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10話 はじめての冒険・4

 クリスの右手の紋章が輝いた。

 それに呼応するように、背中にニ対の光の翼が生える。


「く、クリス君……? まさか……」

「あんた……それ、いったい……やっぱり……」


 クリスの変貌に、シアとリアラは、今がどういう状況か忘れて呆然とした。

 そんな二人に構わずに、クリスは無機質な瞳で周囲を確認する。


 広間にあふれる魔物たちは、自分たちを逃がさないように円陣を組んでいる。

 数は、ざっと百匹ほどだろうか?


 奥のアビスゲートからは、今も、魔物があふれ続けている。


 億することなく。

 怯えることなく。

 絶望することなく。


 クリスは、魔物に手の平を向けて、魔法を詠唱する。


「炎の精霊よ。

 汝は我。我は汝。運命共同体也。

 故に、その力を行使する。

 燃えろ、燃えろ、燃えろ。

 赤の意思をここに示せ」


 クリスの詠唱を聞いて、シアがぎょっとした顔を作る。


 クリスが唱えているのは、中級魔法だ。

 初級魔法は詠唱が三節から構成されているが、中級は五節から構成されている。

 その分、魔力のコントールが難しく、覚えるのに3年はかかると言われている。


 クリスは勇者なので、魔法の素質はあるが、まだ初級魔法を覚えたばかりの初心者だ。

 それなのに、中級魔法を……?

 仮に中級魔法を覚えていたとしても、魔力が足りない。

 シアのように魂で代用している様子はない。いったい、どこから魔力を補充しているのか?


 シアが唖然とする中、クリスは力を放つ。


「イグニートジャベリン!」


 燃え盛る炎の槍が撃ち出された。

 魔物の群れを紙のように突き破り、周囲の取り巻きたちを余波で吹き飛ばす。


 そして、着弾。


 業火が嵐となって荒れ狂い、魔物たちをまとめて数十匹飲み込んだ。

 炎は生き物のようにうねり、肉体に絡みつく。そこから逃れる術はない。

 肉体が焼かれて、骨まで食らい尽くされて……


 一瞬で、数十匹の魔物が絶命した。


「す、すごい……クリス君、こんなことができるなんて……やっぱり、あれ?」

「ど、どうなっているのかわからないけど……可能性は……でも、こんなにすごいなんて、わからないわ……」


 何が起きているのか、まるで理解できない。

 でも、この様子なら、なんとかなるのではないか?


 シアとリアラは希望を抱くが……

 それを打ち消すように、アビスゲートからさらに魔物が現れた。

 消えた数十匹をさらに上回る数だ。


「……」


 シアとリアラは動揺するが、クリスは冷静にアビスゲートを観察していた。


 新たに出現した魔物は、およそ五十匹。周囲にいる魔物と合わせると、合計で百二十匹ほど。

 この状況を打開する方法は?


 逃げる? 否。

 時間を稼ぐ? 否。


(周囲の魔物もろとも、アビスゲートを破壊する)



 グルァッ!!!



 クリスを一番危険な存在と認識したのだろう。

 ハンターウルフが三頭、ゴブリンが五体、ジャイアントオーガが一体……それぞれ突撃する。


 ハンターウルフは鋭い牙を。ゴブリンは棍棒を。ジャイアントオーガは豪腕を。

 タイミングを合わせて一斉に襲いかかる。


 レベル5のクリスにとって、致命的な一撃だ。

 受け止めることなんてできない。逃げるタイミングも失った。

 前世が魔王であることを差し引いても、何もできない。どうすることもできない。

 暴力の嵐に飲み込まれることしかできない……はずなのに。


「邪魔だ」


 剣閃が走る。

 魔物たちの動きが止まり……思い出したように体がいくつもの破片に分断されて、血を流して倒れた。


 リアラが唖然とする。


 クリスの動きがまるで見えなかった。

 まだまだレベル5。自分より下のはずなのに……

 それなのに、一瞬で複数の魔物を仕留めるなんてありえない。


 まるで、一時的にレベルが何倍にも跳ね上がったみたいだ。



 グルルル……



 仲間が一瞬でやられたことで、魔物たちに動揺が生まれた。

 クリスを警戒するように、足を止めて様子を伺う。


 しかし、それは悪手以外のなにものでもなかった。


「終わりだ」


 再び、クリスの手に魔力が集中していく。

 その魔力の量を見て、シアが顔を引きつらせた。


 さきほどとは比べ物にならない。

 一流冒険者並の膨大な魔力だ。


「いくぞ」


 ……さあ、殲滅の時間だ。


「光の精霊よ。

 我の名はクリス・ラインハルト。

 今ここに契約を交わす。

 力をここに。意思をここに。魂をここに。

 夢の如き輝く刃。

 幻の如き虹の盾。

 汝、永遠の安息を与えよう。

 顕現せよ。

 白の意思をここに示せ」


 九節から構成される上級魔法。

 大量の魔力を消費して、さらに、繊細なコントロールを要求される。

 その難易度から、覚えるのに10年はかかると言われている。使える者は少なくて、上級魔法を使うことができれば、一流冒険者の仲間入りと言われている。


 その上級魔法を……

 そして、闇の者には使えないはずの『光属性の魔法』を……


 クリスは、尋常ではない魔力を込めて発動する!


「バニッシュゲイザー!!!」


 瞬間、光が溢れた。



 ゴォッッッ!!!!!



 光の奔流が魔物の群れを飲み込んだ。

 神聖な光が、魔物の不浄な体を浄化していく。

 魔物たちは抗おうとするが、抵抗は無意味だ。濁流に飲まれた小さな虫のごとく、なにもできない。定められた運命の如く、消滅の道を歩むだけだ。


 断末魔の悲鳴をあげて、次々と魔物が消えていく。


 光の洪水はそれだけで終わらずに、アビスゲートに襲いかかる。

 包囲するように、全方位から光が叩きつけられた。



 ピシッ!



 強大な圧力を受けて、アビスゲートが歪む。

 門の向こうにいる魔物たちも、光の波の余波を受けて消滅する。


「消えろ」


 ぐっと、クリスは拳を握りしめた。

 それに同調するように、これまでにない光の波がアビスゲートを飲み込んで……



 ビキィッ!!!



 アビスゲートが崩壊した。

 無数の破片になって散り……やがて、空気に溶けるように消えた。


 広間に静寂が戻る。


 残されたのは、クリスとシアとリアラの三人。

 それと、大量の魔物がいたという証の無数の魔石。


「……っ……」


 ぐらりと、クリスの体が傾いて……


「クリスっ!」

「クリス君!?」


 薄れ行く意識の中、クリスは、シアとリアラの悲鳴を聞いたような気がした。

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