表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
325/399

四十五章 まさかの求婚ですか!?(6)

 考えてみれば、確かに戦闘メイドで剣は珍しいかもしれない……。


 ポルペオの自信のある目に、マリアもだんだんそのように思えてきた。


「あの、拾われる前に少々剣を触っていただけでして。期間は、剣の方が長くって、ですね。だから、使いやすいと言いますかっ」


 なぜだか、マリアは焦って言い訳してしまった。


「ふうん。そうか」

「そ、そうなんですよ、あはは、は……」

「私の娘は知っているだろう。ポルー伯爵家の、長女だ」


 すぐにポルペオは続けて話をしてくる。今度はすぐに答えて不審がられないようにしなければと、咄嗟にマリアは身構えた。


「あーっと、長女様と言うと、『ポルペオ様の才を受け継いだ』と言われていますよね。そりゃ、ドレスでもばんばん剣を振り回していることもあって、一部では有名でもありますし、もちろん知っていますとも」

「じゃじゃ馬と呼ばれているな。婚約の話をはねのけ、見合いは完全にお断りだと、自ら宣言もしたしたたかな娘だった」

「うっ、まぁ、失礼を承知で申し上げるのなら、じゃじゃ馬で有名な方……ではありますね……」


 そもそも貴族関係の教育には、あまり力を入れられていない。マリアはポルペオの言い分から、今もそうなんだなぁと考えて話を合わせる。


 前を向いたポルペオが、ふっと笑った。


「そうだ、じゃじゃ馬でしたたかに気が強い娘。もう見合い話も来ないだろう、と」

「え。ファンレターはいっぱいもらっていたのに――来ないんですか、全然?」


 途端、マリアは心配になった。


 昔『男になる』とか言ってたけど、本気で出家なんてしたんじゃないだろうな。


 そんなことを真剣になって考えていると、ポルペオが見つめ返してきた。なぜだか意地悪く笑う。


「全然、だと言ったら?」

「まさか出家!? ほ、ほんとに出ていっちゃったんですか!?」

「さぁて、どうだろうな」


 ポルペオが、さてと、と口にして立ち上がる。


「えっ、ここで教えないってありなんですか!?」

「残りのクッキー、食べてもいいぞ」

「いやいやいや、待ってくださいっ。気に入っていたリーフ国の女騎士団に入ったりしてませんよね!?」

「くくっ。もしくは、アーリー国の聖女守護戦士団かもしれん」

「マジかよっ。遠いからやめてって言ったのに……」


 ポルペオが、珍しく肩を揺らして小さく笑いながら歩き出した。


「それ完全に出家ですよね!?」


 マリアは慌てて尋ねたが、ポルペオは笑いをもらすばかりだ。その姿は、どんどん離れて行く。


「じゃあな」


 彼が、後ろ手を振った。


 マジかよ、ここで切り上げる奴、いる?


 ――いきなり来たかと思えば、彼はただマリアの悩み事を増やしただけだった。


             ※※※


 待ち合わせの時間ぴったに、マリアは大臣の部屋に向かった。


 廊下は、前もって気を利かせて人払いがされていた。扉をノックすると返事があり、すかさず開ける。


「ジーン! 少し聞いて欲しい、こと、が……」


 途端に、声がしぼんだ。

 マリアは、室内の様子に空色の目をぱちぱちとした。なぜか、モルツがコーヒーの準備をしている。


「……なんでお前がいるの?」

「構ってもらえていなかったのに、参加しないわけにはいきません」

「意味が分からんわ」


 マリアは、後ろ手に扉を閉めた。


 向かっていると、ジーンが片手を交えて答えてくる。


「なんか用事があったらしくてさ。うきうきと戻りの道を歩いていたら、バッタリ用事を終えたモルツと会って。この休憩を悟られて、そして三人になった」

「分かるような、分からないような……」


 マリアは首を捻りつつも、一番近かった一人掛け用にソファに座る。


「そもそも、モルツがジーンとばったり会うのも珍しい気がする」

「少し、ヴァンレットのところに顔を出していたんですよ」

「ヴァンレット?」


 近衛騎士隊に、何かしら伝言か確認の用でもあったということだろうか。


 ひとまずマリアは納得することにした。テーブルにはつまみの菓子、そして三人分のコーヒーカップも並んだ。


「で? なんかあったのか?」


 モルツが座ったところで、ジーンに尋ねられた。


 思い出したマリアは、コーヒーを飲みながら、少し前にあったポルペオとのことを話し聞かせた。


「――と、いうわけなんだよ。ひどくないか?」

「ふうん」


 モルツが、口をつけないでいたコーヒーカップを、ようやく持ち上げる。


「お前、やられましたね」

「は?」


 すると、もう呆れた顔で聞きに徹していたジーンも、追ってやれやれと言ってくる。


「ポルペオに一本取られたな。たぶん『オブライトだ』と、ほぼほぼ気付かれているのかもしれねぇな」

「え。いや、まさか……」

「あいつ、わざと話を引き出したんだよ。お前に言った娘の話も、十六年前までの内容だ。あのじゃじゃ馬も、恋で変わって、隣国の公爵家に嫁いだのさ」


 マリアは、唖然として言葉が出てこなかった。


 そうすると、つまりポルペオは、わざと当時までの時間軸で話を進めた。それは、マリアの認識が十六年前で止まっていることを、確認するためで……?


「……えぇぇ、嘘だろ」


 一本取られた。まさに、そういうことなのだろう。


 言葉で、してやられた。まさかと動揺しているマリアに、モルツが「想定の範囲内ではありますね」と溜息を一つ吐いた。


「あなたは、ほんと鈍いというか。戦場以外だと抜けているところがありますから」


 いつも社交の場でフォローもしていたモルツが、あっさりそう言ってコーヒーを飲んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ポルペオのおやっさん、よっぽど嬉しかったんだねぇ...もう、他の仲間にもバラせばいいのに...。
[気になる点] 選考に残るような連中は 食費が賄えられる家でないと…… 巨大害獣丸々出せるような
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ