表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
353/399

五十章 公爵様とのデート(2)

「マリアったら、そうしょんぼりしないの! 帰ってきたら、またリリーナ様と同じリボンをしてあげるから」


 カレンが、あはははと笑って豪快に肩を叩いてきた。バンッと結構な衝撃がして、マリアは「いてっ」と呻いた。


 マーガレットが、少し心配そうに頬に手をあてた。大きな胸が、柔らかに揺れて盛り上がる。


「マリア『いて』なんて、だめよ。殿方に嫌がられるわよ」

「別に、いいわよ」


 マリアは、むすぅっとした顔で答えた。


「いきなりのデートだし、私は望んでなかったというか唐突なもので……無理して好感を上げたいとか思ってないもの」


 するとメイド仲間達が、鏡の中で笑うのが見えた。


「可愛いわよ、マリア。だから安心して」

「衣装を気にしているわけではないんだけど……」

「少しだけ、気を付けるだけでいいの。ほら、いい家のお嬢さんよ」


 年上のメイド仲間が、後ろからマリアの手を取って、肩を抱き鏡を見るよう促した。みんなが年上の姉のように微笑んでいる。


「もし公爵様がだめでも、いつかお見合いをしていい人と結婚するんでしょう?」

「その練習だと思えばいいのよ。他にも、いい男はたくさんいるわ」

「旦那様が、よきようにはからってくれるから」


 そんな前向きな彼女達の声を聞きながら、鏡の中の自分を見ていた。そこに映ったマリアは、メイドになんて全く見えない普通の女の子だった。


 確かに、いつかは誰かと結婚をと考えていた。


 二人で笑って支え合えて、家庭を築けていけるような男性。そして、自分の可愛い子供に会いたい。


 黙っていれば、口調を良くすれば……。

 婚活についてよく言われる言葉だった。けれど、それをしなかったら失望されるのだろうかと想像したら、なんだか気分は沈んだ。


「私は……これが、私なのにな」


 部屋から連れ出されながら、ぽつりともらした。


 全部を我慢しなくちゃいけないのだろうかと思うと、希望していた一般男性の中で、そんな人がいるのかわからなくなってきた。


『まだまだ若いですから、ゆっくり考えていけばいいんです。そして結婚をしたくなったら、その時に動けばいいのです。私達は協力しますから』


 マリアは、ロイドと待っていた執事長フォレスを目にし、彼に幼い頃言われた言葉を思い返した。


 結婚したいと思えた時が、結婚時。


 まだその感覚が分からないマリアには、難しいことだった。


 テレーサと家族になりたい、彼女を妻に……と思っていたオブライトだった頃とは、状況が違うせいだろう。


 ロイドが、ソファ席から立ち上がった。マリアのもとへ歩み寄り、慣れた仕草で距離を縮める。


「その服、似合ってる。すごく可愛いな」


 それは開口一番にしては、想定外の言葉だった。


 マリアは、つい口をぱくぱくしてしまった。するとロイドが、エスコートするように手を取って歩みを促してくる。


「あ、あの、ロイド様」

「馬車を持って来てある。近くまでそれで移動しよう。ついたら徒歩に切り替えて――今日のデートが、すごく楽しみだ」


 楽しみ、だなんて言われて、マリアはますます困惑する。


 ロイドの口から、そんな台詞が出るのが信じられなかった。素直じゃない男のイメージが強かったから……。


「今日を、楽しみにしていたんですか?」


 馬車に乗り込んだところで、マリアは向かいに座った彼にそう聞いてしまった。


 ロイドが、優雅に足を組みつつ、にっこりと笑ってきた。


「もちろん。昨日の多忙も、それで乗り越えられた」


 ストレートに答えられて、ドキッとする。


 この計画を立てたのが、一昨日だという。勝手に立てたものでしょうと言い返そうとしたマリアは、馬車が動き出して口をつぐんだ。


             ※※※


 馬車で向かった先にあったのは、領地からも近いアルトハレンだった。


 アーバンド侯爵領と同じく、王都に接している。こちらは王都から続く大都会で活気があって、たくさんの定期便の馬車も出ていた。


 その中で、多くの施設や店が集まるグリーンラインと言われる場所で、マリア達は下車した。


「ここからの一帯は、遊歩道だ。緊急を除いて、馬車の出入りは禁止されている」


 歩きなから、ロイドが指差して教えてくる。


 そんなことは知っている。オブライトだった頃も、王都に滞在していた際にジーン達ともよく来た。

 そしてマリアは、リリーナ達とも歩いたことがある。


 ――きっと、王都には行くことなんてないんだろうな、と、ここから見える大きな城と街並みの影を眺めながら。


「デートで歩くにも、もってこいだろう」


 マリアは、続いて聞こえた単語に咽そうになった。


 普通、ストレートに『デート』なんて言うか?


 おそるおそるロイドの方を見上げた。いや、確かに口にするくらい普通だけれど、あのロイドがそれを述べるのが違和感なのだ。


「えっと、たぶん良くて、兄と妹みたいに思われているところもあると思いますが……ロイド様は、平気なんですか?」


 ひとまず、大人と子供とは述べずそう言った。


 すれ違う誰もが、美貌に目を引かれてロイドを見ていくのには気付いていた。同時に、共に歩くマリアに嫉妬したり、羨ましがったりしていないことも。


 マリアは、十六歳にしても小さすぎる。並ぶと身長差もかなりあるので、幼い感じがより目立つ気がした。


 見ていく者達の目からすると、デートとは思われていないだろう。


 改めて客観的に考えた彼女は、つい気にしてロイドとの間を空けようとした。だが直後、ロイドに肩を抱かれて引き留められてしまった。


「相手がどう見ようと勝手だろう。だから、隣から離れなくていい」


 察知されていたことに、マリアは頬を少し染めた。大きな手の温もりが、じわじわしみ込んでくるみたいに、熱い。


「あ、あんまり引っ付くのも、どうかと思うんですよ」


 落ち着かなくて離れようとするものの、ロイドは手をどけてくれない。


「なぜ? 求婚している相手なのに」

「きゅっ……!」


 今度こそ、マリアは言葉が詰まった。


 こんなロイドなんて知らない。どうしてドキドキするのか?


 屋敷に訪問してきてからずっと、ロイドはバカみたいに全部申告してきている気がした。オブライトとして知る限りのロイドは、そんなことをしないと思う。


 いやお前、私が前世でオブライトだと知ったら、あとコレ、めちゃくちゃ後悔するぞ!?


 もう色々と考えが、ぐるぐる回ってしまった。マリアが言葉に窮していると、ロイドが覗き込んでくる。


「俺が、他人からどう見られるのか、気にするとでも?」

「え? いや、なんというか、その、そういうのを案外気にするタイプかなぁ、て……?」


 ただのイメージなのだけれど、とマリアは心の中で言葉を付け足した。


 実のところ、この恋とやらも友人らにバレないよう、かなり頭を抱えていたんじゃないか、という勝手なイメージが脳裏を過ぎっていった。


 ロイドに限って、それそこあり得ないことだろうけれど。


「べ――別に気にしない」


 なんだか一瞬、ロイドが言葉を詰まらせた気がしたが、マリアは急に落ち着かなくなってきた。


 彼が、ずっとマリアのことを見つめ続けているせいだ。


「あんまり、見てこないでください」


 マリアは、露骨にじっと見てくる視線にとうとう集中できなくなった。考え事をいったん脇におくと、顔の横を手で隠した。


 すると、ロイドがもっと見てくる。


「その仕草も可愛いな」

「かわっ……え、嘘でしょ?」


 思わず見つめ返したら、生真面目なロイドの目と合った。


「嘘じゃない、可愛いから見ている」

「え」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あ...甘ぁぁ...今作一の、ドキドキ☆オトメ♡な少女漫画展開!......まあ、引きが激ツヨの巻き込まれ体質のお嬢さんがいるから、何かあるかもなぁ....。
[一言] ロイド 乙女になっちゃう マリア 女の子になっちゃう
[良い点] あのロイドなのに何だこの甘い展開は!?いいぞもっとやってくれ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ