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五十二章 ガネット・ファミリー(3)

「このたびは、国軍にご協力頂けるとのことで足を運びました」

「わざわざご足労、感謝する」

「いえいえ、あなたがあの元黒騎士部隊副隊長ですか。お会いできて光栄です。何、私が足を運ぶのも、当然のことですよ」


 つらつらと語りながら、ガネットがジーンとテーブルごしに握手を交わす。


「さて、きちんとしたご挨拶を。――私が大マフィア、ガネットファミリーのボスの『ガネット』と申します。国を守護する方々、今後どうぞよろしく」


 これが、国内最大のマフィア、ガネットファミリーのボス、か。


 マリアは、その顔を見たのは初めてだった。アーバンド侯爵とも親しい〝仕事仲間〟であるというが、やはり覚えはない。


 以前ジーンが言っていた通り、一度見たら忘れられなさそうな顔だった。


「さて。今回、皆様にご協力頂きたいのは、手っ取り早く申し上げますとその戦力です」


 長い足を組んだガネットが、悠々と手を広げて唇を引き上げる。笑顔なのに、張り付いた狐のお面みたいに見えた。


「はぁ。また、出だしからも物騒だなぁ」


 グイードが、思わず言葉をもらした。


「つまるところ、暴れろってことか?」

「はい。遠回しになんて言いませんよ、(ボス)はね。あなた方を易々とド真ん中に迎え入れたという失態、そこのボスの顔にその泥を塗ったうえで、潰して頂きたい」


 ガネットの要求は、実にストレートだった。


 マリア達が顔を見合わせる中、ジーンが口を開く。


「とはいっても、俺らは法の下でするわけだけどな」

「存じ上げております。殺戮させよとは持締めていません、それくらいなら、我々が自分達でやっていますよ。こちらの世界では、名誉は命と同等に重いのです」


 ニヤリとガネットは語る。


「そして我々の世界では、強さこそがすべてです。まぁ、そこには財も必要ですが、人望や善意や好評などなくてもいいのです。強ささえあれば、年齢も見目の衆悪も関係なくよりどりみどりの美女と楽しめる」


 しれっと言ってのけたガネットは、その言葉がよく似合った。手にいくつもはめられた金の指輪が、そうさせるのかもしれない。


 しかし、彼が不意にわざとらしい表情で口に手をあてた。


「おっと。淑女のいる前では、アレでしたか」


 目を向けられて、マリアはきょとんとする。


 その時、横から不機嫌な声が上がった。


「騎士の前に出していい話題でもない」


 それはポルペオだった。


 睨みつけている彼を、マリアはレイモンドとグイードと一緒に見やった。そういえば、同席させて大丈夫なのかと、今になってチラリと思う。


 ガネットが、愉快そうに目を細めた。


「ああ、あなたは〝我々がお嫌い〟なのですね。ふふふ、見るだけで分かりますよ、〝とても綺麗なお方〟だ。だから許せないのでしょう」

「…………」

「でもね、人間、そう綺麗なままではいられないんですよ。何もかも満たされ、育ってきたあなたには分からないでしょうがね」


 ポルペオは、ガネットを睨み付けるだけで無言で応えた。


 一昔前だったら、胸倉を掴んでいたことだろう。マリア達がホッとしていると、ジーンが間に声を割って入れた。


「あまり刺激しないで欲しい。こいつは、まぁ、生粋の騎士家系でもある。その手の話題は、だめなんだ」

「そうでしたか。これは失礼」


 分かって言ったであろうガネットが、満足した様子でポルペオから目を離した。


 マリア達は、腕を組んだポルペオから憤りを感じて、それぞれ目をそらしていた。こめかみの青筋からも、抑えてくれているのがひしひしと伝わってくる。


 この手のタイプの人間に、ポルペオはからかわれるのがよくあった。


 見た目からしても、育ちなどか分かってしまうからだろう。

 オブライトと彼が並んだ時に『真逆だ』と言われたのも、相手が貴族が庶民かによって向けられる感情の矛先が変わった。


「実は、近々船上パーティーがあるのです」

「船上? わざわざ海へ?」


 切り出したガネットに、ジーンが眉を顰める。


「いえ、河川ですよ。ああ、ご予定についてはまだ聞いていませんでしたか。近場ですので、移動を含めて丸一日スケジュールを空けていただければ結構です」

「近場というかと、もしかして都市ハークザレスか?」

「ご名答。貴族達が派手に金を使って、有意義に過ごす都市としても知られています。アシル地方まで伸びる大河川が横断していることでも、有名です」


 ああ、とガネットがマリアの方を見てにっこりとする。


「ご安心を。我々の目的は、あくまで船です。立ち寄る場所も、私が所有している建物だけですので危険はありません。目的以外、遊楽の場所には足を運びませんから」


 どうやら、アーバンド侯爵にも許可を取ってあるようだ。


 マリアは納得しつつ「そうですか」と頷く。


「んで? その船上パーティーってのは?」


 グイードが、ジーンのソファの背もたれに腕をのせて、尋ねる。


「河川に豪華客船を浮かべて、午前四時まで優雅で豪楽なパーティーが続きます――が、船である理由は、陸の何者にも邪魔されない〝我々の派手なパーティー〟のためです」


 ガネットが、にぃっと目を細める。


 レイモンドは、想像したのか眉を下げた。


「そこで何が行われているだとか、……掘り下げてまで深くは知りたくないなぁ」

「ははは、知らない方がよろしいでしょうね。元々乗船できる身分も限られ、地下の数階はとくに騎士様達には〝ひどいありさま〟でしょうから、ご案内はしません」


 美女と酒と、そして――。


 その手のものにも過去の臨時班で経験はあったので、マリア達は「なるほどなぁ」と呟くしかない。ポルペオは、ますます顰め面をする。


「この船上パーティーは、その都市を根城にしているエレゴルドファミリーが主催し、春と秋、年に二回ほど行われる我々の大きな会合の一つみたいなものですが、基本的には『派手なイベントを楽しむためのもの』でもある。中には、あなた方には理解できない『遊戯』だって存在します――とはいえ」


 ガネットが一呼吸を挟み、組んだ足に指を絡めた手を優雅に置く。


「今、我々は情報提供者であり協力者としてある。摘発の一切は免除です。ご理解を」


 何があったとしても、他には干渉しないこと。


 なるほど。理解した一同の中で、ジーンが「了解」と答えて、髪を両手で撫でつけ頭の中を今一度整理するような間を置く。


「で、そのパーティーがなんなんだ?」

「今回、そこで大きな内乱が勃発します。そして、その暗殺対象は私です」


 ガネットが、自分を指差してにこっと笑う。


「は」


 マリア達は、揃ってぽかんとした。

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