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01話 プロローグ

 魔王。


 圧倒的な力を持ち。

 千を超える魔法を操り。

 そして、悠久の時を生きる。


 全ての魔物の頂点に君臨する、絶対的支配者だ。

 そして、人類の敵だ。


 世界を征服して、人間を支配することを企む。


 なぜか?


 人間は、あまりに愚かだ。

 同じ種族同士で争い、騙し、妬み、恨み……愚劣な劣等種といっても過言ではない。

 そんな人間たちは、『この世界の頂点に立っているのは自分たちだ』と、我が物顔をしている。


 そのようなことを許せるか?

 放置しておけるか?


 否だ。


 真に最強であり、頂点に立つ存在であり……

 世界を収めるのは自分たちこそがふさわしいと、証明しなければならない。


 故に、魔王は世界を征服しようとした。

 しかし、障害が立ちはだかることになる。


 それが、勇者だ。




――――――――――




 力と力が激突する。

 

 一方は、聖なる力。

 一方は、魔の力。


 意地と矜持と信念と……

 そして、命を賭けて激突する。


「この程度か、勇者よ! これが人間の力というのならば、その歴史はここで終わることになるぞっ」

「まだだっ。魔王、人間の本当の力、見せてやる!」


 血を流し、魂を削り、全身全霊を込めて戦う。。


 相手は、全ての魔物を支配する絶対的支配……魔王だ。

 人類の敵だ。生きとし生けるものの敵だ。

 魔王を倒さなければ人間に未来はない。


 大切な人々の姿を頭に思い描いて……

 勇者は剣を取る!


「悲しみも憎しみも、ここで断ち切ってみせるっ!!」

「ほう、先程よりも力が増したな! これが人間の力というヤツか!」


 魔王も剣を取り、勇者の攻撃を受け止めた。


 魔物と違い、人間は非力だ。簡単に死んでしまうし、寿命も短い。魔物に比べると、とても小さい存在だ。

 それなのに……どうして、これほどの力を持っているのか?

 どうして、自分と互角に戦うことができるのか?


 魔王は素直に賞賛する。

 人間の力は侮れない、素晴らしいものだ。

 故に、敬意を払い、全力で戦おう。


 それが、『王』である者がやるべきことだ。



 ギィンッ!



 何度目かの斬り合いの後、互いに剣が弾かれた。

 勇者と魔王は、一度距離を取り、自分の剣を取る。


「いいぞっ、いいぞっ。実におもしろい、人間にこれほどの力があろうとは……さあ、もっと楽しませてくれ」

「お前を楽しませるために戦っているわけじゃない。未来を掴み取るために戦っているんだ!」

「ふんっ……未来や他の人間など、どうでもいいではないか。今、この瞬間は、我々二人だけのものだ。そのことを楽しもうではないか」

「何度も言わせるな。俺は、戦いを楽しんでいるわけじゃない」

「ふむ。どうも人間というヤツは、頭が固いらしいな。己の欲するまま、素直に生きた方がもっと楽になるぞ?」

「お前と俺じゃあ欲するものがあまりに違う。俺は、争いのない平和な世界を望んでいるんだ」

「ふん、くだらん。他者のために戦うなど愚かなこと」

「それはお前が決めることじゃない。俺が決めることだ!」

「まあいい。戯言はここまでにしよう」


 魔王は剣を構えた。

 同時に、これまで以上の殺気が放たれる。

 質量すら感じられる圧倒的な殺気に、勇者は息を呑んだ。


 これが魔王の本気……


 思わず戦意を喪失してしまいそうになるが、ギリギリのところで耐えた。

 今まで自分を助けてくれた、たくさんの人たち……そして、苦難を共にした仲間たち……

 彼ら、彼女らの姿を思い出して、体に力がみなぎる。


「決着をつけるとしようか」

「ああ、これで終わりにしよう」


 互いに剣を構えて、力を練り上げる。

 二人の力に反応して、大気が震えた。


 光が勇者の剣を包み込む。

 闇が魔王の剣に寄り添う。


 そして……声もなく音もなく、二人が駆けた。



 血が舞う。



 勇者の剣が魔王の胸を貫いた。

 そして……魔王の剣も勇者の胸を貫いた。


「終わりだ……!」

「……そのようだな。我は、負けたらしい……」

「まあ、俺もこんな状態だから……相討ち、が正しい表現だろうな」

「なんとも締まらない結末だな……終わってみると、つまらない戦いだ」

「なら……最初から、戦わなければいいだろう!」

「人間に従えと? おとなしく滅ぼされろと?」

「話し合うことができたかもしれないだろう」

「バカを言うな……人間と魔物がわかり合うなんて、ありえないな……そう、そんなことは……絶対に……」


 それ以上、言葉は続かない。

 魔王は事切れていた。


「わからず屋め……最後まで、頑固な……ヤツ……」


 勇者の命も消える。


 そして……


 二人の剣に込められた力が放出、炸裂した。

 光と闇が周囲を飲み込み、暴走して……


 全てを無に帰した。




――――――――――




 水底に沈んでいたものがゆっくりと浮上するように、意識が覚醒した。


「?」


 ベッド……らしいところに寝ていた。


 ふかふかの布団。

 温かいひだまりの匂いがする枕。

 それと、周囲を囲む転落防止用の柵。


 訝しげに思いながら、体を起こそうとした。

 しかし、動けない。

 手足の感覚はある。しかし、鉛でも付いているみたいに重く、自由に動かすことができない。


(まさか、あの戦闘の後遺症か?)


 そこまで考えて、一番大事なことを思い出した。


(そうだ、戦いはどうなった? 確か、相討ちに……)


 自由に動かせない頭を必死に動かして、自分の胸を見る。

 あるはずの傷がない。

 それだけではない。よく見てみると、体が縮んでいた。

 手も足も体もミニチュアサイズ。まるで赤ちゃんだ。


(なんだ? いったい、何が起きている……?)


 混乱していると、女の人が現れた。


 大きい。

 まるで巨人のようだ。


「あら、起きちゃったの? ごきげんいかがかしら?」


 女の人に抱き上げられた。


「あー、うー」


 喋ろうとしたけれど、まともな言葉が出てこない。

 もどかしい思いを表現するように、じたばたと体を動かした。


「こーら、暴れないの。危ないわよ?」

「うー、うううー」

「ヤンチャな子。でも、元気に育ちそうで、お母さん、うれしいわ」


 育つ?

 お母さん?


 また意味不明なことを言われた。

 いったい、どうなっているんだ?


 現状を把握しようと、キョロキョロと周囲を見た。

 すると、鏡を発見した。


 鏡をじっと見つめると、そこに小さな赤ちゃんが映っていた。

 こちらがそうするように、鏡に映る赤ちゃんがじっと見つめ返してくる。


 ……もしかして。


 ふと思い、精一杯の力で手を動かした。

 すると、鏡に映る赤ちゃんも手を動かした。


 間違いない。

 どうやら、魔王であるこの俺が、脆弱な人間に生まれ変わったらしい。


 そんなバカな!

基本的に、毎日更新していきます。

気に入っていただけましたら、ブクマや評価などをどうぞよろしくお願いします!

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