表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
238/399

三十二章 公正な警備隊長&異端な神父(1)

 翌朝、町の一日の始まりを告げる鐘が鳴り響いて、しばらく経った頃。


 全員揃った状態で、マリア達は町の東寄りの場所へと来ていた。こそこそと建物の影でまとまっている様子は、後ろからバッチリ見えていて、町人たちが少し不思議そうに見ていく。


「あいつのメモによると、この時間、警備隊長のオルコット・バーキンスは巡回に出ているんだと」


 筆頭で建物の影から顔を出しているジーンが、向こうの道を見ながらそう言った。


 マリア達は、昨日ジョナサンが紙で手渡してきた情報で、警備隊の巡回ルートと各時間を知った。彼はこの時間、三人の部下を連れて最終ポイントとしてここを通るらしい。


 一体どんな人物なのか、一旦全員で確認するため待っているところである。


 彼は隊長という立場でありながら、積極的に雑務業務もこなして外にも出ている。接触のタイミングについては、いくらかチャンスがありそうなので状況に応じて考える予定だ。


「自ら巡回まで徹底してスケジュールに入れてるとか……うーん。真面目というか、なんというか」


 グイードが、スケジュールギッシリにするとか絶対楽しくないし、息抜きを全く考えないタイプの人間なのだろうか……と、共感し難い顔で呟く。


 するとレイモンドが、ふっと半眼になって含むような口調でこう意見した。


「ほんと、お前とは正反対の男だよなぁ」

「失礼だんなぁ相棒。俺、こう見えてもきちんとやってる参謀組よ?」

「はいはい。――んで? もう入れるかどうかは、ほぼ決めてある感じなのか?」


 レイモンドは早々に『そちらの話』を切り上げて、ジーンへ話を振る。


「一度、話してみない事にはなんともなぁ」


 会おうという決断からは、先の調査上の身元や経歴に関しては問題がなかった、とは見て取れる。だが、最終的な判断は、やはり実際の話し合いで行うらしい。


 あとは本人の意思確認だ。当人の『中』に問題があるのならば、大事な起点の一角となる、今回の重要な任務の一端を加勢させる気はない。


「あっ、副隊長、警備隊の連中が来ましたよ!」


 後輩の服をしっかり掴んでいるニールが、テンションが上がって黒騎士部隊時代の呼び方で言った。勝手に迷子になってしまうヴァンレットは、先程から通っていく馬車や鳥に気を取られ、ふらりと足が向かうたび彼に引っ張り戻されていた。


 その状況を横目に見ていたポルペオが、巡回ルートの方へ目を戻した。


「――あれが、この町の警備隊の隊長、オルコット・バーキンスか」


 呟く彼の、太い黒縁眼鏡の奥にある黄金色の目が、すぅっと細められる。


 三十歳のオルコット・バーキンスは、切れ長の目をした凛々しい顔立ちの男だった。警備隊の軍服をピシリと着込み、姿勢良く巡回用の馬に乗る姿は様になっている。


 黒寄りの色をした髪、芯のある強さを宿したブラウンの目。腰には警備隊の質素なデザインの剣を所持しており、軍服の装飾だけで隊長格であるのを示している。


 その後ろには、同じように馬に乗った三人の若い部下を連れていた。全員、軍服の胸ポケットに、警備隊の大きな『希望の星』の所属バッジがあった。


「なんだか、仕事一本、という感じの(かた)ですわね」


 マリアは、オルコットという男を見た第一印象を述べた。


 同感だと言うようにレイモンドが頷く。


「結構隙がなさそうなところも、普段から訓練も怠ってない感じがする」

「報告書の通りの真面目な隊長、って感じだな」

「全て黒馬で揃えてあるのも珍しい」


 きちんと世話の行き届いている軍馬を見て、ポルペオが「今の御時世の中でも、警備隊をきちんとまとめている男なのだろう」と己の印象を口にした。


 確かに、と相槌を打ってジーンが思案気に無精鬚をなぞる。


 その時、一同の視線の先で、向こうで馬を止めてオルコットが降りた。騎乗中の一人の部下に手綱を預けたかと思うと、手短に報告と指示を済ませるかのように話し出す。


「ここから分かれるみたいですね」

「でも、次のスケジュールに向かうにしては早い気がする」


 呑気な目でじっと観察している中で、ヴァンレットが言って、続いてニールも発言し首を傾げる。


「確か最終ポイントを過ぎた先にある場所で、一旦馬を預けてからの別行動――じゃなかったっスかね?」


 外にはねた赤毛を揺らして、ニールが視線を投げて確認する。


 けれど他の上司組メンバーは、特に疑問を抱いていなかった。予定のちょっとした変更に関しては、なんら不思議でもないだろうと、マリアも前世の隊長時代の経験から思っていた。


「もしかしたら、少し別件を入れるつもりなんじゃありません?」

「俺もそう思う。あれだけ仕事をキッチリしているんだったら、その可能性も――おっと、早速動き出したか」


 向こうを見ていたジーンが、動向を注視して言葉を切った。


 オルコットが部下たちと分かれた。馬に乗って向こうへと進んでいく部隊員に背を向けた彼の姿が、正面から見えるようになって顔もバッチリ確認出来た。


 それを目にしたマリア達は、「おや」と揃って首を傾げた。真っ先にグイードが「なぁ」と疑問の第一声を上げる。


「なんか、このままこっちに向かってくるっぽくないか?」

「目線も真っ直ぐこちらに固定されている気がしますわね」

「つか、とうに目が合っているように感じるんだが……」


 真顔で告げたマリアの後ろで、レイモンドの口許はやや引き攣り掛けている。


 ポルペオが待ち構えるようにして腕を組んだ。ニールとヴァンレットが目を向けると、ジーンがその可能性を否定するように、すぐ笑って手を振った。


「ははっ、まさか。結構距離あるし気配も消してんだから」


 そう彼は言ったが、カラカラと笑った言葉は途中で途切れていた。


 オルコット・バーキンスが、どんどんこちらに向かってくる。開いていたはずの距離は、あっという間に縮まって、気付けば目の前まで来られてしまっていた。


 しばし、マリア達は建物の影から覗き込んだままの姿勢でいた。立ち止まった彼が、じーっと正面から見つめてくる。


 え。どうしよう、バッチリ目が合ってんだけど。


 マリア達は、予定外の事態でしばらく動きを止めてしまっていた。ヴァンレットだけが、笑っているみたいにも見える呑気な表情で、首をゆっくりと右へ倒していく。


「初めまして。国王軍の方々――ですよね?」


 すると確信ある声で、オルコットがそう確認してきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ