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三十九章 懐かしい邂逅と、やばい邂逅(7)

「そりゃ、ジーンさんから聞いてるよ。ひとまずレイモンドさんを行かす、みたいなところで別れたけど」


 と、不意に彼が、パチーンッと派手に指を鳴らした。


「さては、お嬢ちゃんがレイモンドさんの付き添いで行ったんだね!? んもーっ、なんで予定もない俺を呼んでくれないの!?」


 そう言ってきたかと思ったら、ニールは「連れていってくれてもよかったのに」やら「暇だったのに」やら「お菓子買って食べたんでしょ羨ましい」やら主張してきた。


 その勢いに、マリアは呆れてものも言えなかった。


 しかし彼のマシンガントークは、ポルペオの拳骨で止まることになった。


「煩い、馬鹿者め」


 直後、ガツンと頭に一発落とされたニールが、頭を押さえて小さく震える。


「ヅラ師団長、俺に容赦ない……」

「本気だったら、ニールさんは沈んでますわよ」

「まぁね! つか、その前に俺の頭が凹むけどね!」


 カラッと元気に推測を放ったニールが、「そんなことより」と言ってきた。復活が早いな、とマリアとポルペオは彼を見ていた。


「お嬢ちゃん久しぶり! 飴玉食べる? それからねぇ、俺新作の町のお菓子をゲットして来たんだよ!」

「いや、パーティーの前の日にも会ってる――」

「さっき公共食堂の前通ったらね、甘い匂いがしていたから、きっとドデカプリンに挑戦していると思うんだ! ちょっと覗きに行って来ない?」


 がんがん喋られてマリアは困った。ひとまず、そのマシンガントークをやめた方がいい、と助言しようとはした。


 ――だが、やっぱり間に合わなかった。


「馬鹿者、煩いぞ」

「いったあああああ!」


 先程より、強めの拳骨をポルペオが落とした。


 マリアは、やりとりをする彼らを前に、困った笑いを浮かべているしかなかった。



 その頃、まさかピーチ・ピンク達が先代の〝拷問侯爵〟と遭遇していたなど、彼女は全く想像にもしていなかった。


             ※※※


 ――その少し前のこと。


 ピーチ・ピンク達は、自己紹介をしたのち、どうしようかと仲間達で相談していた。これから合流する残りのメンバーのことも話していた。


 殺し足りないし、殺していいのかな。


 その様子を見ていたベルデクトが、笑みのまま瞳孔を開かせて、バキリと爪を伸ばした。けれど、彼は不意に、若者達が揃って身に着けているバッジに気付いた。


「ほぉ、君らは、陛下のところの者なのか」

「へ?」


 ジャック達が、そこでベルデクトを振り返った。

 目が合った彼は、柔らかく微笑んだ。


「いいや、なんでもないよ」


 爪を元に戻した手で革袋を持つと、もう一方の手で黒い帽子を押さえて、ベルデクトは岩から降りた。


 足音は、ほんの少しだった。

 ふわりと降り立ったような印象だ。それを、ゆったりとした動作であると認識したジャック達が、途端に心配して寄った。


「爺さん、腰とか膝が痛いんならさ、俺らが馬車のところまで運んでやるよ」

「うん?」

「すごく細いじゃん! ちゃんと食べてるか?」

「ちょうど給料入ったからさ、俺らが何か奢ってやるよ」


 ベルデクトは、身体をぽんぽんと叩かれ、次から次へと提案されてきょとんとする。


「君達が、私にご飯を?」

「そうだぜ!」

「いや、それは申し訳ないよ。それに私は、お金に困っては――」

「いいってことよ! お年寄りは小さな子供と同じくらい親切にしろって、母ちゃんに教えられたんだぜ」


 よいしょ、とリーダーのジャックがベルデクトをおんぶした。


「そうだぜ! 遠慮するなよ爺さん。荷物なら俺が持ってやるからさ」


 そう口にした一人が、両手を差し出す。


 奪うではなく、意思を尊重して判断を委ねてはくれているのだ。昔から老人と接して慣れているのだろう。


「――ふふっ、それでは、よろしく頼もうか」


 ベルデクトが、革袋をそっと彼に手渡した。


「うわっ、この鞄意外と重いぞ! まるで鉛でも入ってるみたいだぜ」

「道理で俺の背中、一気に軽くなったわけか」

「爺さん、これ何が入ってんだ?」

「ちょっとしたお土産をね」

「そうか。なら、大事に持たないとな!」


 頑張れよーと仲間達に励まされ、彼は「よいしょっ」と革袋を両手で抱え直した。ガチャリと金属音が鳴る。


 その時、向こうから残りのメンバーが走ってきた。


 大きく手を振ってくるのは、モヒカン頭のガイザーだ。彼のモヒカンを両前足で抱くようにして、トラジローがいた。


「おやおや、これはまた」


 ベルデクトが、ちょっと目を見開く。


 これで全員揃った。その合流を、ジャック達は手を叩いて喜び合った。だがトラジローは、もう目もまん丸くして、声も出ないくらい怯えての〝威嚇状態〟だった。


「爺さん、珍しいだろ。猫なんだぜ!」

「俺らのチームの新入りでさ、トラジローって言うんだ」

「でも、なかなか他の奴には懐かないみたいなんだよな」

「そうそう。この前、背中にでっかい剣を担いだ兄ちゃんも、ダメだったなぁ」


 と、トラジローをなだめていたガイザーが、「あ」と掌に拳を落とした。ジャック達もつられて思い出し、同じく声を上げてベルデクトを見る。


「そういや、あんたみたいに、全身真っ黒な服だったなぁ。男なのに真っ白で、珍しい灰色の髪をしてたよ」


 ふうん、とベルデクトが面白げに顎を撫でさすった。


「あれは、彼の〝正装〟みたいなものだからねぇ」

「あれ? もしかして知り合い?」

「息子のね」

「息子さんか!」


 ジャック達は、にわかに騒ぎ立った。


「爺さんの息子さんっていうと、俺らの母ちゃんより年上かな?」

「だろうなー」

「ったく、爺さんほっといて何してんだよー」


 ジャック達は、ついでに馬車も用意してやろうと思って、国境沿いから離れるように中継地点の町へ向けて駆け出した。


 彼らは、誰かを背負っていたとしても行ける自信があった。


 昔から健康なのが取り柄だ。タフさと、体力だけなら人一倍だと思っている。


「よっしゃ! 行くぞヤロー共!」

「爺さんに美味いメシを食べさせるぞ―!」

「にゃふ!」


 ジャック達につられて、トラジローが〝猫〟みたいな一声を上げた。


 これじゃあ、虎の子にしても随分幼い。ベルデクトは愉快なものを見られたと、「あははは」と満足した様子で笑ったのだった。

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