表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
266/399

三十五章 まさかの私も参加ですか!?(2)

 リリーナが起床し、いつも通りの朝が始まった。屋敷でのメイド仕事、彼女の世話や準備が進められて、サリーと共に王宮から迎えに来た馬車に乗った。


 道中もずっと、頭にあったのは婚約披露パーティーのことだ。


 メイドとして参加することしか予想していなかった。まさか王宮側の助っ人として、その護衛の頭数に加えられるとは想定外だ。


 でも、それでパーティー参加者として参加するとか、必要か……?


 正直言うと、パーティー参加は嫌だった。


 主役は第四王子クリストファー、というと、護衛にはレイモンドたち辺りが選ばれているんだろうな……。

 参加者としても不自然ではないし、いつもそうだった。


 そんなことを思っている間にも、マリアは薬学研究棟に辿り着いた。


「どうかされましたか?」


 ノックをして、応答があって入った途端、作業台の方にいたルクシアにそう声を掛けられた。


 大きな眼鏡の向こうで彼の、アヴェインと同じ金緑の目がきょとんとしている。向かいの作業椅子に座ったアーシュも不思議そうだった。


 マリアは、ふぅと鼻から息を吐きながら扉を閉めた。


「いや、その、新しい任務が……」


 もごもごと答えた。


 そのまま向かってくるマリアに、アーシュが文官服の上から羽織った白衣を揺らして、ん?と顔ごと向けてから尋ねる。


「また臨時班か?」

「うーん。お嬢様のメイドとしての護衛業、かな」

「メイドが護衛って、おかしくないか?」


 その時、マリアは作業台のメンバーに改めて目を留めたところで、ハタと気付いた。


 そこには、薬学研究棟の医療課を任されているライラック博士もいた。自分から協力を名乗り出て、今はルクシアの研究を手伝ってくれている人だ。


「あ、すみません」


 マリアは、やや遅れてぺこりとメイドらしく頭を下げた。


「いえいえ。仲がよろしいようで」


 ライラック博士が、柔和な印象がある目元に笑みを浮かべて言った。年齢的なところもあるのか、マリア達を見つめる眼差しは微笑ましげだ。


「本日、例の毒の現物が届きました」


 マリアが揃ったところで、ルクシアがそう打ち明けた。


 ああ、だから朝一番にライラック博士が既にいたのかと納得する。恐らくは運ばれて来た際に、一緒に段取りなどの説明を聞いたのだろう。


 ということは、あの大司教邸の地下から、現物を確保できたのか。


 ステラの町を出る時も、そちらの詳細については聞かされていなかった。実際に先頭になって踏み込んだのはジーンだから、気を遣ったのだろうことは容易に推測された。


「これから、そちらを最優先で調べます。彼にも手伝ってもらう予定です」


 ルクシアが手で示すと、ライラック博士が控えめな性格が窺える笑顔を返した。


 つい、毒についてぼうっと思い返してしまっていた。しかしふと、その笑みにやや疲労感が滲んでいるのを察して、マリアは我に返る。


「少し、お疲れですか?」


 先日、大司教邸のことがあってから、ルクシアと一緒になって宰相らとの話し合いに参加し、打ち合わせなど行っているとは聞いていた。


 するとライラック博士が、「いえいえ」とやんわりと否定する。


「そんなことはありませんよ。アーシュさんより、早めに退出しているくらいですから」


 彼の王宮勤務は、普段から早めの終了で設定されていた。医療科などの管理者として出勤が早いこともかかわっている。そして、時間外までは働いてはいない。


 ――もしかして、課題を家まで持ち帰って考えたりしているのでは?


 ライラック博士の性格からすると、その可能性も浮かんだ。彼は十五歳のルクシアの力になろうと、日頃から本当に献身的だった。


 そして、それ以上に、彼自身が毒のことにも大変心を痛めていた。


「あまり危ないことはしないように。できる分の協力でいいのです」


 ルクシアが、やや目元に心配さを滲ませて言った。

 何か自分たちが見えないところで、無理をしているのではないか。そんなことを思っているマリアたちに、ライラック博士が優しげに微笑んだ。


「私も、そのように考えております。私は大丈夫ですよ」


 気のせいか、それは心配されるのを隠すような笑顔にも見えた。


『私は大丈夫』


 その言葉に、マリアは小さな違和感を覚えた。なんというか見掛けでは予想が付かないような、覚悟が隠されている気がした。


 昔、自分もそんなことを言っていなかっただろうか?


 胸騒ぎのようなモノを感じた時、マリアはライラック博士の袖を掴んで声をかけていた。


「何か心配ごとがあったら、すぐに相談してくださいね」

「はい、もちろんです。ありがとうございます、マリアさん」


 本当に……?


 そういえば以前、彼は視線を覚えるというようなことを言っていなかっただろうか――と考えかけた時、アーシュの声が聞こえた。


「んで? その新しい任務で、お前のスケジュールが変わったりするのか?」

「それをこれから話すの。恐らくは、時間が大きく取られてしまうことはないと思うけど……」


 屋敷では暇がないことを考えると、ダンスの件はこっちでやりそうな気もしている。


「ルクシア様達を続き部屋へお見送りしたら、私、少し行ってきますね」


 マリアが溜息交じりに報告すると、ルクシアが言う。


「それでは、先に私達の方のスケジュールをお伝えしておきましょう。危険な毒物を扱いますから、できるだけ指定された時間以外の扉の開閉は避けるように」


 そうして朝の休憩時間、しばし珈琲と菓子をつまみながら話し合われた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ