのよ!」
「……そうなのか?」
シアがあまりに真面目に言うものだから、人間のことをよく知らないクリスは、ついつい納得してしまいそうになる。
「えっと……生きていけない、ってことはないけど……でも、私も水浴びしたいな」
リアラが援護射撃をした。
常識派のリアラではあるが、やっぱり女の子だ。汗の匂いなどは気になるし、水を浴びてさっぱりしたい。
「……わかった。寄り道をしてもいい」
「やった。ありがとう、クリス君」
「じゃ、行きましょう。ちょうど、近くに川があるわ」
「なぜ、俺の手を引く?」
「ついでだから、あんたも一緒に水浴びしなさい」
「えぇっ!? お、お姉ちゃん、クリス君も一緒なの? お、男の子だよ……?」
「なに意識してんのよ、ませた妹ね。クリスはまだ子供じゃない。でもって、こんな顔してるから女の子みたいなものよ」
「絶対違うと思う……」
「俺は水浴びなんてするつもりはないぞ」
「いいから来なさい。クリスも臭うわよ」
「っ!?」
雷に撃たれたような衝撃が走る。
前世の魔王ともあろう者が汗臭いなど、笑い話もいいところではないか。
「よし、わかった。俺も付き合うことにしよう」
「そうこなくっちゃ。ほら、行くわよ、リアラ」
「うぅ、恥ずかしいなぁ……」
――――――――――
「きゃっほー!」
ざぱーん、と裸になったシアが川に飛び込んだ。
水面から顔を出して、水飛沫を散らす。
「あー、最高! 気持ちいいわ。やっぱり、暑い日は水浴びに限るわねっ」
「あ、あの……クリス君。あまり、こっちを見ないでね?」
「安心しろ。子供の裸なんぞに興味はない」
「クリス君に言われたくないよ!?」
クリスとリアラも服を脱いで、水浴びをする。
シアが言うように、とても心地良い。
最初は反対していたクリスだけど、たまにはこういうのも悪くないかもしれないな、なんてことを思う。
「ほらほらっ、リアラ、いくわよーっ!」
「わぷっ!? ちょ、お姉ちゃん、水が顔に……わぷっ」
「どんどんいくわよっ」
「も、もうっ、いつまでもやられっぱなしじゃないんだからね!」
「ひゃあっ!?」
少し目を離していたら、シアとリアラは水遊びをはじめてしまった。
シアのペースに巻き込まれて、リアラは羞恥心を忘れてしまったらしい。
体を隠すこともしないで、水のかけあいをしている。
「ふぅ、なかなかやるわねっ」
「もう、お姉ちゃん、すぐにいたずらをするんだから」
「それにしても……あんた、また育った?」
「ひぃんっ!?」
どこか妬ましそうな顔をしながら、シアがリアラの胸を触る。
驚いたリアラが体を震わせるものの、おかまいなしだ。心ゆくまで、ほどよく膨らんだ、柔らかい感触をその手に味わう。
「むーっ……やっぱり大きくなっているわ。あたしは全然成長してないっていうのに」
「ちょ、やめ、お姉ちゃん……やんっ、くすぐったいってば!」
「これは罰よ! 姉を敬う心を忘れたこのけしからん胸に、今、天罰を下しているの!」
「勝手に大きくなっただけで、私、関係ないのにぃっ」
「なによ、それは嫌味!? ぜんぜん大きくならないあたしに対する挑戦!?」
「あっ、はぅ」
「おっ、いい声。きゅん、ってなっちゃった?」
「な、ななな、なっていないし!」
「なら、このまま続けても構わないわね」
「構うよ! クリス君もいるのに……はぅんっ」
色気はやや足りないが、二人の美少女が絡み合う……たまらない光景だ。
眼福、眼福。
(いや、だから待て。人間に劣情を催してどうするつもりだ、俺は?)
やはり、魂が肉体に引っ張られているのかもしれない。
冷静になるべく、クリスは頭から水をかぶる。
「ニヤニヤ」
気がつくと、シアが意味深な笑みを浮かべて、わざとらしい台詞を口にしながらクリスを見ていた。
「さっきから、じーっとあたしたちのことを見ていたわよね?」
「えっ、そうなの?」
「女の子に興味ない、なんてすました顔をしておきながら、なによ、バッチリ興味あるんじゃない。クリスって、むっつりだったのね」
「いや、そんなことはないが……」
「ふふーん、でも、悪い気分はしないわ。あたしの魅力の虜なのね」
「私は恥ずかしいよぉ……」
「ほら、あんたも来なさい。一緒に遊びましょ。息抜きも必要よ」
「息抜きをするほど、まだ旅をしてないと思うが」
「シャラップ! おねーさんに口答えしないのっ。ちょうどいいから、体を洗ってあげる。リアラ、あんた、背中をお願い。私は頭をやるから」
「う、うん。えっと……じっとしていてね、クリス君」
「台詞だけ聞くと、獲物にトドメを刺すようだな」
たらりと、汗を流すクリス。
珍しく、二人に逆らえないでいた。
というのも、すぐ目の前に生まれままの二人の姿があって……
どうにもこうにも冷静でいることができない。
「おー。クリスの髪ってサラサラね。ホントに女の子みたい」
「肩も細くて、肌がすごいツヤツヤだよ。うらやましいなあ」
「人をオモチャにしてないか?」
「してないわよ。ほら、じっとしてなさい。おねーさんが綺麗にしてあげる」
「ごしごし、ごしごし。クリス君、かゆいところはない?」
(こういう状況を、確か、人はハーレムと呼ぶのだったな。男なら誰もがうらやましがるらしいが……これのどこがうれしいんだ? オモチャにされる屈辱しかないではないか)
……などと、世の男連中が聞いたら呪いをかけてきそうなことを考えながら、クリスは二人に体を洗われるのだった。




