【書籍版4巻、発売記念SS】半台詞形式な「とりあえずの反省会と雑談」
≪4巻の発売記念SS ~大人たち&マリア~≫
【マリア】「――と、いうわけで反省会です」
【グイード】「いきなりだなぁ。何、お前らまたなんかしたの?」
集められた部屋にて、またしても沢山の椅子が持ち込まれて友人たちが集まっていた。その内の一つには、片足を楽に組んで頬杖をついているグイードがいる。
今回、部屋の扉には、何故かロイド直々の一筆で『友人限定』『大人のみ』『マリア』と参加者を限定する紙まで貼られていた。わざわざ『その他はお断り』とも書かれてあって、まるで何かを警戒して入れたくないといった様子だった。
【ジーン】「しでかしたのは俺じゃないぜ、――ニールとヴァンレットだ」
大臣衣装のジーンが、親指を向けて「フッ」と乾いた笑みを浮かべる。
【ニール】「副隊長ひどいっす! 俺、真剣に色々頑張ったと思う!」
【ジーン】「俺さ、その自信、どっから湧いて出てんのかマジで不思議なんだわ」
【ヴァンレット】「とくにこれといって問題はなかったと思います。ポルペオさんが会いに来てくれてましたね」
【ジーン】「あれ? おかしいな、木刀の決闘戦申し込まれたの、もう忘れてる感じ?」
【マリア】「ほんと、長い一日だった…………」
そこで会話が途切れる。
すると、ふわっふわの帽子の『獣耳』をぶるぶると震わせている男が、とうとうこらえきれないと言わんばかりにガバリと立ち上がった。
【謎の人物】「おいいいいいいいいいいいい!? このネタもういいだろッ、なんで俺の名前のところが引き続き『謎の人物』のままなんだよ!? いやもうさすがに名前表記でいいだろっ! それか肩書き表記にするとかさああああああ!」
【モルツ】「怒るか泣くか、せめてどちらかにされては?」
【謎の人物】「煩いって目を向けないでくれない!?」
【グイード】「マジ泣きするなよ……ほら、いい歳した大人なんだしさ」
【レイモンド】「あの、俺のハンカチ、借りるか……?」
レイモンドが、そっとハンカチを差し出す。『謎の人物』が「さすがレイモンドさんッ」「めっちゃいい先輩」と感激して言いながら、それをパッと受け取る。
チーンっと思いっきり鼻を噛んだところで、彼はハッと思い出したようにロイドを見た。
【謎の人物】「つかッ、なんでお前もああした!? いきなり俺に対して酷くない!?」
【マリア】「あ――そういえば、ありましたわね」
思い出したマリアも、なんでかなと目を向ける。
ジーンやニールを含むその他の友人たちが、一体何があったんだろうなと注目する。ロイドが、顔をそっとあちらへそらした。
【ロイド】「…………それ以上口にしたら殺す」
【謎の人物】「ボソッということじゃねーよ!?」
【ロイド】「……今思い返すと、俺にとって黒歴史だ………………。もう、いっそのことお前ごと抹消したい」
【謎の人物】「考え方が物騒! いや、やっぱもういい、うん、分かった、もう訊いて掘り返さないからっ!」
慌てて『謎の人物』が席を立ち、手をぶんぶん振りながらロイドから距離を取って後退する。そこで、また別のことを思い出したかのように「あ!」と叫んだ。
【謎の人物】「つか、またあんたの迷惑被ったんだけど!?」
【グイード】「何が?」
【マリア】「…………(なんとも言えない目を向ける)」
【ポルペオ】「なんだ、貴様らはまた性懲りもなく騒ぎを起こしたのか?」
【マリア】「なんでこっち見て言うんですか……。私ではありませんわよ」
【モルツ】「長い一日の原因も、お前自身のせいでは?」
【マリア】「お前が突撃してきたのも原因なんだが――おっほんッ」
ピキリと青筋を浮かべたマリアは、直後に気付いてメイドらしく戻す。
その時、ロイドが不機嫌マックスのオーラをまとった。ゆらりと『謎の人物』を見たかと思った直後――忽然と席から姿を消し、彼の胸倉を掴んでいた。
【ロイド】「つか、ざけんなよルーカス。なんで俺らまで犬耳帽子を被らないといけなんだ、あ?」
【謎の人物】「友は道連れって言うだろうがあああああああっ!」
びゃあびゃあ泣きながら『謎の人物』が怒って言い返す。
今、この部屋に集められた全員が、ふわっふわの獣耳が付いた帽子を被らされていた。マリアの物は、ご丁寧にもリボンが隠れない特注サイズである。
しかし、ここに集まっている誰もが、それについてはなんとも言えず大人しく被ったままでいた。大きなヴァンレットだけが「俺の頭にもぴったりだ」と、こちらもまた彼用の特注サイズの『面白帽子』に楽しげだ。
【ロイド】「くそっ、くだらん」
彼を解放したロイドが、ドカリと席に座り直して帽子を外そうとする。すると『謎の人物』が、椅子に向かいながら「あ」と言い、指を向けて教えた。
【謎の人物】「それ、レイモンドの奥さんからだぞ」
【ロイド】「…………(帽子から、そっと手を離す)」
あ、やっぱり大人しくなった、とマリア達はその様子を見つめていた。
【ロイド】「……………………あとで、礼を贈っておく」
すんごく嫌そう、と一同は思った。
その時、ニールがチラリと近くの椅子へ目を向ける。
【ニール】「というか、またいるんすね」
【国王陛下】「別にいいだろ。最新刊、俺も出てるし」
【レイモンド】「そうやって、アヴェインが楽に座って頬杖ついているのを見たら、宰相ベルアーノさんが卒倒しそうだな……」
【国王陛下】「俺は構わん(しれっ)」
【グイード】「相棒、ベルアーノならもう倒れてたぞ~。なんか転がってたから、さっきとりあえず救護班だけ呼んでおいたわ」
【レイモンド】「…………それでお前は、転がってるのを助けもせずに通り過ぎた、と……」
想像が容易について「え、嘘だろまさか」という目を向けるレイモンド。その視線を受け止めたグイードが、イイ笑顔でバッチリ親指を立てる。
【グイード】「まさにその通りだぜ!」
【レイモンド】「いや自信たっぷりに言うなよ! おまっ、馬鹿か、この馬鹿!」
【グイード】「いてっ」
途端にレイモンドが切れて飛びかかり、グイードに絞め技を掛けてぎゃあぎゃあ騒がしくなる。
【マリア】「相変わらずですわねぇ(ちょっと呆れている)」
【ヴァンレット】「うむ。レイモンドさんとグイードさん、いつも仲良しだな」
【モルツ】「お前の目と思考回路は、ほんとどうなっているのですかね」
向こうからモルツが指摘するものの、ヴァンレットは勿論聞いていない。
【ニール】「ヴァンレット、それ、俺がお嬢ちゃんに絞め技かけられてた時も言ってたよね……俺、マジで死ぬかと思った…………ん? というかさ、魔王がめっちゃ静か」
ふっと目を向けたニールが、そこで掌に拳をぽんっと落とす。
【ニール】「よしっ、こうなったら俺が後輩君を楽しませてやるぜ!」
【謎の人物】「え。それ、やめた方がい――」
そう止める声を振り切って、ニールが椅子から立ち上がってテンション急上昇の笑顔で駆け寄る。
【ニール】「おーいロイド! 俺の新作の手品見――ぐはっ」
ロイドが、無言でトドメをさした。ひっどい報告書を寄越されたことを、今になって思い出して、改めて自身の手でニールを床に沈める。
不意に、珍しくじぃっと真剣顔で黙り込んでいたジーンが、ガバリと立ち上がった。取っ組み合っていたグイードとレイモンドが、ピタリと止まって目を向ける。
【グイード】「なんだよ、いきなり立つなよ」
【レイモンド】「そのマジ顔、何?」
【ジーン】「ずっと考えてた、ニール達がほぼ毎日会えているのに俺の隣にマリアがいないとかおかしい。こうなったら、やっぱり大臣の右腕にしてもいいと思うんだッ!」
【レイモンド】「…………?(こいつが何言ってんのか分からん)」
【グイード】「突然何言ってんだよ。ダメだろ、マリアちゃんはメイドだぞ――」
【ジーン】「こうなったら直接聞いてくる!」
また突然の思い付きで即行動に移り、ジーンが「うおおおおおおおおッ」と駆け出して一旦部屋を出る。
~~~~~~
ジーンは本気の走りで廊下を駆けると、『アーバンド侯爵家、二名様』とある、別の部屋の扉を思いっきり開け放った。
【ジーン】「親友を俺の相棒にくださいっ!!」
(※気持ちが入り過ぎて色々言葉が足りない※)
【アーバンド侯爵】「…………(何言ってんだこいつ、みたいな作り笑顔)」
しばし室内に沈黙が落ちる。
紅茶を楽しんでいたアーバンド侯爵が、彼にしては珍しく長い間を置いて、それから一つ頷く。
【アーバンド侯爵】「よく分からないけれど、うん、却下だよね」
【執事長フォレス】「とっととお引き取りください」
フォレスは絶対零度の眼差しだった。
~~~~~~
ジーンは、とぼとぼとした足取りで部屋に戻った。
【レイモンド】「あ、戻ってきた」
【ジーン】「はぁ……。駄目だった(残念そうに溜息)」
【グイード】「そりゃそうだろうな」
【ポルペオ】「貴様、本当に馬鹿なのではないか?」
そんな男たちのやりとりに、マリアが遅れて気付く。
コンコン、と不意に扉から音が上がった。部屋にいた全員がピタリと静かになって、一体なんだろうとそちらへ目を向ける。
【令嬢】「こ、こんにちは……」
恥ずかしそうにして入室してくる。しかし、完全には踏み込めない様子で、入口の一歩目でもじもじとする。
【マリア】「………………」
【ロイド】「………………」
【謎の人物】「………………」
三人が同じ顔で黙り込んで見ている。
他のメンバーは、彼女を見つめたままそれぞれの表情で「?」と首を傾げた。
【ニール】「お~、ちんまい子だ!」
【モルツ】「……(同年齢の彼へ軽蔑の目を向ける)」
【レイモンド】「あれ? でもあの子って――」
【ロイド】「ひとまず退避だ」
そう珍しくレイモンドの台詞を遮ってまで、ロイドが真面目に切り出した。マリアと『謎の人物』も、退出すべく真面目な顔で、彼とほぼ同時に動き出していた。
【グイード】「? というか、あの子ってさ――」
【ロイド】「というわけで、任せたぞグイード」
【グイード】「何が?」
指示を投げられたグイードが、きょとんとした目を向ける。
【ポルペオ】「よく分からんが、わざわざロイドが張り紙までしていたのは、まさかコレが理由だったりするのか?」
【マリア】「なるほど……ようやく腑に落ちました(ぼそっ)」
【ヴァンレット】「?」
【国王陛下】「あ~……、なるほどな。俺も誰だか分かった」
マリアとロイドと『謎の人物』は、グイードだけを残す方向で、よく分からないでいる友人たちを含めてぐいぐい引っ張り、背中を押し、すみやかに裏口から部屋を出るべく動き出したのだった。
書籍版4巻、本日1/30(木)発売です!
※オブライト時代の書き下ろし番外編あり。