表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
190/399

二十六章 遊びたい大人達(3)

 大人数で回るよりは目立たずに済むだろう。とはいえ誘うのも勝手ながら、まずはついでの用を済ませてくるといって、こうして残されても困る。


 午前中、ぽっかり予定もないのも久々だ。


 そもそも、この面々でどうしろと……?


 マリアは、午前中の休暇を楽しめと言われてもなぁ、と呼び止めかけた手を下ろした。ジーン達の姿は、祭り会場内を進んで行ってしまい、あっという間に見えなくなっていた。


「気になるなら、終わる頃にでも見に行けばいい」

「まぁ、そうなんですけど……」


 声を掛けてきたロイドを振り返りながら、そう答えた。いつの間にか近くに立っている彼は、ジーン達が消えていった方に顔を向けたままだ。


 どうしたものか。そう思ってチラリと目を向けてみたら、ニールがすかさず挙手して「お嬢ちゃんッ付いていっていい!?」と訊いてきた。手を繋がれたヴァンレットも、期待たっぷりの表情で頷き返してくる。


 それをモルツが横目に見やる中、マリアはロイドの横顔を見上げた。


「ロイド様のひとまずのご予定は?」

「力自慢の男がきているらしくてな、どれほどのものか試してやってもいい。――自分が一番であると思いあがっているところを潰すのが醍醐味だ」


 相変わらずドSな楽しみだな……。


 今のところ、パッと浮かんだ時間潰しの一つがそれだったのだろう。マリアは目頭を揉みほぐしながら、のんびりと歩いて食べ歩きしそうにもない彼らについて少しだけ考えた。


「じゃあ、各々自由に回る感じでいいですかね」


 そう提案して顔を上げた。すると、ポルペオが説教顔で腕を組んだ。


「自由行動というのも賛成出来んな。貴様ら、本当に問題を起こさんだろうな?」


 疑い深く見つめられてしまい、困惑した。ここにはロイドやモルツ、ヴァンレットやニールもいるというのに、なんでこっちを真っ直ぐ見るんだと思う。


「まるで私も問題児みたいな言い方やめてくれませんか、ポルペオ様……」


 まるで一括りにされているようで心外だ。


 一同の視線を感じながら、マリアはそう思ってポルペオを見つめ返していた。じっと見ていると、やはりヅラ似合わないな、という感想で頭の中がいっぱいになってきた。


「――おい、私のどこを見ている?」

「いえどこも見ておりません」


 頭から目をそらし、集中力を戻してから言葉を続ける。


「じゃあロイド様をお願いしますね、ポルペオ様」

「待て。何故私なんだ?」

「この中で彼を止められる『まともなタイプ』は、ポルペオ様くらいしかいませんから」


 半ばやけになってそう言った。さすがに彼に全部押し付けるわけにはいかないし、元部下は引きうけるつもりである。先程のジーンのウインクにも『しばらく任せた』という言葉は見て取れたし、恐らくこっちは問題児二人組の面倒をみるので手いっぱいになってしまうだろう。


 するとロイドが、気に食わなさそうに眉を顰めた。だが何かしら思うところがあるらしい。それにしても、と眉を寄せてニール達の方を確認する。モルツも、珍しく『待機状態』の二人を横目に見やった。


「私としては、少しの間この人数を二つに分けるのは構わんが」


 ポルペオが「その方が目立たず動きやすい」と続けたところで、少し黙る。それから、実に疑問だと言わんばかりの表情を浮かべたまま、腕を解いて彼らに軽く指を向けた。


「一つ確認したい。その小さな身で、はたしてコレらを止めきれるのか? 言っておくが、こいつらは『私でもきかん』ぞ」


 唐突にそんな事を言われて、マリア「はぁ?」と顔を顰めた。ポルペオの言い分は、まるでロイド達の方がみるにた容易いし安全なのでは、と遠回しに告げているようだった。


 疑問を覚えて、元部下の二人組に目を向けた。ヴァンレットは、相変わらず笑っているみたいな顔で子供みたいな目をしているし、二十歳くらいにしか見えないニールも無害そうなワクワクとした表情でいる。


 すると、パチリと目が合った途端、超童顔の元最年少組部下の目が『もう喋ってもいいよね』と言わんばかりに、キラキラと輝いた。


「この流れからすると、お嬢ちゃんに付いていっていいんだよね!?」

「ポルペオ様が心配されているようなので確認しますけれど……、ちゃんと大人しく出来ます? チカン行為をするつもりなら一緒に回りませんわよ」

「大人しくするからッお祭り一緒に回ろう! 俺、こう見えて祭りって超得意なんだぜ。面白い飴玉も結構売ってるし、ゲームに勝てば無料とかお祭りの楽しみだよね! もちろん地方のも色々とあるけどさ、イベント数がこっちは半端ないよ!」


 思うまま熱く語られてしまった。そんなにお祭りが好きなのだろうか、とマリアは首を捻る。


「はぁ。なるほど……?」


 よく分からないが、楽しそうなのでまぁいいかと思った。続いてヴァンレットに目を向けると、こちらの話をきちんと聞くように頭を少し下げてきた。


「ヴァンレット、勝手にはぐれたり、一人行動で迷子になったりしたら駄目よ」

「うむ。『マリアが駄目というのなら』しない。だから一緒に行こう」


 彼の方も、ニールと同様にやらご機嫌な様子だった。


 揃ってにこにことしている子供みたいな元部下を前に、元上司として将来が心配になってしまう。あれから十六年経っているのにこいつら大丈夫なんだろうか、素直すぎて悪徳商法に引っかかりそうだなと思う。



「――…………心配せずとも、あなたの前だけですよ」



 モルツが小さく息を吐いて、口の中でそう言った。しかし上司の手前、聞こえる声では教えずに口を閉じる。


 マリアの方を思案気に見つめていたロイドが、ポルペオの顰め面に気付いた。どこか思い返すようにしていた表情を、そちらからそらすと「――行くぞ」と声を掛け、いつも通り勝手に足を進め出した。


「怪力男で暇を潰したら、――気が向いたら俺が直々に捜し出してやらん事もない。メイドの仕事も今は休みなんだ、せっかくだから少しは楽しめ」


 じゃあな、とそのまま目を向けず声を投げられた。


 昔の彼からは思い付かない台詞というか、どこか優しいとも感じる気遣いのようにも思えて不思議だった。


 マリアは、そこにポルペオとモルツが続くのを見ながら、片手を振る彼の背中に「そうですわね」と返した。残った者同士、それぞれの高さから目を向けて合わせる。


「……魔王、なんだかちょっと気持ち悪い」

「ニールさん、その感想はさすがに失礼ですわよ」

「ロイドは、いつもあんな感じだろう?」


 二人を見下ろすヴァンレットが、疑いもない無垢な眼差しで言う。


 それを見たニールが、ぶわっと目を潤ませて口に手をやった。


「犬属性のお前が俺は心配だよっ」


 このニールに心配されるヴァンレットが、こちらとしては余計に心配になるんだが……。


 やっぱり成長も進歩も見られないな、とマリアはつい十六年を頭の中で数えてしまった。ひとまず朝食も抑え気味で空腹だったので、ひとまずは「行きますわよ」と二人を促して、一緒に会場入りした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ